特定放射性廃棄物小委員会奮闘記⑨「声明」の審議報告に呼びかけ人がカウンター見解
記事ポイント
・佐賀県玄海町への国の申し入れは政治的思惑から
・あいまいな点が目立つ対話の場の振り返りの留意事項案
・日本で地層処分は不可能とする「声明」の審議報告は議論が不十分
第4回特定放射性廃棄物小委員会(以下、小委)が6月17日に開催された。3つの議題が審議された。委員である筆者のコメントを中心に審議内容を振り返る。
◆◆佐賀県玄海町で文献調査開始
1つ目の議題は、佐賀県玄海町での文献調査開始だ。経済産業省は5月1日、核のごみの最終処分場選定の第一段階である文献調査を受け入れるよう玄海町に申し入れを行った。それを受け入れた玄海町で、6月10日から文献調査が正式に開始された。
しかし玄海町は、「科学的特性マップ」で全域が地層処分を行う上で相対的に好ましくない特性を示したシルバーに色分けされている。地下に炭田が存在するためだ。この点について、経産省はシルバーの地域でも鉱物の存在が確認されていない範囲もあり、調査により確認できるとその意義を強調した。
しかし安全性を重視するならば、特性マップで適地を絞り込み、そのうえで文献調査でさらに詳細な調査を実施しスクリーニングを行うという科学的な手順で選定を行うべきだ。筆者は、そのような仕組みになっていないと問題提起した。
また重要なのは、全域がシルバーの地域に経産省が申し入れを行った点だ。科学的な観点からではなく、調査実施地域を増やしたいという政治的な思惑が働いたと判断せざるを得ないと指摘した。ⅰ
◆◆対話の場の振り返りによる留意事項
2つ目の議題は対話の場の振り返りだ。対話の場は、文献調査実施地域で、地層処分について事業者の原子力発電環境整備機構(NUMO)が住民に情報提供を行う場だ。調査が進む北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で3年以上運営されている。両町村の住民への聞き取りを中心に、今後の改善に向けた振り返り作業が今年初めから行われてきた。
今回の小委では2つの論点があった。第1に、筆者が小委に提出した意見書に対するNUMOの回答だ。この意見書に基づき、寿都住民への聞き取りの際に、NUMOが小委で決めた規定を守らないなど調査倫理に欠ける振る舞いがあったことを前回の小委で報告した。今回NUMOは、冒頭でその回答について説明した。ⅱ NUMOは聞き取りを行ったすべての住民が納得していなかった点で配慮が不十分であったと認めた一方、筆者のいくつかの指摘については否認した。
また、小委の決定事項に違反した事例があるにもかかわらず反省や謝罪の言葉がないことを問題視し、筆者が指摘した点に関する住民への事実確認も十分行っていないことから回答内容へ疑義を呈した。寿楽浩太委員も「倫理違反に対する反省総括としては不誠実。調査への同意の撤回の有無も含めて住民にもう一度説明することを検討するくらいのこと」と不誠実な回答へ厳しい注文を付けた。NUMOによる回答の修正と今後の対応を注視したい。
振り返りの第2の論点は、留意事項案だ。今まで、住民への聞き取り内容を第三者専門家が分析してきたが、その内容をNUMOが整理し、留意事項としてまとめた。ⅲ 住民の批判的な意見や第三者専門家の独立した視点も含まれているため、留意事項の内容は注目すべき点もある。例えば、今後の対話の場の設計について3つのひな型を示したが、その中にはNUMOが事務局を担わないタイプも提示した。筆者は、公正で中立的な運営のためにはNUMOは事務局を担うべきではないと小委で何度か指摘したが、その実現可能性が示されたので一定の評価はできる。
とは言え、留意事項を列挙しただけで、実際に公正な運営を担保する仕組みについてはほとんど記述がなかった。そこで、留意事項といったあいまいな規定ではなく、順守しなければならないガイドラインにすべきで、さらにガイドラインを守っているのかチェックする機関の設置や違反した時の対処方法も明示すべきだと提案した。
また留意事項や課題の抽出が中心で、寿都と神恵内の対話の場が公正に運営されたかについての評価が不十分であることも問題だ。筆者は以前から寿都町の対話の場が、最終処分政策の基本方針にある「専門家等からの多様な意見や情報提供の確保」という規定に則っていないと指摘し、その原因究明を求めてきた。この点について今回NUMOは「課題として受け止めている。今後検討する」と説明した。
あまりの無責任な回答に怒りを感じた筆者は思わず「今さらNUMOは何を言っているのか!」と強く批判した。実際の不公正な運営についての検証もできないようではまともな振り返りとは言えまい。将来のための留意事項を並べ立て、体裁を整えるものの、肝心の運営責任からは逃れるNUMOの無責任な態度を許してはならない。
◆◆地層処分の「声明」審議報告
3つ目の議題は、地層処分に関する「声明」の審議報告だ。2023年10月に地学研究者ら300人余りが、日本で地層処分は不可能だとする声明を発表したが、その声明の内容を小委の下部組織である地層処分技術ワーキンググループ(以下、技術WG)で3回にわたり審議してきた。その過程で、声明の呼びかけ人3人が参考人として技術WGに出席し、議論も行われた。今回、その議論をまとめた「審議報告」が小委に提出された。ⅳ
審議報告では「高レベル放射性廃棄物を長期間地上で保管し続けることは適切ではない」「北欧でも深度確保等の留意事項がある中で処分地を選定してきた点は参考とすべき」「NUMOが現地で調査を実施する際には、リスクの高い部分を積極的に調査し排除していくスタンスを示すことも必要」と説明し、呼びかけ人が提起した問題点は事実上、ほぼ受け入れなかった。
これに対し、技術WGに出席した呼びかけ人3人の連名で審議報告に対する見解を小委に提出した。ⅴ 見解では以下のように反論した。
・10万年間の断層活動に耐えうる地層処分の多重バリアの安全性に関する科学的な検証が確立されていない現段階では、暫定的な地上保管をすべき
・プレート運動による変動が終息した北欧とプレート衝突による地震活動等の変動が発生する日本は地質構造が質的に異なる
・現在の文献調査は、概要調査へ進むための基準が恣意的で偏った解釈であり、概要調査の不適地を外すスクリーニングが行われていない
また、この審議報告と見解を議論する一般市民向けのシンポジウム開催も要求した。
筆者は、この見解と基本的に同じ立場であり、審議が不十分で疑問点が解消されなかったと指摘した。一方、他の委員からは審議は十分にされたという発言が多く、結局審議報告は了承された。
しかし見解が提出された影響は確実にあった。八木絵香委員が「呼びかけ人の問題提起の内容は地元の人も関心があるだろうから地元に戻して議論すべき」といった趣旨の発言をするなど、審議会に留まらず、より幅広く今回の議論を共有すべきとの意見が委員から複数出た。より多くの市民が今回の声明の審議の過程に注目することで、今後の地層処分や文献調査の議論が活性化することを期待したい。(高野聡)
ⅰ 原子力資料情報室声明「玄海町への国の文献調査申し入れ断固抗議する」
cnic.jp/50982
ⅱ 「第3回特定放射性廃棄物小委員会高野委員提出「意見書」に対する回答」
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/004_05_00.pdf
ⅲ 「地域対話の基本的な検討に向けた留意事項(案)」
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/004_07_00.pdf
ⅳ 「地層処分に関する声明を踏まえた技術的・専門的観点の審議報告」
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/004_03_00.pdf
ⅴ 「地層処分技術WGの審議報告(案)に対する見解」
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/004_s05_00.pdf