原子力小委員会参加記(11)資料の誠実さについて

『原子力資料情報室通信』第605号(2024/11/1)より

10月16日、41回原子力小委員会があった。テーマは「原子力に関する動向と課題・論点について」というもので、他の審議会での原子力をふくむ脱炭素電源への投資環境整備にかんする審議状況と原子力サプライチェーンについて原子力政策課から、放射性廃棄物の処理処分の検討状況について放射性廃棄物対策課から、再処理政策の現状について原子力立地・核燃料サイクル産業課から、さらに六ヶ所再処理工場の状況について事業者の日本原燃㈱、核燃料サイクルの取り組みについて電事連から説明があった。

再処理政策の現状の説明では、むつ中間貯蔵施設で50年間保管した使用済み燃料の搬出先を六ヶ所再処理工場にする方針が示された。従来、六ヶ所再処理工場の操業期間は40年だったが、これを延長することで第二再処理工場の計画をさらに先送りした。

また資料に「2018年に原子力委員会が策定した『我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方』に基づいて、『利用目的のないプルトニウムは持たない』との原則を堅持し、保有するプルトニウム量が、47.3トン(2017年末時点の保有量)を超えないように、適切に管理することが必要」と明記された点も興味深い(実は39回小委での資料にも記載されていたが気が付いていなかった)。2018年当時、原子力委などとの政府交渉ではどの数字を上限とするのか明言を避けていた。明示されたことで、より厳しいプルトニウム保有量管理体制が求められる。

私は当日、以下のコメントをした。

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1 原産協会の原子力産業動向調査によれば、原子力産業界の原子力関連売上高は2000年~2010年が平均1.5兆円、これが2011年~2022年平均は1.7兆円へと事故後、増加した。54基稼働中、3基建設中の時代を、36基しかない今が上回っていることになる。事務局から原子力産業が苦しいという説明があったが、本当に苦しいのか。業界内での利益配分の問題なのではないのか。

原発の運転延長を認めた以上、当然、新設需要は減る。敷地の限界や、地元了解、長い建設期間をかんがえれば、楽観的に見ても、数基の新設が中期的にも限界だ。RABモデルなどで巨額の国民負担を課したとしてもこの産業の維持は不可能だ。さらに、動かない原発の維持費は年間1兆円以上かかっているが、これは消費者に転嫁され、この13年間、電気料金の引き上げ要因となってきた。巨額の安全対策投資を行った結果、今見込まれている原発再稼働による電気料金値下げ効果はせいぜい数パーセントだ。

経産省は公共の福祉に責任があるはずで、一産業の利益の代弁者ではないはず。いま議論すべきは現実性に乏しい原子力産業の維持ではなく縮小についてだと考える。

2 以前の小委でも申し上げたが、IAEAの高位の原発導入量将来予測は当たったことがない。低位予測ですら下回ることもままあったのが現実だ。このような確度の低い予測を示すのはやめてほしい。むしろ我々は様々な予測を上回る勢いで急激に成長している世界の再エネ市場や蓄電池市場を見るべきだ。雇用創出についても原発よりも再エネの方が多いという報告が国際エネルギー機関から出ている。

3 エネルギー基本計画には「福島第一原発事故はエネルギー政策を進める上での全ての原点」「福島第一原発の廃炉は、福島復興の大前提」と明記されている。にもかかわらず、この委員会では福島第一原発の廃炉がほとんど議論されていない。廃炉が仮に順調にできたとしても、福島の廃炉で発生する膨大な廃棄物や、巨額の処分費用の手当てはどうするのかなど、課題山積だ。一方、2041年から2051年廃炉完了という計画を考えれば、時間的猶予はほとんどない。基本政策分科会へ何かしらの報告をおこなう前に、この委員会で福島第一原発廃炉の課題について議論する機会を持つ必要があると考える。

4 以前、六ヶ所再処理工場の稼働期間40年という前提を撤回するのか、と尋ねたところ、事務局から、評価の目安として40年があるが、それで終わるという決めはないという趣旨の回答をいただいた。しかし、経産省はこれまで40年運転を前提の説明をしており、実際、再処理費用の回収も40年運転が前提だ。電事連も2019年版のINFOBASEという資料で操業期間40年と明記、日本原燃も地元への説明で同様の説明を繰り返している。設計寿命云々という話では全くない。政策変更するならするで、小手先の説明ではなく、丁寧な議論と数値的根拠が必要だ。ぜひきちんと議論していただきたい。またこうした不誠実さが原子力政策への信頼を失わせていることを経産省には自覚していただきたい。

5 日本原燃に質問。御社は2016年、原子力規制委でMOX燃料工場の適切な在庫量を60トンと回答された。これはMOX在庫量なので、プルトニウムとしては30トンだと理解している。現在英仏に多くの日本のプルトニウムがあり、特にMOX工場の無いイギリスにある21.7トンは減る見込みがない。つまり、適切なMOX在庫量とイギリスにあるプルトニウム量だけで、プルトニウム保有量は52トン程度となり、今日の資料にある保有量上限である47.3トンを上回ることになる。どのような対処を取られる予定か?この点、経産省にも伺いたい。また、フランスではプルトニウム在庫量が毎年増加しているが、その理由の一つは不良MOX燃料が出ているからだ。この点はどのように対処されるのか。

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委員からは原子力投資環境の整備や、サプライチェーン維持は必須だとかいった発言が多くあった。特に目についたのは、原子力推進と核燃料サイクル推進は車の両輪という発言や、エネルギー資源確保の観点から核燃料サイクルは重要、再処理後に出てくる回収ウランや濃縮で出てくる劣化ウランの再利用はエネ安保的に重要といった発言だ。

原発推進国で再処理に手を出していない国はあまたあり、再処理している国はほとんどない。さらに劣化ウランや回収ウランの再濃縮は、労多くして得るものは少ないのが実態だ。むしろ、フランスは再処理後に出てくる回収ウランの保管場所に苦慮している。経済的に成り立たないため、回収ウランの濃縮をフランスが自国の濃縮施設でなく、濃縮役務が安価なロシアに委託している。

もう一点、廃炉で出てくる低レベル放射性廃棄物のうち、クリアランスレベル(年間0.01ミリシーベルト)以下の金属の将来的なフリーリリース(制限なく再利用可能にする)について経産省から説明があり、委員の多くが、国民に利益のあることだと発言していたことも非常に違和感を持った。放射性廃棄物の減容化は原子力事業者のニーズであって、国民のニーズとは関係がない。奇妙なすり替えが行われている。

ちなみに私は、4点目の意見でかなり強い発言をしたつもりだったが、サイクル課の回答は、従来の計画を立てた2005年時点と原発の稼働状況が変わったのだから問題ないというものだった。再処理費用の回収も40年稼働を前提としており、第二再処理工場分の費用も含めて電気料金で徴収している。再処理量の前提が変わったなら、費用の取り方も、その後の対策もすべて変わるはずだ。にもかかわらず、何らの対処もなく、ただ運転期間の延長をするだけだという説明をしているのだ。なお、私の質問に対して日本原燃は意味のある回答をしなかった。翌日の電気新聞では稼働延長方針に「委員から異論がなかった」と記載されているが、私は強く意義を唱えたことを書き記しておきたい。

(松久保肇)

 ※41回原子力小委員会の資料・動画はこちらから確認いただける。
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/041.html

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