幕引きに向かう美浜3号事故調査の現状

幕引きに向かう美浜3号事故調査の現状

2005年3月3日(同3月4日・6日加筆)
藤野聡(スタッフ)

 

 2005年3月3日、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会「美浜発電所3号機二次系配管破損事故調査委員会」の第8回会合が開かれた。またそれを前に3月1日、関西電力と三菱重工からも調査報告が提出されている。
 今後、3月14日に福井市で事故調次回会合が開催され最終報告書(案)を提出、3月末に最終報告という方向で幕引きの段取りがなされている。いわゆる「高経年化(老朽化)対策」の失敗を示したこの事故の調査委員の多くは、審議会や学会における高経年化対策の議論を先頭にたってすすめてきた。
 新情報らしきこともあるが依然曖昧な点も多く、まだ終わりにできないのは明らかである。関電の報告書によれば破断箇所は、04年7月の大飯1号における基準値未満への減肉問題を受けた若狭支社からの指示の結果、未点検部位として抽出されていたという(これは事故直前の7月下旬から8月上旬のことであったが、美浜サイトから若狭支社への連絡はなされなかった-共同通信)。これは日本アームばかりでなく関電も、破断箇所が未検査・未取替であることを事前に認識していたということである。
 未検査であることを認識すればどうなるか。当然、減肉による配管の薄さ(余寿命)が気になる。そこで何らかの方法で(たとえば管理指針にもとづいて)肉厚を計算する。すると当該箇所が90年ころにはすでに基準値を下回り、現在ではペラペラの危険な状態にあるはずであることがただちにわかる。当然、運転継続の可否が問題となる。そして、その真下に作業員を入れることの是非も。内部で際どい議論があったことさえ想定不可能ではない。実際、関電が2003年10月に策定したという品質保証システムでは、検査漏れがわかったときには、管理指針による計算と、原子炉の停止を含めた検討をおこなうこととしていた。
 事故数日後から関電では厳しい緘口令が敷かれ、情報が出なくなったこともこの点と無関係ではないはずである。ところが関電の報告書ではこの「事前に余寿命をチェックしたかどうか」が書かれていない。肝心の点を避けているのである。あまつさえ3月3日の事故調では委員から「刑事捜査との関係もあるのによくここまで書いた」旨の発言まであった。どうしたら事故が防げたのかという問題意識を持ち続けていれば必ず問い質すべきはずのことを、事故調は議題にさえしなかった。
(3/16補足-事故直後の報道では、大飯1号問題後にわかったというのではなく、以下のようになっていた。「配管が未点検であることは、昨年4月に同社[日本アーム]社員から関電の担当者に相談していた……美浜原発に常駐する同社の技術系社員が昨年4月、関西電力の現場の担当者に未点検であることを相談。……日本アームは「過去の点検データなどに基づいて未点検場所はそれぞれが把握しており、現場担当者レベルでは、破損場所が未点検であることは分かっていたはずだ」としている」(共同通信2004.8.10)「破損個所が点検対象から漏れていたことは2003年11月、日本アームから美浜発電所機械保修課に連絡があった」(共同通信2004.8.11)「点検を請け負った会社「日本アーム」(本社・大阪市)が昨年11月、破損個所が同様の原発では交換・補修されているのに、これまで点検されていなかったため同発電所の機械保修課の担当者に点検を提案した。 この時に同発電所担当者は初めて検査漏れに気付いた。 担当者は、破損個所の前後にある配管曲折部と、同じ構造の美浜2号機にある同様配管の摩耗が少ないなどを理由に、破損配管部分も「大丈夫だろう」と漠然と判断したという」(読売新聞2004.8.11))
 一部では、「関電が[八月]十四日から予定していた同3号機の定期検査に際し、破損部を含む配管を点検・交換する計画を事故前に県や地元自治体に報告していた……関電は[八月]三日、県や美浜町、隣接する敦賀市に四カ月にわたる定検計画を説明。検査項目については、一次系の循環ポンプの点検▽事故のあった二次冷却系の配管を含む二系統の配管の点検と交換▽熱交換器の交換-などと説明。自治体関係者からは「事故が起きてみて、交換が含まれていたことを不自然に感じた」との指摘も出ている」(産経新聞2004.8.14)という報道さえあるのだ。
 いずれにしても事前の認識可能性の点では、大飯1号問題のあとの動きが決定的に重要である。関電による大飯1号問題の報告書「大飯発電所1号機 2次系主給水配管曲がり部の減肉について」は分厚く、重大に受け止めていたことは推定できる。それを受けて関電はどう行動したかの解明が不可欠だ。大飯1号問題がいつ発見され、どのような展開がはかられ、調査結果はどう集約されたのか。しかしたとえば「若狭支社からの指示」文書やそれへの回答文書は公開されていない。定検が間近いからと滑り込みセーフを狙ったのだろうが、この点のリアルな解明が決定的に不足している。
 また関電と三菱重工は、指針策定時のいわゆる「リスト漏れ」について、以下の理由をあげる。確定前の指針原案ではオリフィス部は主要点検の対象でなく最後に入った。また指針以前は流量計オリフィス下流部の全てが調査対象だったわけではなかった。また指針の反映作業をベテラン一人にまかせしかも一時的に忙しかったという。これらが各原発の共通要因だったとしても、その後、泊、敦賀、高浜、美浜(1号)で同様箇所の漏れが次々と発見され、是正されていた。なぜ美浜3号に限って放置され続けたのかはまだ釈然としない。
 また三菱は、管理指針策定により、「定期検査1回当りの点検箇所数はそれまでの1/3程度まで減少しました」としている(事故調に提出された三菱重工の報告書に、指針策定による点検数の大幅減少を示すグラフがある)。これは指針が「間引く」ためのものであったことを示しており、点検強化だったのか疑わしい。日本アームへの契約変更による外注費軽減とともに、事故への道の要所要所にコスト要因があったことを示唆している。
 なおリスト漏れに関連して、関電が「把握していない」(福井新聞2004年8月17日)として言及を避けつづけていた高浜4号と美浜1号でのリスト漏れについて、関電は今回の報告書でそれを認めた。しかしなぜ今まで認めなかったのかという経緯の説明はない。いずれも水平展開の可能性の点で重要であるが、高浜どころか同じ美浜サイトでの事象について反映されなかったということについてのリアルな説明もない(この2つは事故調でのリスト漏れ集計には入っていなかったので、事故調の集計は訂正されなければならないのではないか)。
 次に関電はA系・B系のうちA系が破断したことについて、強い旋回流がヘッダ部からの分岐部で発生していたという推定を示している。逆にいえば実際に事故がおこるまで関電はそのような要因の存在を重視せず、事故を招いた。これは並行して類似設計の配管がある場合に検査を間引いてしまうことの危険性を示しているが、実際には関電のみならず他の電力会社でも間引きは行なっているし、保安院も禁止していない。
 その他の点では、事故後にタービン駆動補助給水系バルブの一部分が閉固着となった問題について推定の理由(圧力差)を示している。A,B,CのうちA,Cが圧力差により開いてくれなかったのだが、Bが開いたのは水が漏れていたからというのである。またなんとか給水が維持された点に依存して、プラント挙動の安定を表明し、隔離の遅さなどが反省されていない。この点では3月3日会合で保安院も「二次系からの冷却水の流出量の多少が原子炉の安全性に影響を与えるものではない」(資料8-1)などと楽天的な姿勢を示している。給水がある程度継続したのは脱気器タンクがバッファとして機能したことが大きいが、それでも主給水はスクラムとほぼ同時に力尽きているし、給水は補助給水系に依存したがその弁には後述の問題があり、隔離弁の操作も極めて遅かった。しかし資料8-1は事故時の運転操作を「妥当」とし、流出量を低減したとしても「必ずしも事故被害の低減に直ちに結びつくものはなかった」とするのである。何としても原発冷却システム上の事故とは認めたくないという動機に出た文書であろう。
 関電が今さら発表したことはまだある。中央制御室にも蒸気が侵入し、制御盤でも火災報知器が作動するなどしていたというのである。これは計器や運転員への影響をつうじてプラント制御への致命傷ともなりえた(3/15補足・この件は2004年10月はじめに保安検査官が把握し、関電は12月に福井県に報告。しかし原子力安全委員会は3月にはじめて知ったという)。
 一方、関電は原因論とは別に再発防止策に関する報告書も提出している。しかし保安院は「実現に向けたプロセスが具体的に示されていない」と評価し、総花的で実現の保証がないとの批判が事故調委員からすら相次いだ。
 また保安院は、関電が技術基準を無理に解釈して補修・取替を先延ばしするなど「不適切な配管余寿命管理の常態化」があったことについて、「こうした問題が長年にわたり是正されずにいたことは重要な問題である」と指摘している。しかし「次回定検までの様子見」「点検対象の間引き」など、グレーゾーンの運用(その複合によって事故が起きた)は、どの炉にも共通していることが事故後の市民による追及によって明らかになっている。一例だけ示せば東京電力は、曲がり部の肉厚測定が困難であるという理由でその近傍の直管部(一般的には曲がり部より低い減肉傾向を示すであろう)の肉厚測定のみを行ない、しかもスケルトン図にはその直管部の肉厚を曲がり部のデータと称して記載するという運用を行なってきた(しかもこれは東電だけの事情とは考えがたい)。
 しかし保安院はたとえば福島第一原発5号における東京電力のきわどい配管管理について昨年10月7日の発表で是認した。また上述のとおり、2月18日に発表した配管管理に関する暫定的な通告においても、類推による検査の間引きを保安院は認めている。つまり問題は三菱や関電だけでなく保安院にも波及するはずのことだ。
 なお現在、日本機械学会には「配管減肉対応特別タスク」が設けられ、2005年9月を目途として配管管理方法の規格化がすすめられている。「発電用設備規格 配管減肉管理に関する規格」案は3月14日まで意見公募にかけられている。仕様規定から性能規定化の動きは配管管理の世界にも及ぼうとしているが、仕様規定のもとですら恣意的な運用が常態化していたなか、性能規定化をすすめればより際どい配管管理が横行するのではないかと懸念される。
 「実際には大丈夫だから」と称して基準を軽視していれば、より危険性の高い事例においても応用的な運用をしてしまい、事故を招く。しかし「実際には大丈夫だから」の論理は根強い。
 原子力業界は本当に変わったのか。報道によれば「実際に取材を通じて、今回の事故を軽く見る関電技術者たちの発言を何度も聞いた」(毎日新聞「04年末記者リポート」2004.12.29日野行介記者)という。とすれば、いくら再発防止策や安全文化を謳っても、今後も実態は伴わないのではないか。

■1
美浜事故調査委員会
www.meti.go.jp/committee/materials/g50303aj.html
www.meti.go.jp/committee/notice/0002746/0002746.html
www.nisa.meti.go.jp/mihama0000001.htm

■2
関西電力の発表
www.kepco.co.jp/pressre/2005/0301-1j.html
www.kepco.co.jp/pressre/2005/0301-2j.html

■3
三菱重工の発表
www.mhi-ir.jp/sp_news/050301_mihama/main.html

■4
日本アームの検査システム
www.narm.co.jp/nips/index4.htm

■5
保安院による暫定的な配管管理通告
www.meti.go.jp/press/20050218007/20050218007.html

■6
保安院「福島第一原子力発電所5号機の配管減肉管理について」
www.meti.go.jp/press/0005666/

■7
日本機械学会による配管管理規格の検討
www.jsme.or.jp/std/pgc/kouchi/PWTM_kouchi_annai.htm

■8
関西電力「大飯発電所1号機 2次系主給水配管曲がり部の減肉について」
www.nsc.go.jp/anzen/shidai/genan2004/genan053/genan-si053.htm

■9
福井新聞記事「高浜4、美浜1も点検漏れ 子会社が指摘、検査 関電美浜3号と同配管個所」
www.fukuishimbun.co.jp/mihamaziko/kiji2.htm#0817a

■10
Yahoo!News美浜3号事故
dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/mihama_nuclear_power_station/

■11
原子力資料情報室公開研究会資料「美浜原発3号炉配管破断事故」と配布資料
cnic.jp/40

参考
原子力資料情報室通信363号(美浜3号事故特集)・364号・365号・368号