【原子力資料情報室声明】原子力安全文化は存在しない。あるのは経済エゴのみだ。―柏崎刈羽原発核物質防護措置機能喪失と東海第二原発差し止め勝訴をうけて―

原子力安全文化は存在しない。あるのは経済エゴのみだ。―柏崎刈羽原発核物質防護措置機能喪失と東海第二原発差し止め勝訴をうけて―

2021年3月18日

NPO法人 原子力資料情報室

 3月16日、原子力規制委員会は、東京電力の柏崎刈羽原発で核物質防護措置機能が一部喪失していたとして核物質防護に関する4段階の評価の中で最も深刻な赤にあたるとの暫定評価を示した。3月18日には、水戸地裁が日本原子力発電(日本原電)の東海第二原発の運転差し止めを命じる判決を下した。

原子力規制委員会の資料によれば、東京電力は柏崎刈羽原発において、2020年3月以降、複数箇所において不正な侵入を検知できない可能性がある状態となっており、不正な侵入を検知できない可能性がある状態が30日を超えている箇所が複数あったとされている。また、2018年1月から2020年3月までの間においても、同原発の核物質防護設備の機能の一部喪失が複数箇所で発生し、復旧に長期間を要していたという。東京電力は2011年の福島第一原発事故は言うまでもなく、2002年に発覚したトラブル隠ぺい事件も引き起こしている(隠ぺいしていたトラブル自体は1986年以降)。東京電力は、安全を守れないどころか、核物質という危険な物質を取り扱う資質すら持ち合わせていないことを、自社の行いから立証してきた。

東電福島第一原発事故後、事実上国有化された東京電力が巨額の支援を行って支えてきたのが日本原電だ。同社は1957年、9電力および電源開発などの出資によって設立された原子力発電専業の卸電力会社だが、同社の東海第二原発は2011年の東日本大震災で被災し、その後10年間運転できないまま今日に至っている。ほかに敦賀原発2号機を有するが、これも2011年以降稼働できていない。つまり、売電によって売り上げを立てるはずの同社は、この10年間ほぼ何らの価値も生み出してこなかった。にもかかわらず、東京電力・関西電力・中部電力・東北電力・北陸電力の5社は同社に対して、電力料金として、年間平均1200億円、2011~2019年の総額で1兆円超を支払っている。こうした費用は当然のように電気料金に加算されている。電力各社は企業としての経済合理性を投げ捨てて同社を支援してきた。

しかし、もはやこれまでである。日本原電は東海第二原発の工事完了予定を2022年12月としているが、周辺自治体から再稼働の了解を得られるかどうかは不明確だ。今回の判決要旨は「避難計画等の第5の防護レベルについては、本件発電所の原子力災害対策重点区域であるPAZおよびUPZ(概ね半径30km)内の住民は94万人余に及ぶところ、原子力災害対策指針が定める防護措置が実現可能な避難計画及びこれが実行しうる体制が整えられているというにはほど遠い状態であり、防災体制は極めて不十分」だと判断しているが、これはまさに正鵠を射た指摘だろう。

また、当室の分析では、東海第二原発の発電コストは2022年再稼働の場合でも15.9円/kWh以上であり、この額は稼働時期が延びれば延びるほど高くなる。どのようにしても、同社の経済性のなさは明らかである。経済性の欠如は、当然同社の原発の安全性にも大きな影響を及ぼす。

東京電力は柏崎刈羽原発の再稼働を前提とした経営再建策を描いてきた。日本原電は東海第二原発の再稼働は同社の存在意義に等しい状況となっている。いずれも周辺住民へのリスクは置き去りに、自社の経済エゴを全面に押し出してきた。

東京電力福島第一原発事故やチェルノブイリ原発事故、スリーマイル島原発事故、世界で3回(数え方によっては5回)引き起こされたシビアアクシデントのいずれもから、その根本的な背景には関係者の原子力に対する恐れの欠如を読み取ることができる。事故や不祥事の度に、繰り返し「原子力安全文化」の強化がうたわれてきた。しかし、そのまさに当事者である東京電力でさえこのありさまである。東海第二原発についても事実上、実効性のある避難計画が策定出来えないにもかかわらず再稼働を求めてきた日本原電、それを後押ししてきた他の大手電力や国にかんしても、もはや、原子力安全文化は存在しないというべきである。このような国・事業者に原子力を取り扱う資格は存在しない。即刻原子力から撤退するべきだ。

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