【原子力資料情報室声明】東日本大震災から十年、 あらためて、原子力発電の正当性を問う

東日本大震災から十年、あらためて、原子力発電の正当性を問う

2021年3月10日

NPO法人 原子力資料情報室

10年前の3月11日、午後7時3分に発せられた「原子力緊急事態宣言」は未だ解除されない。そのうえ現在は、新型コロナウイルスのパンデミックによる「緊急事態宣言」のもとにある。

行方不明者を含めて2万2千名にのぼる死者の方々、いまも苦難を強いられている被災した方々、また、住みなれたふるさとを離れて避難せざるを得なかった方々に思いを馳せるとき、原子力発電の罪深さを思わないわけにはいかない。

あの大震災の悲惨さは、巨大な地震と大津波に加えて、東京電力福島第一原発の3基の爆発が広範な放射能被害を引き起こしたことにある。「明るい未来のエネルギー」と子どもたちにも信じ込ませた原子力発電というシステムが、底知れない災厄をもたらしたのだ。

まず確認しておきたい。東京電力福島第一原発事故は何が原因で、どのように起こり、事故が進展し、諸機器が損傷し、爆発はどこでどのように起こったか、全貌は解明されていない。国会事故調報告をはじめ、5つの事故報告書、その後の新潟県技術委員会による7年余にわたる検討でも、数多くの不明事項が残った。最近の原子力規制委員会による事故分析の中間報告では、新たな謎も加わった。原発事故の複雑さが原発の恐ろしさを教えている。

そして、東京電力はこの事故のあと始末を成し遂げることができるか、大いに疑問だ。福島第一、第二あわせて全10基の原発を廃炉にすると決めたが、いつまでに、どのようにかを示すことができない。とくに、メルトダウンした第一原発の1、2、3号機の廃炉工程と廃炉の内容とを決めることはできないままだ。経験したことがない実験の連続である。うまくゆく保証はない。現場の放射線レベルが高く、検証も作業も困難を極めている。いまも建屋から大気中に放出されている放射能は、毎時2.4万ベクレルもある。

融け落ちた燃料デブリを取り出すことは不可能であろう。チェルノブイリにならって、百年単位で放射能の減衰を待つほかはない状況である。敷地内に溜まっている大量の放射能汚染水を薄めて海に放出するならば、取り返すことができない環境汚染を引き起こす。オリンピックを招くために「コントロールされている」と前首相が断言したが、まったくの虚言である。地上保管し、放射能の減衰を待つ実際的な方法が提案されているが、国は検討しようとはしない。

かつて原子力発電は、「安価で」「クリーンで」「安全だ」とうたわれたが、間違っていた。本当は、最も「高価な」発電方法であり、「汚くて」、「危険である」ことが判明した。

もはや、原子力への期待はない。信頼も失われた。しかし閉じた政官財学の原子力業界で議論している限り、いつまでも現状にしがみつこうとするだろう。事故から10年、いつまでもこのような状況を続けているわけにはいかない。国民的な議論を始めなければならない時だ。

以上

『原子力資料情報室通信』第562号(2021/4/1)に掲載

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