海水等の放射性セシウム濃度測定報告
『原子力資料情報室通信』第606号(2024/12/1)より
東京電力福島第一原発事故によって外部に放出された人工放射性物質は、現在も広い範囲で環境中から検出されている。それらは風雨によって移動し、海へ流出したり、特定の場所に集積したりするため、測定による現状の把握が求められる。原子力資料情報室は海水や湖沼水、食品や土壌などに含まれる放射性セシウム濃度を測定してきた。本稿では2022~2024年の測定結果をまとめて報告したい。近年、特に注目して調査しているのは、福島第一原発周辺および茨城県と東京湾における海水と、本格稼働の延期が繰り返されている青森県の六ヶ所再処理工場周辺の環境調査である。廃炉作業中の福島原発から海洋放出されている放射能汚染水(ALPS処理水)の影響や、六ヶ所再処理工場の本格稼働前後の変化を把握したいと考えている。
・試料採取
試料採取地点を図表1に示す。海水・湖沼水は岸からロープ付きバケツを投げ入れて表層水を各40リットル採取した。青森県の六ヶ所村においては地元の方にご協力いただきながら松葉と土壌も測定試料として採取した。土壌は表面から深さ5cm程度までを採取した。
・測定前処理と放射線測定
環境水試料に含まれる放射性セシウム濃度は微量であることが多いため、ガンマ線測定の前にセシウム濃縮をおこなっている。フィルタリングした水試料を酸性にしたのち、セシウムを選択的に吸着するリンモリブデン酸アンモニウム(AMP)粉末を加えて攪拌し、20~24時間静置後に沈殿したAMPを吸引ろ過で回収した。この方法で、40リットルの試料をおよそ10グラムにすることができる。AMP法で濃縮した試料はU8容器(直径50mm×高さ60mm)の容器に封入し、72時間のガンマ線測定をおこなった。
松葉は1地点あたり2リットル分を採取し、細かく砕き、室内(23℃、湿度50%程度)で24時間以上、自然乾燥させた後、40時間のガンマ線測定を実施した。土壌は同様に1地点あたり2リットル分を採取し、乾燥オーブンで85℃で7時間保持して乾燥させ、2時間のガンマ線測定を実施した。いずれも2リットルマリネリ容器に封入して測定した。
ガンマ線測定は、NPO法人新宿代々木市民測定所所有のゲルマニウム半導体検出器を用いた。
・測定結果
測定結果を図表2・3に示す。
青森県の海水(湖沼水)のセシウム137濃度は海水1キログラムあたり0.6~2.2ミリベクレルの範囲だった。2010年以前と同等の範囲にあるといえる。一方、福島第一原発周辺の請戸漁港(原発の北5キロメートル)と富岡漁港(原発の南8キロメートル)の海水からは8.3~25.8ミリベクレルが検出され、10年以上が経過した現在でも福島原発事故による汚染の影響が確認された。23年5月採取の請戸漁港の海水からもっとも高い濃度が検出された。東京湾の海水は2~6ミリベクレルで、これも事故前より高濃度だった(2006年は1.1mベクレル/L※)。青森県の松葉はすべて検出限界以下、土壌は2.8ベクレル/kg以下だった。土壌の汚染も福島原発事故以前と同等の範囲といえる。
福島原発の廃炉作業に伴って、2023年8月から放射能汚染水(ALPS処理水)が海洋放出されている。我々の現在までの実測では、放出前後で海水中セシウム137濃度が高くなったということは確認されていない。
ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線測定ではトリチウムなどのベータ線核種は測定することができない。汚染水に関してはトリチウムに注目が集まっているが、東電が発表した海洋放出前の検査結果によれば、セシウム137、炭素14、コバルト60、ヨウ素129といった放射性核種が、基準値以下だが毎回検出されている※※。低濃度であってもそれらの放射性物質を含んだ汚染水が大量に放出され続けていることから、汚染物質の放出総量は増えていく。今後も監視を続けていきたい。
また、六ヶ所再処理工場が本格稼働すれば、普通の原発の運転で放出される量を遥かに超える液体および気体放射性廃棄物が日常的に放出されることになり環境への影響が懸念される。本稿で報告した測定結果は本格稼働前の環境汚染状況のベースラインとなる。稼働後も引き続き調査を継続したい。
(谷村 暢子)
※ 環境放射線データベースより
※※ 東京電力ウェブサイト「ALPS処理水測定・確認用タンク水の排水前分析結果」より
六ヶ所再処理工場周辺の調査はパタゴニア環境助成金プログラムの助成を受けて実施しました。