特定放射性廃棄物小委員会奮闘記⑧ 対話の場の総括の実態が明らかに

『原子力資料情報室通信』第600号(2024/6/1)より

 4月30日に第3回特定放射性廃棄物小委員会(以下、小委)が開催された。主な議題である「対話の場」の総括の中間報告について中心的に取り上げたい。対話の場は文献調査が進む北海道寿都町と神恵内村で設置され、NUMOと役場が運営をした。住民参加の下、ファシリテーターも出席し、地層処分事業及び地域の町づくりについて議論された。NUMOはこの対話の場の運営に対する評価・検証を現在行っている。
 2月末から3月にかけて住民への聞き取り調査が実施された。対話の場の参加者を中心に、参加しなかった住民も含め、寿都町では30名、神恵内村では21名がインタビューを受けた。その後、聞き取った内容を文字起こしした資料の「読み解き」が第三者専門家により実施された。第三者専門家は7名で構成され、小委委員からの推薦が5名、経産省の推薦が2名である。
 第3回小委では、読み解き内容の中間報告が公表された。この報告は第三者専門家が重要だと思った聞き取りの部分をマーカーで示し、NUMOがそれを総合して自己評価した内容で構成されている。筆者は、第3回小委開催数日前に意見書を提出した。聞き取り調査の実施中、住民から筆者に疑問の声が多く寄せられたため、その内容を意見書としてまとめてNUMOに問う必要があったからだ。筆者が最も問題だと思ったものは、この小委の議論で決定された聞き取りの進め方に関する規定をNUMOが破った疑いがあることだ。
 住民へのインタビュー実施の際は、事前に聞き取り役を①ファシリテーター②調査会社社員③NUMOの3択を提示し、住民からの要望があれば第三者専門家を聞き取りに陪席させることができることをNUMOが説明すべきと小委で合意されていた。
 しかし調査開始当初、そのような説明を受けていないと寿都の住民から筆者へ情報提供があった。NUMOに確認したところ、現場スタッフへの指示が徹底されていなかったと認め謝罪をした。今後の改善を期待し、公表はしなかったが、聞き取り調査の終盤にまた同様の情報提供が寄せられた。
この事実を重く見た筆者は、当日NUMOに問い質した。NUMOは冒頭、筆者の意見書に対し「現地のほうですぐに対応し、ほぼ対処できたかと思っているが、事実関係を把握し回答する」と述べた。もし小委の合意に基づく規定を破ったならば、NUMOの責任は重い。
 発言は時間の関係上この一点に絞ったが、意見書にはNUMOによるインタビューへの不適当な介入や第三者専門家の陪席を求めた住民の要望の無視など様々な問題点を盛り込んだ。ⅰ)
 他の委員からも意見書にかかわる発言があった。村上委員からは「対話の場に参加していない住民に偏りがあるという指摘に同感する。アンケートを実施してインタビューを受ける人を募るという方法も提案したが、検討したのか」、寿楽委員からは「今回参照した社会学会の研究指針で避けるべき事態が起こった可能性があることは大変遺憾だ。調査というのは地域に、負の部分も含めた影響を及ぼすということを肝に銘じるべきだ」と厳しい指摘があった。意見書はいくつかの新聞にも取り上げられた。ⅱ) 聞き取り過程で起こった問題点を明らかにする上で、役立ったのではないかと思う。
 筆者は、読み解きの方法についても問題提起をした。読み解きは、聞き取り1本に対し、1人の第三者専門家しか行っていない。当然、専門家によって重要と感じる部分に違いが出てくる。1つの聞き取りに対して複数の専門家が読み解き作業を行うこと、また、可能ならば個人が特定されない範囲で聞き取り内容の資料を公開して、誰もが検証できるような仕組みも検討すべきと提案した。そして適切な課題抽出のために、第三者専門家と小委の委員による公開の議論の実施も提起した。
さらに報告書のまとめ方についても意見を述べた。NUMOは住民への聞き取りとその分析のみで報告書を作成しようとしている。しかし、NUMOが対話の場をどのような目的で設計し実際に運営したのかを把握することなしにまともな総括ができるはずがない。
 寿都町では不公正な運営の実態もある。地層処分に懐疑的な有識者の意見も聞きたいという要望が住民からずっとあったにもかかわらず、NUMOは無視をし続けた。なぜそのような運営をし、改善できなかったのかについて、NUMOは説明責任がある。筆者は以前から、小委の委員か第三者専門家が対話の場に関与したNUMO職員への意見聴取も実施すべきと提案してきた。事実、聞き取りを受けた住民からも同様の意見が出ている。これらの筆者の提言に対し、NUMOははっきりとした回答は避けた。しかし、もし実現しなければ正確で客観的な報告書の作成は不可能だろう。提案の実現に向けて、今後もNUMOと交渉していきたい。
 最後に、聞き取り内容に対するNUMOの自己評価についても触れたい。筆者には問題を指摘する時間がなかったが、他の委員から批判的な意見が相次いだ。NUMOが事務局を担うことに対する住民の受け止めに関して、村上委員は「おおむね受け入れられたとあるが、住民のコメントからはそうは思えない。第三者的な、中立的な方法での運営を望む声もある」と指摘した。八木委員も「NUMOとしての受け止めとを割と好意的に評価した上で、課題もあったとまとめているが、別にNUMOがこの先も対話の場を運営することを前提に対話の場を振り返っているわけではない。対話の場のあり方は多様であっていい。真摯にこのインタビューの結果を受け止めて課題を整理することが大事だ」と述べた。寿楽委員も同様に「疑問や提案などの意見から、教訓を取り入れるという姿勢にはっきり改めるべきだ」と指摘した。小委の合意から逸脱した聞き取り調査を行い、信頼性の低い読み解き作業をし、課題の導出にかんしても甘い自己評価をくだしているNUMOに、果たして対話の場を運営する資質があるのか。今後、報告書案が提示される予定だが、厳しい批判の目で監視していきたい。
 次に、その他の議題についても簡単に触れておきたい。経済産業省は、2024年度予算として「地域将来ビジョン調査・広報事業」を措置すると発表した。これは最終処分事業に関する理解を深めながら、地域の中長期的な振興ビジョンの策定も合わせて目指すものだ。いわば、文献調査の実施如何にかかわらず「対話の場」のような活動を行うということだ。
 経産省が委託した組織が、地層処分や町づくりなどに関する専門家を活用しながら、対話の機会をアレンジするようだ。経産省の説明では、長崎県対馬市による文献調査受け入れ拒否の反省を踏まえた事業とのことだが、反省の跡は見えない。焼け太りではないか。
 文献調査の実施にかかわらず利用可能とすると言っているが、経産省としては当然調査の応募につなげるために実施する。したがってこの事業の利用を巡って地域対立が起こる可能性が高い。この事業で交付金が発生しないとしても、交付金を利用した町づくりの話も出てくる。結局、金銭的便益による誘導と、それにより地域対立があおられる構造は何ら変わらないこの事業に強く反対すると筆者は伝えた。経産省は「文献調査に続くと冷静な議論ができなくなるため、このようにした」と説明した。まったく納得できるものではないが、今後この事業が全国的に展開される可能性がある。地域住民は警戒感を持って、この事業を監視する必要性があるだろう。


(高野 聡)

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ⅰ) 意見書の内容は、小委員会のHPで確認できる。
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/003_s03_00.pdf
ⅱ) 「NUMOの意見抽出に批判 寿都、神恵内核ごみ対話の場評価 経産省審議会」北海道新聞、2024年4月30日、他

 

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