原子力小委員会参加(12) こじつけと屁理屈

『原子力資料情報室通信』第606号(2024/12/1)より

■第8回原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ

10月22日、第8回原子力小委員会革新炉ワーキンググループ(WG)が開催された。トータルでは8回目の開催だが、2022年は6回開催、2023年は12月に1回、今年は初の会合となる。議題は「次世代革新炉の現状と今後について」で、事務局から革新炉の開発状況について報告があり、さらに日本原子力研究開発機構から高速炉と高温ガス炉の開発状況、さらに、(一社)フュージョンエネルギー産業協議会から核融合の開発動向についての説明があった。
前回まで委員だった山口彰氏は任期満了で退任、一方、澤和弘氏(北海道大学大学院工学研究院特任教授(専門:高温ガス炉))と浅沼徳子氏(東海大学工学部准教授(専門:核燃料サイクル))、また専門委員として小西哲之氏((一社)フュージョンエネルギー産業協議会会長(元京大教授))が就任した。委員数は14名から16名へと2名増だ。座長には原子力小委の委員長に就任した黒崎健氏(京都大学複合原子力科学研究所所長・教授)に代わって、斉藤拓巳氏(東京大学大学院工学系研究科教授)が就任した。
私は以下の3点を発言した。

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1 何回も申し上げているが、様々な炉型開発に邁進する以前の問題だ。もし革新炉開発をやりたいのなら、ユーザーはだれで、どういった地域に建て、社会はそれを受け入れ可能な状況なのか、など、まずは社会実装のイメージを作るべき。巨額の国費を投じて高速炉や高温ガス炉などを開発しているが、結局実用化できませんでしたとなった時、いったい誰が責任を取るのか?

2 冒頭でLNGに関する資料を提示されているが、エネルギー資源問題をいうのであれば、ここは原子力を議論する場なのだから、むしろウラン供給について考えるべき。ウランの地政学的リスクが低いことが原子力の利点として挙げられていたが、たとえば、世界のウラン供給の5%をもつニジェールでは軍事クーデター後、フランスが持っていたウラン鉱山の権益が撤回され、40%を持つカザフスタンは西側にウラン供給することが難しくなっているとも発言している。ロシアが5%、中国が3%あるので、世界のウラン供給の5割以上が不安定下に置かれている。

3 核融合は文科省が担当と理解。今後も文科省が主務官庁であるという認識でよいか?その場合、経産省のWGでわざわざ議論する意味は何か?

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他の複数の委員からも5つの革新炉についてのロードマップの不透明さや実用化に向けたハードルなどの指摘があったほか、核融合については珍しく遠藤典子氏(早稲田大特任教授、NTT社外取締役他)と私の意見に重なるところ(核融合の主務官庁は文科省)があった。事務局からはあまり意味のある回答がなく、小西氏からは核融合の開発段階についての比較的長時間の回答というか意見表明があった。


■第42回原子力小委員会

10月30日、第42回原子力小委員会が開催された。テーマは「原子力に関する動向と課題・論点」で、「立地地域との共生、国民各層とのコミュニケーション」、「次世代革新炉の開発・建設」、「ウラン燃料のサプライチェーンに関する取組」をそれぞれ事務局が説明した。
私は以下の3点を発言した。

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1 事務局は原発再稼働への肯定的意見が増えていると分析しているが、別スライドには将来脱原発を求める声が40%を超え、即脱原発を含めれば50%近くが脱原発を求めていることも示されている。事故から13年、政府の変わらぬ原発推進政策のなかでもこのような状況が続いているということを受け止めるべき。一方的なマスコミュニケーションを行う前に、国民世論に正面から向き合うことが必要。

2 事務局は原子力と再エネが2択ではないというが、CO2排出量削減量という観点で再エネが原子力を大きく上回ってきたという歴史的事実がある。今後も導入量が加速度的に増加していく上、短期間で導入でき、国内導入ポテンシャルもとても大きい太陽光発電や風力といった再エネや蓄電池と、伸びもそれほど期待できず、導入期間も長く、コストも極めて高い原発を同じ軸で議論すること自体が間違い。原発に巨額投資を行えば、当然、他の脱炭素電源への投資資金がそこに奪われる。実際、原発再稼働に巨額の投資を行ってきた大手電力の再エネ導入量は事故後の13年間を見てもあまり伸びていない。
「次世代革新炉は、安全性の向上に寄与すると期待」という提起についても、限られた資源と時間の中で原子力に時間と経済的・社会的コストをかけるかどうかは全く別の問題。福島第一原発事故後、国際水準の安全性を確保するために多くの原発は停止したままで、CO2削減や電力安定供給というメリットも提供できず、国民に原発維持のためのコストを課し続け、電気料金の高騰に拍車をかけてきた。そのうえ、この間の小委では、原発新設のリスクやコストも国民に転嫁しよう、ということが議論されてきた。
ウラン供給について、第39回原子力小委の資料には「天然ウランは、地域的偏在性が少なく、比較的政情が安定した地域から輸入しており、紛争の影響を受けにくい」という記述がある。ところが、世界のウランは不安定化している。埋まっている資源は偏在性が少ないかもしれないが、実際に採掘されているのは経済性の高いウラン資源であり、そうした資源は偏在している。採掘コストの高いウランを掘れば、当然、価格は高くなり、供給不安が起きればさらに価格は高くなる。核燃料サイクルも、着工から30年経っても操業できない六ヶ所再処理工場、2兆円を投じて、わずか250日しか運転できなかったもんじゅなど、国や事業者のみなさんが大丈夫だと言っても、はいそうですか、とはとても言えない。六ヶ所再処理工場が竣工できたとしてプルトニウム利用によって減らせるウラン量は10%程度。使用済みMOX燃料の再処理や高速炉サイクルになれば、元々無い再処理の経済性がさらに悪化する。原子力の利点としてきた、安価・安定・エネルギー安全保障がいずれも損なわれた上、早さが求められるCO2削減にも貢献できない。「エネルギー自立性や価格安定性、定格での安定発電などの点で、脱炭素電源ニーズに合致している」という投げかけも現実を見ないものだ。このような強引なまとめ方には強く反対する。

3 最終処分法に従えば、地層処分できる高レベル放射性廃棄物は再処理後に出るガラス固化体に限定される。この状態では、福島第一原発の廃炉に伴い出てくるデブリまで再処理しないと最終処分できないことになる。デブリの再処理に向けた研究開発を過去行っているのは確認しているが、ただでさえ廃炉費用がかさんでいるなかで、これ以上無駄な費用を費やしている余裕はないはず。少なくとも直接処分を可能とする法改正が必要だ。

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他の委員からは、エネ基では、原子力設備容量の数値目標が必要、とか、数値目標達成のために原子力事業環境整備(要するにコストの国民転嫁)が必要といった発言があった。また、「ウラン燃料のサプライチェーンに関する取組」で事務局が西側のウラン濃縮能力は日本とフランスが技術寡占していると説明したことをうけて、同志国間での連携が必要、とかウラン濃縮で国際貢献をといった発言が出ていた。資料には、日本のウラン濃縮シェアは世界全体の1%に満たないという事実もかいてあるのだが…。
事務局は質問に、原子力の数値目標をどうするか検討中と回答した。石破首相はエネ基原案の年内取りまとめを指示している。原子力小委の議論もそろそろ終盤だ。

(松久保 肇)

 第8回原子力小委員会革新炉ワーキンググループ資料:
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/kakushinro_wg/008.html
第42回原子力小委員会資料:
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/042.html

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