問題だらけのNUMOの文献調査報告書

『原子力資料情報室通信』第607号(2025/1/1)より

・11月22日にNUMOが文献調査報告書を提出。2月19日まで住民縦覧と説明会開催。

・寿都東部にある磯谷溶岩の年代測定結果を無視したままの報告書完成に疑問

・実施する価値があったのか疑われる文献調査に振り回された寿都の4年間

原子力発電環境整備機構(NUMO)は11月22日、文献調査の報告書を北海道寿都(すっつ)町の片岡春雄町長、神恵内(かもえない)村の高橋昌幸村長および鈴木直道知事に提出した。文献調査とは高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設のための第一段階の調査で、火山や活断層、侵食・隆起、鉱物資源のデータなど地層処分の安全性に関わる文献を収集し評価する作業である。2020年11月の調査開始から4年が経過し、ようやく報告書が公表された。問題の多い報告書の内容を検証していきたい。

報告書完成までの経緯

寿都町と神恵内での文献収集がほぼ終了した後、文献に関する評価・検討の方法がまず議論された。審議をしたのは経済産業省の審議会である特定放射性廃棄物小委員会(以下、小委員会)1)と地層処分技術ワーキンググループ(以下、技術WG)2)である。特に、地層処分に関連する学界からの推薦で委員が構成された技術WGで専門的な議論が行われた。
技術WGでの議論を反映し、2023年11月に「文献調査段階の評価の考え方」が策定された。この時点ですでに問題は内包されていた。処分場選定のための調査について規定する「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(最終処分法)では、文献調査の次の段階の調査である概要調査の選定地区を「地震等の自然現象による地層の著しい変動の記録がないこと」「将来にわたって、地震等の自然現象による地層の著しい変動が生ずるおそれが少ないことが見込まれること」を条件としていた。しかしこの評価の考え方では「記録がない」、「おそれが少ない」ことを確認することは難しいので、「記録がある」や「おそれが多い」ことが明らかなこと、可能性が高いことを特定するという基準に変更した。何を根拠に「明らか」「可能性が高い」といえるのかも明確でなかった。実質、基準を緩めたといえる。
この評価の考え方にしたがって、NUMOは2024年2月に「文献調査報告書(案)」を公表した。その後、技術WGで報告の原案が評価の考え方に則って作成されているかの審議を行い、小委員会を含めたすべての審議が8月に終了した。そして11月22日にNUMOは文献調査報告書を完成させ、公告をした。3) 4)

図1 寿都町の概要調査候補地区

図2 神恵内村の概要調査候補地区

疑問の残る報告書の内容

図1と2で示されるように、完成した報告書によると寿都町では全域が、神恵内村では積丹岳から15㎞以内の範囲を除いた地域が概要調査対象地区に選定された。これは2017年に政府が策定した、地層処分に相対的に適した地域を示した「科学的特性マップ」とほとんど変わらず、寿都町においては、活断層の影響が懸念され、不適とされた白炭(しろずみ)断層も概要調査候補に含まれた。寿都町南部の地下に活断層の分布が及んでいる可能性があるとしながらも、詳細な分布は不明だとの理由からだ。
この白炭断層の評価以外にも、技術WGの審議過程で安全上の懸念事項が言及された。寿都町南部で、通常の地震波よりも周波数の低い微小な揺れを意味する低周波地震が頻繁に起きている事実。原子力規制委員会が、神恵内村の沖合の積丹半島西方断層が活断層の可能性であることを指摘している事実。寿都・神恵内両町村に広範囲に存在する岩質である水冷破砕岩は、海底火山が噴火し、マグマが海水で急速に冷やされできたため、不均質で強度が著しく低い部分があるのと指摘。これらすべてが、地層処分を避ける基準に該当する可能性が考えられる「留意事項」として安全面の懸念が示されたものの、概要調査で、確認をすることになった。
概要調査では弾性波や電流など物理現象を利用し地中の状況を把握する物理探査、地表で確認できる地学現象を調査する地表踏査、穴を掘り岩盤の試料を採取して地質状況を調べるボーリング調査が行われる。報告書ではどの地域でどのような調査を行うかも明示されなかった。

寿都町東部の磯谷溶岩の年代測定結果を無視

安全面での懸念事項を十分審議せず、概要調査へ進むことありきのNUMOの姿勢が象徴的に表れた出来事も起きた。それは寿都東部の磯谷溶岩の年代測定である。報告書が完成される約1ヶ月前の10月16日に北海道教育大学の岡村聡名誉教授が、日本火山学会で寿都町東部にある磯谷溶岩の年代測定の調査結果を発表した。
それによると、磯谷溶岩の活動年代は約210万年前から約330万年前となる。これは、約258万年前以降に活動した第四紀火山とみなすことができる。文献調査段階の評価の考え方では、第四紀火山の活動中心から15㎞圏内を処分場建設から避けるべき基準としている。したがって磯谷溶岩が第四紀火山ならば、寿都町のほとんどがその圏内に該当するため影響は非常に大きい。日本火山学会副会長で技術WGの下司(げし)信夫委員は「第四紀火山として扱うべきだ」「報告書の審議終了前の段階で知見が得られていれば、磯谷溶岩は除外対象になったはず」と、新聞報道を通じて見解を述べた。一方、NUMOは岡村氏の発表は口頭であり、学術論文など「品質が確保され一般的に入手可能な文献・データ」になったらその内容を確認すると表明した。まるで岡村氏の新知見を無視し、早急に報告書を完成させるかのようなNUMOの態度に、調査プロセスの信頼性低下を指摘する抗議が市民社会から次々に発表された。5)

問われる「可逆性」の意味

安全性が懸念される新しい知見が出ても、次の段階で確認すればいいという姿勢は、今までの政府の方針に反している。今年6月、技術WGは「地層処分に関する声明を踏まえた技術的・専門的観点の審議報告」を取りまとめた。この報告には「処分地を選定するための段階的な調査プロセスにおいては、情報を繰り返し確認し、場合によっては立ち止まる・リセットすることも含めて議論するという認識を、国・NUMOは国民と共有することが重要である」という方針が示されている。
元をたどれば、2014年5月に作成された「放射性廃棄物WG中間とりまとめ」にも「可逆性・回収可能性を担保し、将来世代も含めて最終処分に関する意思決定を見直せる仕組みとすることが不可欠」という記述が見られる。可逆性とは「処分システムを実現していく間に行われる決定を元に戻す、あるいは検討し直す」こととされている。つまり政府は、地層処分事業では一度決定されたことでも再検討する柔軟性を持つことの重要性を自ら表明している。
今回、NUMOが岡村氏の新知見を反映せず報告書を完成させたことは、果たして可逆性の観点から妥当だったのか疑問が残る。可逆性を重視する方針は正しいが、初めて実施された文献調査において、このような混乱した事態を招いたことは、その実際の運用に課題があるということを示している。可逆性の具体的なルール作りのために、経産省は今後小委員会や技術WGを開催し、審議をすべきだ。

文献調査に振り回された寿都町の4年間

4年もの歳月をかけて完成された文献調査報告書の内容の核心は、結局政府やNUMOにとって文献調査でわかることは極めて限られているため、概要調査にすすんでみなければわからないというアリバイ作りだったのではないか。事実、報告書には「広域的な現象である活断層や火山などの影響については、基本的に概要調査段階で把握し、概要調査の次の精密調査対象範囲から除外する」という方針が示されている。断層や火山という地層処分の安全性にとって極めて重大な影響を与える要件を文献調査で評価できないのなら、調査を実施する意義は見出し難い。
振り返ると、寿都町では文献調査の応募が直前まで住民に知らされることはなく、片岡町長が地域の合意形成を軽視、一方的な応募を敢行したため、地域の分断が起きてしまった。文献調査に関して話題を避けることで住民同士の会話が減少した。調査への賛成・反対の態度がわかれば、お互いにお店に行くのを避ける事態も発生した。実施する意義もないような文献調査になぜ寿都町民は4年間も振り回され、コミュニティの絆が傷付いてしまわなければならなかったのか。経産省とNUMOはそれに対する説明責任を果たさなければならない。

文献調査の今後の行方

最終処分法の施行規則によると、文献調査報告書が公告された日から1ヶ月以上、住民への縦覧と報告書の開催が定められている。北海道では14の管区を中心に2月19日まで説明会が開催されることになっている。またこの間、北海道以外でも、東京、大阪、名古屋、広島の4都市で説明会が開催される。住民縦覧が終了する2月19日から3月5日までの2週間、市民は報告書に対する意見を郵送やインターネットで提出することができる。NUMOは寄せられた市民の意見に対する見解を表明した後、概要調査に向けた実施計画の申請を経産省に行う。経産大臣は、その認否を判断する前に、北海道知事および寿都と神恵内両町村の首長の意見を聞き、その意見に反して先へ進まないこととしている。
北海道の鈴木知事は、報告書提出後も「現時点で反対の意見を述べる考えに変わりはない」と反対の立場を表明している。私たち市民は説明会に参加し、報告書内容の技術的問題点を指摘したり、寿都町の地域分断に対するNUMOの責任を追及することが必要だ。さらに概要調査へ進むことへの反対意見を数多く提出することで、鈴木知事が反対を表明しやすい環境を作り出したい。

(高野 聡)

1) 当時は原子力小委員会傘下の「放射性廃棄物ワーキンググループ」という名称だった。2023年7月の組織改編で原子力小委員会から独立した小委員会となり、現在の名称になった。
2) 当時は原子力小委員会傘下のワーキンググループだった。2023年7月の組織改編により特定放射性廃棄物小委員会傘下のワーキンググループとなった。
3) 寿都町の文献調査報告書 www.numo.or.jp/chisoushobun/survey_status/suttu/pdf/01_suttu_honbun.pdf
4) 神恵内村の文献調査報告書 www.numo.or.jp/chisoushobun/survey_status/kamoenai/pdf/01_kamoenai_honbun.pdf
5) 参照
当室声明「NUMOは文献調査報告書を再提出すべき」cnic.jp/52209
「核のゴミ」地層処分問題の全国声明に取り組む会声明 cnic.jp/52281


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