わたしもあなたも防災計画ビギナー?! 防災計画を考えるための解説メモ

原子力災害対策指針に関するパブリックコメントは終了しました。ご意見を提出いただいた方、ありがとうございました。

なお、現在、「発電用軽水型原子炉施設に係る新安全基準骨子案」に関しても2月28日(木)までパブリックコメントが実施されています。こちらから意見を提出できますのでどうぞよろしくお願いいたします。


 

原子力規制委員会の検討チームは、「原子力災害対策指針」の改定案をつくりました。いま(~2/12)この案に対する国民の意見(パブリックコメント)を募集しています。改定案がまとまれば自治体は指針にもとづいて、地域の防災計画をたてなければいけません。

・原子力災害対策指針はわたしたちとどんな関係があるのでしょうか?

・地域防災計画とは、いったい何を指すのでしょうか?

福島原発事故では住民の避難が上手く行きませんでした。

緊急事態宣言から2時間以上遅れて避難指示がなされ、放射能の拡散予測を行うSPEEDIが活用されず、せっかく原発の近くから避難したのに避難先も高汚染地域だった人々や、国が定める学校の校庭の空間線量率の上限値が二転三転し、多くの人を混乱させました。補償がないために、避難したくてもできない人もいます。 

防災計画とは、原子力事故が起きた時に、どんな範囲の住民が、どんな基準で、どんな方法で避難すればいいのかを、各自治体が決めるものです。あらかじめ決めておかないと、いざ災害が起きた時に混乱なく実行することはできないでしょう。

原子力災害が起きた時、わたしたちは無用な被ばくをせずに速やかに避難することができるのか? これを決めてしまうのが「原子力災害対策指針」と指針に基づいて各自治体がつくる地域の防災計画なのです。その指針が良いものでなければ、それに基づいた地域の防災計画を良いものにするのは難しいのです。

大飯原発3・4号機以外の日本の原発は止まっているのにどうして必要なの? と疑問に思う方もいるかもしれません。でも廃炉と決まったわけではありません。その上、止まっている原発に使用済み核燃料があり、高レベル放射性廃棄物などの核物質がある限り防災計画は必要なのです。

自分たちと未来の子どもを原子力災害から守るために、ぜひパブリックコメントを出してください(提出先はこちら)。

第81回公開研究会では、長年原子力防災を研究してきた末田さんに講義をしていただきました(講演資料:原子力防災見直しの課題)。

防災計画ビギナーのCNICスタッフが、末田さんの講義から学んだ「原子力災害対策指針」の改定案の大きな問題を5つ取り上げます。

 

1)災害が起きた時、避難の判断や情報の公開を、国の主導でやることになっている。

国の判断を待っていると速やかな避難ができないおそれがあります。情報の公開に関しても、手遅れになる場合があります自治体が独自で判断し実行できるようにしておかなければなりません。 

これまではSPEEDIの拡散予測に基づいて避難地区を決めることになっていましたが、改定案ではSPEEDIの情報は参考扱いとなりました。そのかわりに、EAL(緊急時活動レベル)とOIL(運用上の介入レベル)という判断基準を設けました。

・EAL:Emergency Action Level 原発などでどんな事態がおこれば「緊急時」になるかを判断する基準のこと。たとえば震度6弱以上で警戒事態など。

・OIL:Operational Intervention Level 放射性物質の放出で環境が汚染された後、どれくらいの被ばく線量率だったら避難するかの判断基準。

2)EAL(緊急時活動レベル)が起きた時の措置が不十分になっている。たとえば、原子炉の核燃料は高温なので冷やし続けなければなりませんが、冷却材(水)が漏えいした時には避難準備までで、冷却するすべての機能を喪失したときになって初めて住民の避難を実施することとなっています。

⇒すべての冷却機能を失ってから避難を開始するのでは遅すぎます。避難には混乱が生じる可能性もありスムーズにいくとは限らないので、冷却材が漏えいしはじめたならば原発付近の住民(およそ5km以内)は避難を開始するべきです。

末田さんはむしろ、原発立地市町村で震度6以上の地震が起きたり、大津波警報が発令したらすぐに、付近の住民を避難させるべきと言っています。(詳細は講演資料の33ページをご覧ください) 

3)原発からおよそ30km(UPZ)以内の住民は、放射性物質が放出され汚染が確認されてから避難することになっている。

⇒汚染を予想して避難するのではなく汚染を確認した後の避難なのです。しかも避難の基準は高い被ばくを認めるもので500μSv/h(週50mSv)で数時間以内の避難や屋内退避、20μSv/h(年20mSv) で1週間以内に一時移転となっています。

これでは平常時の1万倍を超える放射線量がないと即時避難できません。高すぎます。

4)避難させる範囲(原発からの距離)の基準に合理性がない。

指針案では地域を2つに分類してそれぞれの基準で避難させるようにしました。
原発から近いところを、予防的防護措置を準備する区域(PAZ:Precautionary Action Zone)と定め、原発内の緊急事態レベルに応じて避難させる対象にしています。おおむね5kmとしています。

それより遠いところを、緊急時防護措置を準備する区域(UPZ:Urgent Protective action Planning Zone)と定め、放射能汚染が確認されたあとに避難させる地域です。

⇒原子力規制庁は各原発で事故が起きた時に7日間で被曝量が100mSvを超える地域を試算しました。その結果は、柏崎刈羽原発、大飯原発、浜岡原発、福島第二原発で30kmを越える範囲で100mSv以上の被ばくが起こってしまうというものでした。しかし、3)では、住民の被曝を週50mSv以下にするために、避難するUPZの範囲は30kmなっています。同じ30kmなのに100mSvと50mSvで2倍違うのですが、この矛盾については説明されていません。

飯舘村は原発から50kmほど離れていますが 福島原発事故の後20μSv/hをこえる空間線量率が観測されました。UPZの範囲はもっと広くする必要があるのではないでしょうか?

5)避難時間シミュレーションをすると住民を避難させられない地域もある。

⇒仮にUPZを30kmにした場合でも、避難対象となる住民が多すぎます。茨城県にある東海第2原発では半径30km以内に93万人、該当する市町村の全人口で106万人が住んでいます。県内のバスをすべて総動員しても1回に避難できる人は24万人なので106万人は不可能だと、橋本茨城県知事が議会で答弁しました。

防災計画を立てても実行できないのでは意味がありません。防災計画が立てられないような原子力施設は運用するべきではありません。 

以上、大きな問題を5つ取り上げました。

「原子力災害対策指針」は専門的で読みづらく、どのようにとらえたら良いか分からない人が多いと思います。だからパブリックコメントで何を書いたら良いか、悩むかもしれません。

もちろんそんなことは二度と起きない方がいいのですが、

もし、また原子力災害が起きた時にみんなが無用な被ばくをしないでいいように。

避難したくても避難できないひとを作らないために。

防災計画が立てられないくらい巨大な災害をもたらす原子力施設はいらないという声を、一緒にあげていきましょう(パブリックコメントの提出先はこちら)。

 


ご参考:スタッフの提出した意見

No スタッフ提出コメント
1 1: PAZ・UPZの範囲はIAEAの勧告に従っているようですが、原子炉の出力や複数の原子炉が全面緊急事態になることを想定してこの範囲なのでしょうか。 福島では福島第一原子力発電所から45kmの飯舘村でも年間20mSv以上、チェルノブイリでは半径200km以上にわたって放射性物質が拡散されていま す。
2: OIL1/2のレベル(500μSv/h・20μSv/h)は妊婦・子どもの配慮はなされたものなのでしょうか。とするなら、あまりにも配慮にかけたものと言わざるをえません。
3: 敷地境界の空間放射線量が5μSv/hになるとPAZの住民は避難できますが、UPZの住民は、地域の空間放射線量が500μSv/hにならないと避難となりません。UPZの人間は被ばくを許容しろということなのでしょうか。
4: 本指針はUPZの住民が避難するなか、PAZの住民が避難せずに待っていると想定されているように思われます。しかし、福島原発事故を見、当局の動きが遅 いことを学習した原発立地地域の住民は、自助努力で勝手に避難することは火を見るより明らかです。本計画は機能すると貴委員会はお考えでしょうか。
5: 本指針は国の指示に基づき地方公共団体が行動を行うと記載されていますが、JCO事故、福島第一原発事故と、国の対応は極めて遅く、その結果として初動が 遅くなってきました。その現実を踏まえてなお、国による監督強化を行うのでしょうか。いわゆる地方分権にも反するのではないでしょうか。
6: 本指針の円滑な実施には計画段階からの地域住民の参画が不可欠と思われますが、本計画には情報を周知する以外に地域住民の参画に関する記述が見当たりません。貴委員会はどのようにお考えでしょうか。
7: 緊急事態/EALとその場合の対応措置が合致していません。今回の福島原発事故でわかったことは事態の進展速度は非常に早かったと言うことだったはずで す。逃げ損でもいいから警戒事態にはPAZの住民は避難するという形に変えるべきです。そのために、EALの現在の条件は例えば震度の条件等を当該地域で の震度とするよう限定するべきです。
8: 本指針に個人線量推定の記述が見られますが、一体誰がどのようにして推計するのでしょうか。
9: 本指針は複合災害の想定が欠如しているように見受けられます。例えば原発立地地域で大規模な地震が発生した時に、東京でも大規模な地震が連動して発生する ことも、地震の活動期に入った現在、発生しえますが、そのような場合の指揮系統を、貴委員会はどのようにお考えでしょうか。
10: 総体として、原子力災害対策指針は内容が煮詰まっておらず、パブリックコメントにかけるレベルに到底到達していません。本指針に基いて避難計画を策定した場合、無用な混乱と被ばくを招きます。
11: このように不十分な本指針は「原子力災害事前対策等に関する検討チーム」に差し戻すこと、及びこのような内容の指針で良しとしたチーム構成員を選び直すことを要請します。