日本原燃・ガラス固化体貯蔵建屋崩壊熱除去解析問題・続報
日本原燃・ガラス固化体貯蔵建屋崩壊熱除去解析問題・続報
■日本原燃と原子力安全保安院の対応について
原子力資料情報室は、2月10日、日本原燃と青森県に対して、ガラス固化体貯蔵建屋崩壊熱除去解析問題について、ウラン試験中止とこの問題に対する日本原燃の対応の経過を明らかにするよう要請を行った。公開情報と日本原燃、原子力安全・保安院等に対する聞き取りで明らかになった経過は以下の通りである。
2004年
10月29日 日本原燃が原子力安全・保安院に高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター「B棟」の設工認申請
11月16日 保安院が原子力安全基盤機構にクロスチェックを依頼
12月17日 原子力安全基盤機構から保安院に対して、「日本原燃の解析結果に大きな疑念(ガラス固化体の中心温度が500度超)」旨の報告
12月21日 ウラン試験開始
12月22日 保安院、日本原燃に対してこの問題に関する「照会」
12月22日 日本原燃は同日、メーカー(石川島播磨重工業)に再評価を指示
12月24日 石川島播磨から日本原燃に解析のミス確認の連絡。日本原燃は解析の誤りを確認し、石川島播磨を含めた体制でこの問題への対応を開始。約8900件の計算式、延べ約820件の解析コードの再検討に着手。この事実をホームページ上では、問題の4つの建屋で「冷却空気入口・出口形状の圧力損失の再確認」の作業を実施、処理中と報告
2005年
1月14日 原子力安全・保安院から日本原燃に『ガラス固化体貯蔵建屋B棟の崩壊熱除去再評価の指示(含再処理工場の3建屋)』
日本原燃は、ウラン試験を一時中止公表(実態は土・日の休日)
1月17日 日本原燃、ウラン試験再開公表
1月28日 日本原燃『再評価について』、保安院に報告。
すでに昨年12中旬から原子力安全・保安院と日本原燃の間で、問題の確認、対応のための作業等が開始されていた。保安院は「本当にミスか確認する必要があった」と釈明しているが、保安院の「照会」に対し、日本原燃は、2005年1月上旬、「確認」の連絡を行っている。また、ホームページ上でも、12月24日付けで「 冷却空気入口・出口形状の圧力損失の再確認 ー高レベル廃液ガラス固化 ー不適合ー 処置中」として、同日以来対応中であることを公表している。この間の経過が、1月14日の保安院の指示の際にも、1月28日の再評価報告の際にも、一切公表されていない。(12月24日付けのトラブルの公表自体、2005年1月末日である)
1月14日の保安院の指示を受けた日本原燃の兒島社長は、なぜ「すでにメーカーも含めた全社的対応をとっている」と、三上知事に報告しなかったのか? 保安院の井田審議官は、14日にわざわざ青森まで出向き知事と面会した時に、なぜ「照会もかけ、(ミスを)確認したので指示を出した」と報告しなかったのか。なぜ、ウラン試験開始前に、これらの事実を把握しながら、日本原燃と保安院は、一切公表しなかったのか。ガラス固化体の長期の貯蔵に、重大な安全上の問題を発生させる可能性の高かったこの問題に対する認識が、全く欠落した対応と断じざるをえない。日本原燃と保安院は、日頃から原子力の情報公開を積極的に行い政策の透明性を高めることを標榜してきたのであるから、この問題に関する経過の詳細を明らかにする重大な責任がある。
■ガラス固化体の熱に対する脆弱性について
高レベル廃棄物ガラス固化体の基質体(マトリックス)として使われているホウケイ酸ガラスは意外に熱に弱い。パイレックスとして普及している硬質ガラスは、熱膨張が小さいので、通常ガラス食器や理化学機器に利用されている。しかしそれは日常生活の温度範囲には対応するというもので、「最高使用温度490度」〈『化学大辞典』(東京化学同人)〉と記されている通りである.
六ヶ所のガラス固化体貯蔵施設の熱解析問題で、日本原燃が設計目標値を500℃としているのは、このためである。原子力安全委員会・原子力安全・保安院のこれら施設に対する許可処分、さらに現行設工認の解析値でも、ガラス固化体の中心温度は410?430℃、貯蔵部天井コンクリートの温度は65℃以下とされていた。ところが日本原燃が1月28日に公表した『再評価結果について』(以下『報告書』)では、「B棟」では500℃・91℃、ガラス固化建屋では463℃・77℃、「東棟」では519℃・101℃、「西棟」では624℃・136℃になるとする解析値が示されている。600℃を越える可能性も示唆されており、固化体の安全性に重大な問題を生じさせる可能性が高かったのである。
ガラス固化体の500℃の規制値、600℃を越える場合の問題について、1994年に原子力資料情報室の委託を受けてエドウィン・ライマン博士 (当時プリンストン大学)が書いた『高レベル廃棄物ガラス固化体の日本への海上輸送の安全問題』という論文から,ガラスの脆弱性に関する部分を引用する.
ガラス:ガラスの機能は,高レベル廃棄物を固定化する固体のマトリックス(基質体)を提供するというものだ.しかしガラスの温度が上がって,融点(摂氏1150度)ははるかに下であるが,転移温度といわれる温度領域(COGEMAのガラス固化施設R7・T7のガラスでは摂氏450?500度)を超えると,ガラスは固体よりもむしろ液体に似てくる.摂氏610度以上では,ガラスは結晶を生成しはじめ(これにより機械的強度と耐食性が減る),同時に,閉じこめておくべき放射性同位体を含む化学物質の動きやすさ(易動度)が増してくる.したがって,ガラスの最高温度を摂氏510度に保つという制限では,ガラスが不安定化しはじめるまでの余裕が100度もないことになる.
温度が摂氏500度程度でも,セシウムのような一部の放射性物質は,顕著に揮発性となる(表面から蒸発を始める).ガラスから揮発したセシウムは冷却されると,微小粒子となって,広く放出されるかもしれない.揮発性は温度とともに大幅に増大する.その1つの理由は,ガラスの内部から表面に放射性物質が移動しやすくなるからである.これが,通常時及び事故時に放射性物質が外部に放出されるおもな道筋である.R7・T7製と同様な組成をもつガラスを用いた実験室規模の実験の結果を外挿すれば,キャニスターが溶融ガラスを閉じこめておけると仮定しても摂氏1200度で毎時10キュリー(3700億ベクレル),1100度で約5キュリー(1850億ベクレル),1000度で約2キュリー(740億ベクレル)のセシウム137(Cs-137)の蒸発があると推定される.もし,ガラスがキャニスターの割れ目から溶け出すようなら,放出ははるかに大きい.この計算はたいへん大ざっぱなものである.というのは,ガラスの表面からの揮発というような性質はほとんどわかっていないからだ.もっと詳しい計算をするにはR7・T7のガラスについての特性値が必要だ.
少なくとも1つの実験は,高レベルガラス固化体の製造中に溶融炉(約摂氏1150度)に投入されたプルトニウムの0.062%が揮発したことを示した.この結果を一般化するほどのデータはないが,R7・T7製のガラスも同様に振る舞うとすれば,この放出量はきわめて重大である.
■関連情報
『東奥日報』
www.toonippo.co.jp/news_too/nto2005/0211/nto0211_7.asp
『デーリー東北』
www.daily-tohoku.co.jp/kakunen/news2005/kn050211b.htm
『読売新聞(青森版)』
www.yomiuri.co.jp/e-japan/aomori/news003.htm
『毎日新聞』
headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050210-00000136-mai-soci
■関連資料
【日本原燃】
*再評価について(2005/1/14)
www.jnfl.co.jp/press/pressj2004/pr050114-3.html
*12月24日の4建屋の確認作業について
www.jnfl.co.jp/daily-stat/000000-month/high-trouble.html 〈その他参照〉
www.jnfl.co.jp/daily-stat/000000-month/recycle-trouble.html 〈不適合の発生件数ー化学試験中80を参照〉
*『日本原燃熱解析再評価報告書』(2005/1/28)
*『日本原燃熱解析再評価報告書(概要版)』(2005/1/28)
www.jnfl.co.jp/press/pressj2004/pr050128-1.html
【原子力安全・保安院】
*再評価指示(2005/1/14)
www.meti.go.jp/press/20050114010/20050114010.html
*『日本原燃熱解析再評価報告書』(2005/1/28)
www.meti.go.jp/press/20050128004/20050128004.html