県民が住民投票で決める柏崎刈羽原発の再稼働の是非
『原子力資料情報室通信』第605号(2024/11/1)より
東京電力の柏崎刈羽原発7号機の再稼働がどうなるのか、日本中の大きな関心事だ。あのフクシマ核惨事を引き起こし、その後始末で右往左往している東電が運転しようという問題である。
「地元同意」の鍵をにぎる花角新潟県知事は、米山前知事が2017年に立ち上げた検証委員会のシステムを、「技術委員会」だけを残してこの3月末、任期切れの名目で解散させてしまった。現知事の選挙での約束の1つが、「原発は県民の安全を最優先で3つの検証をしっかり進めます。その検証結果が出るまでは、再稼働の議論はしません」だった。
そして、今はただ1つ、2003年に発足した「技術委員会」(新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会)が残るのみだ。新潟県は、政府と業界との強い意向を受けて、再稼働へ舵を切ろうとしているように見える。だが、それは、地方自治のありかたからして許されるのか。そもそも、原発は「安全を大前提とした原発の利活用」が成り立たない技術である。スリーマイル、チェルノブイリ、フクシマなどの、これまでの世界中のあまたの事故の内容から判断できることではないか。
今年元日の夕刻に起きた能登半島地震(M7.6)の影響は計り知れないほど大きい。この日本列島上で、「安全を前提に」原発をつくる場所を現代科学のレベルでは確定することは、到底できない相談である。「県民の安全を最優先」にすると、柏崎刈羽原発は廃止にするしかない。
再稼働へむけた最近の動き
・新潟県知事が経済産業相と面会し、国に前面に立って県民に説明して欲しいと要望した結果、7月15日~8月10日、長岡(170名)・十日町(70名)・小千谷(70名)・見附(150名)・上越(50名)・燕(50名)・出雲崎(50名)の県内7市で、特に長岡ではオンラインで300名、サテライト会場7箇所では84~15名が定員で、国の取り組みについて県民への説明会が開かれた。
各会場では13:30~17:00という長丁場で、説明内容は同じ、次の3つのテーマだ。
・原子力規制庁:7号機の新規制基準適合性審査の結果等について
・内閣府:柏崎刈羽地域における原子力防災の取組と国の支援体制の検討状況について
・資源エネルギー庁:国のエネルギー政策について
・政府は原子力関係閣僚会議(第12回)を9月6日に開き、柏崎刈羽原発の再稼働に向けて、規制の現状、再稼働の必要性を審議し、新潟県が要望している避難道路整備など具体的対応の方針を協議した。
・東京電力は9月24日~26日に、柏崎刈羽原発4号機から使用済核燃料集合体69体を輸送船「開栄丸」で青森県むつ市に海上輸送し、専用道路を使って使用済燃料中間貯蔵施設の「リサイクル燃料貯蔵株式会社(RFS)」に搬入した。これに先立って、RFS社は青森県およびむつ市と保管期間を最長50年間とする安全協定を8月9日に締結した。
これら以前に、3月中旬から経産相が地元に柏崎刈羽原発の再稼働を要請し、柏崎市と刈羽村の両議会は早期再稼働請願を採択し、新潟県議会では原子力災害対策指針の見直し意見書が可決された。3月末から4月初めにかけて、テロ対策改善状況がIAEAによって調査され、7号機の燃料装荷開始を4月におこなうことを決めた。5月には,柏崎刈羽原発でトラブルが相次いだ。6月13日には7号機の健全性確認が完了と東京電力が発表した。矢継ぎ早に再稼働への用意が進んでいたのである。
上意下達の県民説明会
県内の7市で開かれた「国の取組みに関する県民説明会」での様子はどうだったか。
3つのテーマのうちの資源エネルギー庁の場合をとりあげよう。資料「エネルギーを巡る状況とエネルギー・原子力政策について」は全54ページ。政府の幾つもの審議会で使われたスライドを再編集したもの。つまり、日本の政策作りに官庁が用意した資料を寄せ集めてきたものだ。
これを担当官が30分ほどで読み上げながら説明した後、会場からの質問を受けるのだが、1人1分以内、再質問は許されない。トータルで1時間だ。
資料49ページには、「核燃料サイクルの確立に向けた取組みの進展」のタイトルで、プルトニウムバランスの確保、ウラン燃料のサプライチェーンの確保、最終処分の実現、とあり、サイクルの絵がある。そして、使用済燃料対策の推進の具体的数字の目標がしめされ、最終的に「再処理工場・MOX工場の竣工」として、業界大で日本原燃の審査・竣工を支援、再処理は2024年度上半期のできるだけ早期、MOXは2024年度上期、と書かれている。
50ページには「六ヶ所再処理工場・MOX燃料工場の竣工に向けた取組」のタイトルで、両工場の経緯が箇条書きされ、太字で、再処理工場は「2024年度上期のできるだけ早期 竣工目標」、MOX工場の方は、「2024年度上期 竣工目標」とある。
しかし、この資料がしめされた7月には、多少とも原発に関心をもつ人なら誰もが、六ヶ所再処理工場がまたも竣工延期になることを予想していたし、核燃料サイクルという日本の国の原子力の基本政策が破綻しているという認識は広く共有されていた。実際に、この説明会の翌月29日には正式に、再処理工場は2年半の先送り、2026年度中の竣工へ、が発表された。なんと27回目の延期である。MOX工場は8回目の延期で、27年度中へ竣工延期が発表された。
政策を遂行しようと情報を熟知しているはずの官僚たちが知らないはずはない。知っていて、なお、建前を言い張る。国民への説明だと言い張る。政府が、国がそれを認めて来たわけだ。フクシマを経てなお、この状態だから、国民が原子力を信用しないのである。病膏肓に入る、と言うべきである。
県民投票へ
年初の能登半島地震は、新潟県にも、大きな被害を与えた。2004年中越地震、2007年中越沖地震を経験している新潟県民は、「原発複合災害が発生すれば避難はできない」と受け止めた。県民全体に新たな不安材料が浮かび上がった。
「原発を再稼働させない柏崎刈羽の会」の本間保代表は、地元の柏崎市長や刈羽村長が再稼働賛成で、知事は「再稼働については県民の意思を問う」と宣言して当選した。当然私たちは「県民に信を問え」と求めている、と考えて、一つの有力な方法として県民投票条例はどうかと、全県に呼びかけることにした。最初の相談会は7月2日に開かれた。
7月24日の第2回意見交換会では、県民投票条例の制定に関わる署名活動に取り組むことが全会一致で確認された。「柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会」(略称:県民投票で決める会)が8月18日に発足。具体的なタイムスケジュールが決まり、この運動は動き出した。いざ署名活動を、となったとき、衆議院の解散、選挙にぶつかった。投開票の翌日、10月28日から署名集めが始まる。さらに県内市町村6箇所の首長選挙がおこなわれる期間は署名禁止期間になる。署名が出揃うのは来年1月になる見通しである。
その後、チェックと縦覧期間を経て4月の臨時議会に図られる予定だ。運動側は署名数の目標を20万人、有権者の20%という高い目標を定めた。県議会の判断を期待して待ちたい。
(山口幸夫)