【原子力資料情報室声明】NUMOは文献調査報告書を再提出すべき

2024年11月26日

NPO法人原子力資料情報室

原子力発電環境整備機構(NUMO)は11月22日、高レベル放射性廃棄物の最終処分場建設のための第一段階の調査である文献調査の報告書を北海道寿都(すっつ)町の片岡春雄町長、神恵内(かもえない)村の高橋昌幸村長および鈴木直道知事に提出した。報告書の原案は今年の2月に経済産業省の審議会である地層処分技術ワーキンググループ(以下、技術WG)で示され、8月まで5回にわたり審議が行われていた。両町村で調査が開始されたのは2020年11月だ。文献調査期間は2年程度だが、NUMOは今回の報告書完成までには4年をかけたことになる。しかしNUMOが重要な新知見を無視したまま報告書を完成させたことは、地層処分プロセス全体の信頼性を下げることにつながる。

10月16日に北海道教育大学の岡村聡名誉教授が日本火山学会で、寿都町東部にある磯谷(いそや)溶岩の年代測定の調査結果を発表した。それによると、磯谷溶岩の活動年代は約210万年前から約330万年前となる。これは、約258万年前以降に活動した第四紀火山とみなすことができる。2023年11月に国が策定した「文献調査段階の評価の考え方」では、第四紀火山の活動中心から15㎞圏内を処分場建設から避けるべき基準としている。したがって磯谷溶岩が第四紀火山ならば、寿都町のほとんどがその圏内に該当するため影響は非常に大きい。また11月15日付北海道新聞によると、日本火山学会副会長で技術WGの委員でもある下司信夫・九州大学教授は「第四紀火山として扱うべきだ」「報告書の審議終了前の段階で知見が得られていれば、磯谷溶岩は除外対象になったはず」と見解を述べている。

 今年6月、技術WGは「地層処分に関する声明を踏まえた技術的・専門的観点の審議報告」を取りまとめた。これは日本での地層処分に批判的な地学研究者ら300名余による声明文に関する技術的・専門的観点の審議を整理したものである。この報告はまとめで「処分地を選定するための段階的な調査プロセスにおいては、情報を繰り返し確認し、場合によっては立ち止まる・リセットすることも含めて議論するという認識を、国・NUMOは国民と共有することが重要である」「個別の地域の地質については地域の地質に詳しい専門家の知⾒を参考にすることが重要である」と指摘している。振り返ると、2014年5月に取りまとめられた「放射性廃棄物WG中間とりまとめ」でも「可逆性・回収可能性を担保し、将来世代も含めて最終処分に関する意思決定を見直せる仕組みとすることが不可欠」と指摘されている。特に可逆性は「処分システムを実現していく間に行われる決定を元に戻す、あるいは検討し直す能力」とされている。つまり、地層処分事業では一度固まったことでも再検討できる柔軟性を持つことが求められている。

文献調査段階では「地質図や学術論文などの文献・データをもとにした机上調査」が行われる。報告書には調査期間は示されていないが、遅くとも、技術WGで報告書案が示された2月には調査は完了していたものと考えられる。だが、このような重要な知見が確認された以上、国・NUMOは技術WGや放射性廃棄物WGの指摘を実践する上でも、「立ち止まる・リセットする」ことが必要だったのではないか。

この間、NUMOは文献調査と並行して、地域住民が処分事業や将来の町づくりについて話し合う「対話の場」を運営してきた。この「対話の場」では様々な問題が確認され、地元にはNUMOに対する大きな不信が巻き起こっている。そんな中、NUMOが報告書を完成させたのは、磯谷溶岩の年代測定結果を文献調査に反映させたくなかったのではないかという疑念をも抱かせかねない。

それ以外にも、この文献調査報告書には科学的態度が欠如している点が数多く見られる。一例をあげると、NUMOは寿都町南部にある黒松内低地断層帯の一部を構成する白炭断層のみを取り上げて評価した。その結果、NUMOは地層処分を避ける基準に該当する可能性が考えられる「留意事項」と指定したものの、概要調査候補区域に含めた。しかし技術WGの長田昌彦委員は、黒松内低地断層帯の線上の領域は概要調査地区から外すことが望ましいと指摘する意見書を提出している。2017年に国が作成した「科学的特性マップ」でも、白炭断層は地層処分に好ましくない要件を示すオレンジ色で示されている。

科学的特性マップ作成に当たって当時の地層処分技術WGが取りまとめた「地層処分に関する地域の科学的な特性の提示に係る要件・基準の検討結果」には下記の図とともに、「文献調査、概要調査、精密調査と段階が進むごとに、調査対象となる範囲を段階的に絞り込」むと記されていた。ところが、今回の文献調査報告書では好ましくない区域の除外さえしなかった。これでは科学的特性マップで示された適性の低い地域の拾い上げである。

このようなことが起こる背景には、報告書で示されているように「広域的な現象である活断層や火山などの影響については,基本的に概要調査段階で把握し,概要調査の次の精密調査対象範囲から除外する」という方針がある。これでは文献調査には「対話の場」以外の意味がなくなってしまう。

遠回りに見えても、地層処分プロセス全体への国民の信頼向上の観点から、国・NUMOは文献調査報告書を岡村新知見を無視して策定するべきではなかった。プロセスの「可逆性」を実践する良いタイミングでもあった。NUMOは今からでも遅くないので、報告書を修正するべきだ。

以上

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