科学的特性マップ公表 その問題点と今後

『原子力資料情報室通信』第519号(2017/9/1)より

科学的特性マップ公表 その問題点と今後

筆者は総合資源エネルギー調査会の放射性廃棄物ワーキンググループ(以下廃棄物WG)の委員として議論に係ってきたのだが、改めてマップを見つめ、また、すでに寄せられた意見も含めて、考えるところを以下に述べたい。
7月28日に最終処分関係閣僚会議は科学的特性マップ(以下、特性マップ)の内容と公表を決定し、同日に経済産業省、原子力発電環境整備機構(NUMO)、電気事業連合会のそれぞれのホームページで公開された。マップは200万分の1の全図と全国を5区に分けた地図、要件・基準ごとの地図と説明文などで構成されている。すでに本誌515号で要件・基準の内容は報告したが、それを地図に落とした結果である(本号表紙は1色刷りに加工した)。

何のためのマップか
この議論が始まった2013年は、処分地選定を大きく前進させるために、政府が科学的有望地を提示して集中的な理解活動を展開し、文献調査を申し入れるという方針だった。しかし、各地でのシンポ等を通して、早急な合意形成は難しいことが分かったのか、特性マップ公表を決定した最終処分関係閣僚会議によれば、特性マップ提示は処分地決定を迫るものではなく「最終処分実現のための長い道のりの一歩」と位置づけた。としながらも「取組を一層強化し、複数の地域に処分地選定調査を受け入れて頂くことを目指す」としている。
具体的には政府とNUMOは特性マップを活用した全国各地での説明会をこの10月にも開催する計画だ。同会議の資料によれば、政府は「大都市部を含めた全国的な対話活動、自治体への緊密な情報提供や地域支援のあり方に関する検討などに取り組み、地域における検討が着実に進められる環境を整える」としている。廃棄物WGやシンポでは、地域の判断を暖かく見守るといった表現もあり、深読みすれば、地域の自主的判断に対して周りが反対して騒ぐな、ということだろう。
一方、NUMOは沿岸域20km内(グリーン沿岸部と呼んでいる)を中心に「重点的な対話活動にきめ細かく取り組む」としている。廃棄物WGに提出されたNUMO資料によれば、対話活動計画を策定(未公表)し、それに基づき少人数の対話活動をきめ細かく展開するようだ。グリーン沿岸部に該当する自治体はおよそ900ある。それらの自治体を中心に対話活動に取り組むのだろう。特に、地層処分に対して態度の明確でない若い世代を中心に対話活動を進めたいようだ。

「科学的特性」の科学性に疑問
「輸送の面からも好ましい」とされた地域は沿岸から20kmの範囲内である。輸送物の重量としては100トン程度であるから、専用道路を建設しないと輸送できず、車両の可能な時速を考えるとその程度の範囲かもしれない。しかし、それ以外の方法はないのか? 例えば鉄道輸送が考えられるし、また、輸送回数は増えてリスクが高まるとはいえ、一般公道を走行できる重量25トン以下に小分けして20km以遠に運搬することは不可能ではない(この点は廃棄物WGでも発言した)。「好ましい特性が確認できる」地域から応募があれば、どう対応するのか?
他方、例えばリアス式海岸地域では接岸の困難さや地上施設建設の困難さなどが考えられるが、そういった地域を含めて一律20kmとしている。そういった個別事情は文献調査段階での検討とされている。しかし、文献調査段階で排除される可能性の高い地域は予め選ばないようにしたのが、マップの本旨であるのだから、全国的に整備されている地形図を基に、より科学的に検討した要件・基準を定めても良かったのではないか。
予め検討しておくべきだったと考えるもう一つの疑問点は火砕流の影響範囲である。操業時の安全性の確保の観点から、回避が好ましい範囲として「完新世の火砕流堆積物・火山岩・火山岩屑の分布範囲」を要件・基準としており、マップを作成時に参考にした資料は産総研地質調査総合センター発行の20万分の1のシームレス地質図としている。
完新世とは1万年前以降の時代区分で、マップに事例としてあげられているのが富士山だ。しかし、影響範囲が圧倒的に広い鬼界アカホヤ噴火を考慮すべきだった。この噴火は7300年前に起き、噴出物総量は170km3と評価されている。場所は薩摩半島から南へ50kmほどの海底にあり、鬼界カルデラと呼ばれている。この巨大噴火時の火砕流は<RUBY CHAR=”幸屋”,”こうや”>火砕流と呼ばれ鹿児島県の薩摩半島および大隅半島の大部分を覆ったとされる。
このことは九州電力が規制委員会に提出した川内原発の再稼働審査資料(2014年4月23日)にもはっきりと示されている。もっとも九電は運転期間中には噴火しないとしているのだが、マップはあくまでも「分布範囲」としている以上、これに基づいて「好ましくない特性がある」範囲を書き込むべきではなかったか。
実は、地層処分技術ワーキンググループ(以下技術WG)では地下深部の議論が中心で、地上施設建設時や操業時の安全確保についてはほとんど議論されてこなかったし、技術WGではNUMOが提案して、少しコメントが出る程度だった。技術WGメンバー以外の専門家によるマップのチェックが必要だ。

政治的配慮は妥当か
マップや付随する資料には示されていないが、世耕弘成経産大臣が7月28日の記者会見で、質問に答えて青森と福島では理解活動しないと述べた。青森は最終処分地にしないという約束がその理由である。福島は、「事故の終息と復興に全精力をかけて取り組んでいるところ」であり「相応の配慮が必要」で、「これ以上の負担をお願いする考えはない」が理由だ。 なお、地域候補地から除外するのかとの質問に対しては、マップ提示という今の段階で決めるものではないと微妙な言い回しをした。こうした、政治的配慮の公平さを疑わざるを得ない。
すでに公的に受け入れを拒否している自治体が少なからずある。例えば、北海道では高レベル放射性廃棄物の処分地は「受け入れがたい」とする条例があり、筆者の知る限り、経済産業省が2度にわたって“政府から申し入れることはしない”と発言している。岐阜県も受け入れを拒否、また岡山県も県内全自治体が受け入れ拒否を表明している。市町村レベルで拒否条例を制定しているところもある。こうした自治体に理解活動や対話活動を展開するのだろうか?

マップ提示を受けて
マップ提示を契機に拒否条例を制定する自治体は増えていくと考えられる。政府が“議論のきっかけ”だといっても、内実は現行の地層処分計画に対する理解活動で、対話の結果として政府やNUMOが現行の地層処分政策を見直すものではない。政府もNUMOも信頼されていないから、処分地を決めるものではないと言っても、衣の下に鎧が隠れている目で見られている。そのような対話=理解活動より、まずは、現行の処分計画の技術的な側面だけでなく、原子力政策との関連の中で処理・処分を議論していく必要がある。すなわち、廃棄物の発生総量を確定させる議論を進めた上で処理・処分を議論する機会としたい。いずれ処分場から環境に放射能が漏れ出ることは政府が認めているところで、原子力の恩恵をなんら受けない将来世代に被ばくのリスクを残すことは倫理的に許されない。
(伴英幸)

科学的特性マップはNUMOのサイトからも見ることができます。
www.numo.or.jp/kagakutekitokusei_map/detail.html