連続ウェビナー報告 「能登半島地震からかんがえる原発の安全性」第二回・第四回

『原子力資料情報室通信』第602号(2024/8/1)より

第二回 地震と原子炉~この地震国で原発は稼働すべきではない
(講師 後藤 政志 元原子力プラント設計技術者、原子力市民委員会委員)

 第二回は、元原子力プラント設計技術者の後藤政志さんが、能登半島地震を踏まえた原発の工学的問題点をお話しされた。地震の概要やメカニズムから、避難対策について、原発の事故のプロセス、そしてそれぞれの事象の問題点等について、福島事故の事例や志賀原発、原発が連立する若狭湾沿岸地域を例に、幅広い観点から写真や資料、またこれまでに述べられている専門家の見解の引用などを用いてお話になられた。

 能登半島地震は原発の危険性を我々に直接つきつけてきたといえる。数々の懸念、問題点が指摘されたが、その中の一つに、耐震設計は、”揺れ”に対してモノが壊れないことを確認しているが、”地割れ”や”隆起”、”変位”は考慮していないということがある。平成25年原子力安全推進協会 敷地内断層評価手法検討委員会の、「原子力発電所敷地内断層の変位に対する評価手法に関する調査・報告書」では、断層の変位量を30㎝と仮定して解析を行っているが、30㎝での安全性を示すだけで、建造物が耐えられる限界の解析や、そこから導かれる安全対策の構築などは全く行われていない。建屋の基礎がうごけば、建屋が破壊、あるいは傾斜し、建物自体のせん断破壊または、建屋間のケーブルや配管、ダクトのせん断または曲げ破壊が起こり、中にある格納容器も容易に破壊する。志賀原発内の被害はしばらくの間わからなかったが、その損傷は原子炉系ばかりでなくタービン系でも見られたことから、もし稼働していたら起こったかもしれないタービンミサイルの危険性が説明された。また、原発は事故を防げる仕組みになっていないことも指摘された。原発は福島事故より前につくられ、原子炉や格納容器他主要な設備は「設計条件」が変わっていないため設計基準地震動を超えると、「重大事故(過酷事故)」となって、常設型の安全設備では事故の収束はできない。最終的には人の手で事故収束を図る可搬式設備に頼らざるを得ないが、道路の寸断等が起これば、これらも困難になる。そして、格納容器が壊れても、放射性物質を『放水砲』で撃ち落とすという、非現実的な方法が示されている。

 地震のような地盤の破壊現象は、多くの条件が複雑に重なり合うので、新しい現象を伴う可能性が高く、予測に関しては地震学の進歩により、その傾向や蓋然性はわかるが、断定することは今の科学では不可能である。また、後藤さんも参加された米国サンディア国立研究所でのプレストレストコンクリート製格納容器破壊試験の映像が解説されたが、そこでは、人工構造物の破壊のメカニズムの予測も困難な中、地震による破壊の予測を断定し、安全を語ることへの懸念が述べられた。

 また、事故は外部事象、内部事象、ヒューマンファクターの3つの要素の偶然の組み合わせによっておこるが、1月2日の羽田航空機衝突事故にも見られたような人為的ミスは、原発事故でも最も回避困難な課題の一つということができる。そして、これら三要因に作用するものとして、経済、社会、法的規範などが挙げられるが、その中で組織や文化と民意の在り方、自立した判断の重要性が改めて問われている。

 能登半島地震を受けて、様々な評価の見直しや、規制基準を再検討する事が求められる。福島事故等の反省を踏まえ、これまでの経験から学び、現存する技術を用いて最大限の安全性を確保することが求められるが、科学技術の限界を理解する謙虚さも必要である。大規模事故を確実に防ぐ手立てはなく、そのような中で、原発を動かすこと、原発に依存することは考えられず、危険源である原発をなくすことでしか、安全確保はできないと言える。


第四回 原発と避難
(講師 大河(おおかわ) 陽子 弁護士)

 第四回は、弁護士の大河陽子さんを講師に行った。大河さんは、脱原発弁護団全国連絡会に所属し、東海第二原発など、数々の原発運転差し止め訴訟を担当されたほか、東電刑事裁判、東電株主訴訟など原発関連事件の弁護団に参加。また新潟県原子力災害時の避難方法に関する検証委員会の委員を務められた。

 今回の講演では、最初に原子力災害対策指針で定められている事柄について、次に能登半島地震を受けて浮き彫りになった問題点について、写真やその他の資料、複数の原発立地地域の防災計画の検証結果などを用いて明確に説明された。さいごに避難計画の不備を理由に差止が決まった東海第二原発運転差止裁判の判決の意義について述べられた。

 原子力災害対策指針において、放射性物質から身を守るための基本的な防護措置として大きく避難と屋内退避の二つが次のように規定されている。半径5kmを目安に定められたPAZ(予防的防護措置を準備する区域)では、原則として即時に避難が実施される。一方、半径30kmを目安に指定されたUPZ(緊急防護措置を準備する区域)では、段階的な避難や緊急時モニタリングの線量率のOIL(運用上の介入レベル)に基づく防護措置を実施するまでは自宅や避難所などでの屋内退避を原則実施しなければならない。また、UPZ外においてもUPZ内と同様に事態の進展等に応じて、屋内退避を行う必要がある。

 しかし能登半島地震での壊滅的な被害(家屋の損壊や破損、土砂崩れや隆起、陥没による道路の寸断、複数の孤立地域の発生等)で、この2つの基本的な防護措置の不可能性が改めて確認された。また、このような甚大な被害が起こった時、その状況の把握、復旧工事の着手などにも時間を要することも明白になった。原子力災害対策指針に基づいてそれぞれに策定された原発立地地域の防災計画では、地震災害による被害は想定されておらず、屋内退避や避難が不可能な場合の具体的な記述はみうけられない。また、被害状況等の把握もできない中での、迅速な計画や調整、その実行の難しさも指摘された。

 そしてまさに避難計画の不備を理由に2021年3月に下されたのが、水戸地裁東海第二原発運転差し止め判決である。東海第二原発は東京から116kmに位置し、住宅密集地域に建てられた首都圏原発といえ、30km圏内の人口は94万人を超える。この差止判決の骨子として、次のことが挙げられた。事故の被害の甚大性、収束の困難性、要因となる自然災害等の予測が不確実であるという性質を持つ原発の安全性確保のためには、深層防護が有効とされる。発電用原子炉施設の安全性は第1から第5の防護レベルをそれぞれ確保することにより図られ、いずれかが欠落、または不十分な場合は安全と言えず、周辺住民の生命、身体が害される具体的危険があるというべきである。以前の判例は、施設と、施設の敷地内までを対象とした第1から第4の防護レベルの範囲内で行われたが、この裁判では初めて、第5層の住民の安全達成も必要という主張が認められた。その為には枠組みだけでない、実行可能な避難計画と、それを実行しうる体制の整備・確立が必要であり、避難を実現することが困難な避難計画が策定されていても、深層防護の第5層が達成されているということはできない、ということで運転が差し止められた。

 1月23日、大河さんの所属する脱原発弁護団全国連絡会は「令和6年能登半島地震を踏まえた意見書」を原子力規制委員会に提出した。能登半島地震で浮き彫りになった原子力防災の問題点を踏まえ、原子力災害対策指針と住民の避難計画の抜本的な見直し、そしてそれらの完了までの全国で稼働中の原発の運転停止を求めている。

(報告 髙桑まゆ)


連続ウェビナー「能登半島地震からかんがえる原発の安全性」(3月27日~5月21日開催)
cnic.jp/50799

●第二回:地震と原子炉(講師:後藤 政志)
 録画視聴 www.youtube.com/watch?v=Ig4QCCdPn90

●第四回:原発と避難(講師:大河 陽子)
 録画視聴 www.youtube.com/live/qXDqbORPX7A

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