高レベル放射性廃棄物シンポジウム「概要調査に進ませないために」参加報告

『原子力資料情報室通信』第582号(2022/12/1)より

 11月4日、「概要調査に進ませないために」と題した高レベル放射性廃棄物シンポジウムが北海道・ 小樽市で開催された。約150人が参加した。筆者もこのシンポジウムに招待され、講演を行った。その内容を報告したい。

 

原発マネーに頼らない町づくりの大切さ

 まず初めに、北海学園大学の小田(こだ)清名誉教授が発表を行った。小田教授は、岩内町・泊村・共和町・ 神恵内村を指す岩宇(がんう)地域の住民とともに、原発マネーに頼らない地域づくりの勉強会を開催してきた。発表では、その内容について説明をした。

 原発による地域産業への打撃が最も大きいのが、漁業だ。北海道電力(北電)は漁業補償・地域振興資金として今まで211億円を漁民らに対して支払ってきた。岩内郡と泊村漁協は補償金を個人に配布した。大型化した船の購入で生じた負債の償還に充当させるためだが、新たな地域産業の創出には役立たなかった。それ以外に原発立地自治体が受け取れるものとして、電源三法交付金と固定資産税があげられる。泊村のこれまでの固定資産税は647億円と莫大で、この額の大部分は原発からのものと推測される。また、北海道全体では、核燃料税なども合わせた原発マネーの額は、1,742億円に上る。

 それではこの原発マネーは、町の過疎化防止に寄与したのか?役立たなかった。むしろ原発マネーを受け取っていない他の地域よりも人口減少の度合いが激しい。岩宇地域の中では人口減少が緩やかなのは共和町だ。これは共和町が、原発に頼らず、水田、 スカイ、メロンなど農業の一次産業中心の地域発展に頑張ってきたためである。それに対して、岩宇地 域における漁業の中心だった岩内町の影響は甚大だ。 1985年の漁業者は706人だったが、2020年には 68人と壊滅状態になった。岩内町が衰退したため、 地域全体の漁業も衰退した事実を明らかにした。

 また小田教授は原発が地域産業や財政に与える影響について説明した。泊村では、建設時には建設業が栄えるが、完成すると徐々に衰退した。一方、電気関連事業やホテルなどのサービス業が栄え、地域の産業構造が変わる事実を指摘した。財政状況に関しては、莫大な固定資産税により、2020年の泊の財政力指数 (基準財政収入額を基準財政需要額で除した値)は1.58と東京都よりも高い。一方、固定資産税の入らない神恵内村は0.11と低い。主に固定資産税が財政に大きな影響を与えている事実を説明した。また寿都町は風力発電で儲かっているはずだが0.14と低いことにも触れ、その理由については今後の研究課題とした。

 重要なのは、原発マネーでは過疎から脱却することはできないという事実であり、過疎化を防ぐのは新しい町づくりのアイデアだということだ。小田教授は、音威子府(おといねっぷ)村の村立高校を中心にした町づくりを例に出した。工芸に特化した音威子府美術工芸高校を作り、生徒115人を全員村外から受け入れている。全寮制なので、食堂などの需要も生まれる。人口は少しずつ減ってはいるが、合併せず元気にやっているそうだ。また近隣地域との連携も大切だという。寿都については、単独で町づくりをすることは難しい。ニセ コ地域の集客効果を後志(しりべし)地域全体に拡散させるアイデアが必要だ。あるいは新千歳空港や札幌から小樽や余市に人が流れているが、このような外来客の周遊観光がより広範囲に及ぶよう検討する必要がある。文献調査受け入れが問題なのは、寿都の地域内分断だけでなく、隣接地域との分断も生み出してしまった点だ。洋上風力発電計画も寿都と近隣自治体との間で連携が壊れてしまった。小田教授は、交付金に頼った町づくりには未来がないということを訴えた。

 

住民自治の精神を奪う原発マネー

 原発マネーに関連して、泊原発立地4 町村住民連絡協議会の佐藤英行代表もコメントをした。佐藤代 表は岩内町の住民として、小田教授の町づくり勉強会に参加している。佐藤代表は、原発マネーが岩内町の漁業に与えた影響に加え、原発マネーが及ぼす 地域住民の心理的影響についても言及した。経済的 波及効果がある地場産業を破滅的になるまで追い込み、自治体に交付金攻勢をかけ、地元の人間を原発マネーに取り込み、物を言えなくさせていった現実を見てきたという。原発は、一度稼働すれば、その罪過は未来に先送りされ、拡大していく宿命にある。さらに本来人間が持っている将来への現実変革能力を殺いで行ってしまうことに警鐘を鳴らした。

 

幌延の核ごみ反対闘争の歴史から見えてくるもの

 核廃棄物施設誘致に反対する道北連絡協議会の東(あずま)道(おさむ)共同代表は、道北での核ごみ反対闘争について話した。東共同代表は、稚内の在住だが、幌延深地層研究センター(日本原子力研究開発機構(JAEA)所管)のある幌延を中心とした道北における核ごみ反対運動を牽引してきた。発表では、1984年から始まった38年間の幌延における核ごみ反対闘争の歴史を振り返りながら、近年悪化している状況を2点、指摘した。

 1つ目は、現在の坑道より150m深い500m坑道の掘削を、計画にはなかったにもかかわらず、2020年度から開始していることだ。2つ目は、2021年度に、幌延国際共同研究という形で、地層処分実施主体NUMOが、幌延のセンターでの研究への参加を検討したことだ。「核のゴミは受け入れ難い」ことをうたった道条例や、NUMOへの施設譲渡・貸与を禁止した「三者協定」に照らし合わせれば、極めて深刻な問題だと述べた。しかしこのような状況を道と幌延町は追認している。これまでの歴史と現在進行している状況を考えると、道条例も反故にされかねないと危機感を募らせた。

 

核ごみ反対の共同戦略を立てる必要性

 筆者も放射性廃棄物ワーキンググループ(WG) の委員としての経験を話しながら、今後の運動側の対応についても提案をした。放射性廃棄物WGは、原発推進の経済産業省が事務局のため、原子力推進政策の一環として、議論が進むことの問題点を指摘した。事実、官僚がすべての委員を委嘱するため、使用済み核燃料の全量再処理という既存の政策枠組みや地層処分に肯定的な委員が多数となる。さらに開催時期や議題の設定などの権限はすべて事務局が握っている。韓国生活が長かった筆者は、このような初めから公正な競争が不可能な状況を、韓国では 「傾いた運動場」と表現すると紹介した。つまり最初から政策プロセスが歪んでおり、公正さが担保されるはずがないということだ。重要なことは、放射性 廃棄物WGにある構造的な権力の不均衡に鋭い批判的意識を持ち、変えていく努力をすることであり、正論を言って、議事録に残ればいいというような安易な対応では不十分だと述べた。

 ではどのようにして変革できるのか。当然、一筋縄ではいかない、時間のかかる問題だ。まずは核ごみ反対の運動体内部でより緊密な連合体を作り、定期的に会い、情報を共有する必要性を説いた。そのようなネットワーク組織の下、WGをはじめとした行政プロセスを常に監視し、問題があったら即座に抗議声明を出したり、街頭でアピールしたり、メディアに訴えたり、反対する住民組織と連携するような共同戦略を構築することを訴えた。そのような共同戦略がなければ、閉鎖的な核廃棄物政策に風穴を開 けることは困難であり、行政側に政策の正当性を与え続けてしまうだろう。

(高野 聡)

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