原子力小委員会参加記⑦ 原発は自由主義経済の否定か?

『原子力資料情報室通信』第596号(2024/2/1)より

 2023年12月11日、第7回革新炉WGが開催されました。テーマは「GX における次世代革新炉の動向・次世代革新炉の検討課題」という漠然としたものでしたが、主に「GX実現に向けた専門家ワーキンググループ」で議論されている分野別投資戦略の原子力部門についてでした。
私は以下の意見を発言しました。
■本WGで繰り返し発言してきた通り、これまで巨額の国費を投じながら新型炉開発に失敗したのは、結局のところ、その炉型へのニーズが存在しなかったからだ。今回の開発でも、ニーズが見えないままに見切り発車している。キャンセルになったNuScaleの小型原子炉案件はこの好例だ。国家が巨額の資金援助を行って導入を推進しても、経済性が無ければユーザーはついてこない。さらに、海外の原発建設へのパーツ単位での参入に期待を寄せてい
るが、各国とも国産化率の向上を目指している。
■原子力産業が直面する苦境を福島第一原発事故のせいにしているが、長期的に見れば、全く異なる。
■高速炉には高速炉開発会議があるが、高温ガス炉にはそれに相当する会議体が存在しない。高速炉よりも高温ガス炉のスケジュールが早いので、早急に検討するための会議体を設置するべき。
 委員発言で興味深かったコメントをいくつか
• 原子力への補助:永井委員(電中研)長期脱炭素電源オークションでは原子力のリスクは回避できないので、別の手当てが必要。中熊委員(電事連原子力部長(東電))原子力は初期投資だけではなく、運転時の費用回収もあるので、そこの手当ても欲しい。
• 高温ガス炉の問題:高木委員(東京都市大、原子力工学)高温ガス炉を水素製造に使うには相当大量に導入する必要がある。また燃料は再処理が難しく、ウラン濃度も高いので、資源消費が多くなる。
 12月19日、第37回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会が開催されました。テーマは原子力政策に関する直近の動向と今後の取組と人材育成、自主的安全性向上で、事務局からのプレゼンテーションのほか、文科省の原子力人材育成の取り組みや、原子力事業者がつくった自主的な安全性向上組織ATENAの取り組み事例について報告がありました。
私は以下の意見を発言しました。
■廃炉推進機構の業務に、廃炉に関する指導・助言・勧告が増えた。廃炉を適切な基数、適切な時期に実施できるように調整し、経産省も配慮してほしい。また機構の資金状況は積極的に情報公開してほしい。
■原子力産業のサプライチェーン維持・強化が主張されているが、規模感や国がどこまでやるのかが見えない。私は原発をなくしていくべきと主張しているが、国の方針に即しても産業規模をこれまで同様に維持することは不可能だし合理的でもない。
■新しいエネルギー基本計画の検討では、複数のシナリオを提示したうえで、審議会だけではなく、国民的な議論のもと取りまとめていただきたい。
 複数の委員から、革新炉WGと同様、長期脱炭素電源オークションは原子力を維持するには不十分なので、より支援が欲しいという意見、中には英国のRABモデル(Regulated Asset Base、かかった費用は電気料金に上乗せして全国民から回収できる仕組み)を参照すべきという意見がありました。また、佐藤委員(拓殖大、安全保障論)から、これまで原発の長期稼働は申請ベースだったが、今後は長期稼働を命令するということも考えるべきではないかという発言が出ました。
 原発の経済性の無さが明らかななか、国家資本主義的な願望が透けています。 

    
(松久保 肇)

 

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