空想から妄想へ あまりに非現実的な原発増設計画

『原子力資料情報室通信』第582号(2022/12/1)より

 8月24日、第2回GX実行会議(GX:グリーント ランスフォーメーション)で岸田文雄首相は、次世代革新炉の開発・建設、既設炉の再稼働、寿命延長、再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化という4 つのテーマについて、年末までに検討するよう、経済産業省や与党に指示した。2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故以来の原子力政策を大きく変更するものだ。

 GX実行会議では、脱炭素の2050年までの達成や、エネルギー安全保障などの観点から、次世代革新炉の新設方針が示されている。一方、経産省の審議会「革新炉ワーキンググループ」では、革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合炉の5つの炉型を革新炉として示したうえで、最も実現可能性の高い革新軽水炉について、建設開始時期を2030年代前半、運転開始を2030年代半ばとして示した(図1)。

図1 革新軽水炉の導入スケジュール案

 

 では、原発を新増設するとして、いったいどの程度の増設を考えているのか。原子力小委員会の山口彰委員長は、「60年運転でも、2060年ぐらいになると国内の原発は5基程度になります。(エネルギー 基本計画に書かれている)20~22%の原子力比率を保とうとすれば、その頃までには25~30基ぐらいは新しく建てないといけない。」(朝日新聞2022 年10月18日)と目安を示している。では、2030年と2050年、2060年の原発は実際のところ、どうなるのだろうか。標準的な出力100 万kWの原発が設備利用率70%で1年間運転した場合、約60億kWh、80%の場合は約70億kWhとなる。これをもとに政府の目標値を達成するために必要な基数を計算した。

 2030年の値は簡単だ。政府がすでに数値を示しているからだ。発電電力量9,340億kWhに対して、原子力は1,880~2,060億kWhとされている。これを満たすために必要な原発基数は約26~33基ということになる。現存するすべての原発が再稼働でき、すべて60年稼働した場合、2030年時点に残る原発は36基(建設中3基を含む)だ。この目標の達成は極めて厳しいことがわかる。一方、2050年となると、政府が数値目標を明確には示していないため、若干の検討が必要になる。2021年のエネルギー基本計画の検討過程で、経産省は、総発電量1.3~1.5兆kWhに対して、再エネ50~60%、原子力とCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)付火力を合わせて30~40%、水素やアンモニア火力発電を10%にする見通しを示した(2020年12月21日第35回基本政策分科会資料1)。ここで問題になるのはCCUS火力が どれだけ導入できるか、ということだ。

 経産省のCCS長期ロードマップ検討会「中間とりまとめ」(2022年5月)によれば、2050年における年間CCS貯留量は1.2~2.4億トンとされる。ここには発電分と産業分が含まれている。一方、地球環境産業技術研究機構(RITE)が基本政策分科会に提出した推計によれば、総発電量1.35兆kWhを前提にした場合、CCUS火力比率23%の時に排出するCO2は年約1.4億トン、全体の年間CCS貯留量は3.2 億トンだ。これほどのCCS貯留が可能かどうかという根本問題はさておき、全体CCS貯留量と発電部門の差分を産業需要とみた場合、1.8億トンが必要になる。これを中間とりまとめの数値と照らした場合、1.2億トンでは産業部門分も補えず、2.4億トンでも0.6億トン分しか余らないことになる。中間とりまとめの数値を産業と発電で折半すると仮置きすると、発電部門の排出可能量は0.6~1.2 億トンになる。RITE試算に基づけば、火力発電1億 kWhあたりのCO2排出量は4.5万トン。つまり、火力発電の発電可能な電力量は1,330億~2,661億 kWhだ。これを2050年の総発電電力量1.3兆~1.5 兆kWh、原子力+CCUS火力比率30~40%に照らして試算すると表1となる。

表 1 CCUS火力の発電電力量をもとにした原発比率等の推計

 

 現存するすべて原発が再稼働、60年稼働した場合、 2050年に残る原発は23基、2060年には8基となる。一方、必要になる原発基数は1.3兆kWhの場合で18~65基(120万kW原発の場合15~52基)、1.5 兆kWhの場合で26~78基(同22~63基)になる。きわめて幅が大きくあまり参考にならない数字だが、CCUS火力が20%導入できた場合で、原子力が10% だった場合、つまり再エネを60%導入できた場合は、原発の新増設は不要となるが、それ以外のケースでは原発の新増設が必要になることがわかる。

 CCSは極めてコスト高で、海外で実施されているCCSのほとんどは油田などへのCO2圧入により増産をはかることでようやく経済性を確保している。また大量にCO2輸送船が必要になる。CCS適地の問題もあり、きわめてハードルが高い。そうしたことを踏まえれば、CCUS火力は最大限導入できても10% だろう。原子力は20~30%必要になる。

 革新炉ワーキンググループが示す計画では2030 年代半ばに革新軽水炉1基が稼働する。これらを踏まえれば、経産省が示すシナリオは2060年までの20余年の間、毎年原発が複数基建設中・運転開始ができないと達成できない。事故前に新増設計画のあった地点を除けば、新設余地はほぼゼロだろう。にもかかわらず、場合によっては70基も増設するというきわめて非現実的な計画を政府は示している。2030年目標もそうだが、2050/60年目標に至っては妄想的とすら言える。あまりに無責任な原発拡大方針だといえよう。     

(松久保 肇)

 

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