原子力小委員会参加記⑨ 国の支援がないと成り立たない産業

 6月25日、第39回総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会が開催されました。テーマは「原子力に関する動向と課題・論点について」と、「核燃料サイクルの確立に向けた取組と今後の検討事項について」でした。新しいエネルギー基本計画の策定プロセスがはじまり、今回は原子力政策に関する検討のキックオフという位置づけで、170ページ近い資料がありました。事前にある程度説明を受けている委員側もついていくのが大変ですが、YouTubeで非常に音声の悪い状況で傍聴している方は、理解するのが難しいのではないかと思います。
 なお、新委員長は京都大学複合原子力科学研究所の黒崎健所長。前任の山口彰氏は7月、原子力発電環境整備機構(NUMO)の理事長に就任しました。
 この委員会で私は8点の意見を述べました。

①資料1の47ページに電気料金の全国比較を示し、原発再稼働エリアに赤字をつけているが、四国電力は再稼働したのに無視されている。

②資料1の78~79ページにあるとおり、原子力利用に対する国民世論は、原発再稼働については賛否が二分、将来の原子力利用は圧倒的多数が反対。将来の原発建設や既設再稼働に国民負担を求める制度を導入しようとしているが、推進政策を強引に進めることは、原子力基本法に追加された「国民の原子力発電に対する信頼を確保」するという国の責務とは真逆。

③福島第一原発事故の廃止措置の費用見積もりはデブリ取り出しまでで、放射性廃棄物処分のコストは含まれない。場合によっては10兆円単位のコスト増となる。責任ある廃炉のためには、その分のコストの確保は欠かせない。また発電コストの検証でもこの点の考慮が漏れているため、追加する必要がある。

④六ヶ所再処理工場の運転期間は40年とされ、中間貯蔵された使用済燃料は第二再処理工場での再処理が前提だった。今回の説明は、六ヶ所再処理工場の40年を超える運転を想定するということなのか。

⑤中間貯蔵燃料の具体的搬出先については再処理を行わず、直接処分するというオプションも検討するべき。

⑥使用済みMOX燃料の再処理推進は時期尚早。当面、暫定的に保管しておくべきだ。

⑦各国の濃縮役務調達状況については説明があるが、日本の状況は説明がないので、提示してほしい。

⑧170ページ近い資料を40分程度で説明する技術はすごいが、一度に重要な課題について複数の論点を提示されても、短時間で十分な意見を述べることは困難。もう少し丁寧な審議を行ってほしい。

 なお、8点目の意見について佐藤丙午(へいご)委員が会議中に同感だと発言、会議終了後の立ち話で複数の委員から同趣旨のコメントがありました。
 複数の委員から中長期的な原子力利用に関する見通しが立つようにという意見が出ていました。要するに原発新設とそれに対する支援策を、ということです。また豊永晋輔委員から原子力依存度低減という文言を削るべきという意見もありました。
 事務局からは、8点目に対して、次回からはテーマ別にやる、1点目については、この表はエリア別なので必ずしも原子力事業者の電気料金を示しているわけではなく、赤字をつけたのは原発再稼働かつ規制料金の値上げをしていないから、4点目については、評価の目安として40年があるが、それで終わるという決めはなく、原発稼働状況は明らかに減っており、今後の展開を考えたい、7点目については、現在不足しておらず、ロシアに依存してはいない、との回答でした。
 相も変わらず国の支援がないと成り立たない産業の姿をさらけ出す委員会でした。そうであれば、今どれだけの支援が行われ、これからどれ程必要なのかを示して世論に問うべきでしょう。
(松久保肇)

※第39回原子力小委員会の資料・動画はこちらから確認いただけます。www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/039.html

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