原子力小委員会参加記⑩ 公開陳情―公正性と透明性

『原子力資料情報室通信』第604号(2024/10/1)より 

 8月20日、第40回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会 原子力小委員会が開催されました。テーマは①原子力に関する動向と課題・論点について、②60年超の運転についての審査基準について、でした。テーマ1では、事務局説明のほか、電力中央研究所(電中研)から、欧米での原発に対する資金的な支援策、電気事業連合会(電事連)からは原発に対する国の支援の必要性、原子力エネルギー協議会(ATENA)からは、革新軽水炉の現状についてのプレゼンテーションがありました。
 電中研は大手電力と電源開発・日本原電のシンクタンクで、ATENAは原子力事業者と原発メーカーなどの連合体です。つまり、この回は原子力産業界の公開陳情だったと言えます。注目するべきは、この回を設定した経産省の意図です。電事連は、国の支援がなければ、原発の新設どころか、既設原発の再稼働すらおぼつかないと主張しています。その理由は原発事業の予見性の無さです。例えば原発新設に要する巨額の投資、その後の安全対策工事費などの投資回収に予見性がなく、廃炉・再処理などは不確実性があり、事故時の賠償が無限責任のため不確実、すでに原発の安全対策に巨額の投資を行っており、これ以上の資金調達が厳しい、と主張しています。 
 これらの点について、まだ経産省は対策を示しません。ただ岸田政権が定めたGX基本方針では、2030年代に革新軽水炉の建設・運転開始という線表を示しています。そのため、これを実現するための原発新設支援策が必要となります。そのカギとなるのが、電中研が説明した海外の原発支援策、中でも英国の「規制資産ベース(RAB:Regulated Asett Base)」です。

 この制度は、建設から廃炉までにかかるすべての費用を積み上げたうえで、これに収益を上乗せたものを規制料金で回収するというものです。もし建設費などの費用が上昇した場合、その分も回収できます。かつての総括原価方式と同じで、事業リスクはすべて消費者に押し付けることができます。きわめて問題だらけの制度です。
 そこで、私は以下の通り意見を述べました。

■総論
今回、さまざまご説明いただいたが、要するに、原発に経済性は無く、国の支援や国民負担がないと進められない電源であるということだ。もしさらに原子力を支援したいというのであれば、経産省はたとえば原子力を増やした場合と再エネを増やした場合で、国民負担やCO2削減はどう違うのか、またRE100をサプライチェーンも含め求める産業への影響などを示すべきだ。また、今回の小委員会は、新設・既設原発への支援策がテーマとなっていると理解したが、日本には電源三法交付金など多くの原発支援策がすでに取られている。全体像が見えないなかでの原発支援策の検討は、過剰な支援になる。議論の前提として経産省には、原子力への支援の全体像と規模感を示してほしい。

■原発新設支援について
 RABモデルを導入した当の英国政府が2010年段階でRABモデルが効率性やイノベーションの推進につながる市場や競争圧力のメリットをすべて犠牲にするものと考えていた。もしRABモデルを導入すれば、原発のために電力自由化を大きくゆがめることになる。また資金調達コストがRAB導入で引き下げられるという説明だったが米ボーグル原発でそうだったように、原発の建設コスト自体も大幅に上昇したという現実があるなかで、どこまで原発コストが下げられるかは疑問だ。もしRABモデルについて議論するのなら、その前に、経産省には、これがどの程度価格引き下げ効果を持つのか、日本に則して示すべき。

■原発経済性
 電事連の説明は、要するに私企業が経済競争力のない原発を進めるために、国民負担を求めていると理解した。たとえば、一般企業が工場に投資したとして、建設中のキャッシュ負担や工場操業終了後のリスクを誰かに補填してほしいという話が通るか、という話だ。日本初の商用原発である東海原発が運転を始めてからもう60年近く経過したが、いまだにこのありさまなのであれば、それはやめるべき事業である。

■S+3E
 ATENAの資料は冒頭で原子力はS+3Eに適合する電源だと説明している。新しいエネルギー基本計画でも同様の記述がされると思うが、原子力の経済性が失われていることは今日の説明でも明らかだ。環境適合性も、事故から13年経った今も福島に帰還困難区域が300平方km、すなわち東京23区のおよそ半分もあるということ一つとっても不適当だ。また
CO2排出削減コストは再エネの方が原発の数倍小さいとIEAが示していることから、本当に適合するのかは他電源と比べて比較衡量するべきだ。さらに、一番大事なSも、年明けの能登半島地震や懸念される南海トラフ巨大地震の影響、さらにはウクライナ戦争における原発の状況などなど、本当に安全と言えるのか。国民の懸念は払しょくされていない状況だ。国民の原子力発電に対する信頼を確保する責務が国にはあり、それがない状況での原発推進は許されない。

■運転期間延長
運転期間延長の条件に「非化石エネルギー源の利用促進を図りつつ、電気の安定供給を確保することに資すること」とされている。経産省からは「法律の規定をもって判断可能な状況にある」との説明があったが福島第一原発事故から13年、多くの原発が未稼働のままで電気の安定供給確保に資することができていないという現実がある。かりに再稼働できたとして、将来また同じような事故がないとは言えないはずだ。つまり、原子力が電気の安定供給に資するかどうかは確定的には言えないため、実質的な審査が必要だと考える。また、延長期間についてはグレーゾーンが出ないよう、具体的ケースを示してほしい。

■会議運営に対する要望
 原子力小委のYoutubeは非常に聞き取りにくい。改善してほしい。また、是非以前のように市民が傍聴できるようにしていただきたい。
 原子力小委員会には電中研から朝野賢司副研究参事、電事連から水田仁関西電力副社長が参加しています。また原子力産業協会の増井秀企理事長も委員として参加していますが、原産協会の理事長はずっと東電から選任されています。増井氏も東電の執行役員・原子力・立地本部副本部長です。水田氏は電事連のプレゼンテーションと全く同趣旨の発言を、増井氏は産業側の要請という体で発言していましたが、結局のところ電事連の主張でした。電中研の説明は海外の事情説明であり、委員として朝野氏が意見を述べるのはまだ理解できます。ですが電事連の説明は国への要求でした。電事連、原産協会からの委員は専門委員と言って、業界から参加している委員です。その両者が発言すること自体に大きな違和感を覚えました。また、ATENAの説明の半分は三菱重工の「革新」軽水炉SRZ-1200の宣伝でした。なぜこの話を聞かないといけないのかという気持ちになりました。
 電中研のプレゼンテーターは服部徹研究参事でした。服部氏は2022年の論文の中で、RABは総括原価方式であると何度も指摘しています。この点について確認したところ、総括原価方式といえばそうだが、いろいろ改良されている、また英国がかつてRABを否定していたのは事実だが、そのころとは状況が違う、という回答がありました。また、経産省からはYoutubeの音声を改善するとのコメントがありました。   

  (松久保 肇)

40回原子力小委員会の資料・動画はこちらから確認いただけます。
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/040.html

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