東京電力福島第一原子力発電所事故処理状況(2022年7月から12月まで)

『原子力資料情報室通信』第585号(2023/3/1)より

●プラントの状況
 格納容器や使用済み燃料プールの水温は季節変動があるものの、大きな変動は見られていない。また、ウラン燃料の核分裂時に生じるキセノン-135(半減期:約9時間)の発生状況にも変化はみられておらず、原子炉の状況は安定していると推定できる。なお建屋から毎時約1.0万Bqの放射性物質が放出されている (東電評価、2022年12月時点、図1)。

 

図1 福島第一原子力発電所1 ~ 4号機の大気への放射性物質放出量(ベクレル/時)


 一方、時間の経過とともに、崩壊熱は大幅に減少している。そのため、原子炉への冷却水注水量は減らされている(2011年5月時点7~10m3/h→2022年12 月時点1.6~4m3/h)。 使用済み燃料プールからの燃料取り出し状況は表 1にまとめた。3・4号機では取り出しが完了した。ただし、使用済燃料プール内に保管中の制御棒などの高線量機器は取り出せていないため、3号機は2022年度下期、4号機は24年度下期の取り出しに向けて準備作業が行われている。なお3号機は22年 10月下旬取り出し開始予定だったが、23年3月上旬にリスケジュールされている。

 

  


 燃料デブリ取り出しのための準備作業が行われている。新型コロナウィルス感染拡大のため到着が遅れていた2号機デブリ試験取り出し用装置(英国で開発)は2月に楢葉モックアップ施設に到着。2023年中に取り出し試験を実施する予定だ(中長期ロードマップ上は2021年度開始予定だった)。1号機は原子炉格納容器(PCV)、3号機はPCVおよびサプレッションチェンバー内水位低下のための調査が進めら れている。
 2号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)は、事故時、津波到達前後を含め約3日間作動していた。この停止原因の解明が課題となっているが、地下にあって約12年たった今もアクセスできていない。そこで12月、地下1階調査の準備として地下1階の北西と南西の三角コーナの調査が行われた。いずれも最大で230mSv/h前後の空間線量率が測定されている (地下1階床面から約2,500mm)。
 一日当たりの作業員の推移を図2に示した。2022 年12月現在4,410人となっている。ピーク時からはおよそ半分という状況だ。図3に東京電力がウェブサイトで報告している2022年9月までの不適合(本来あるべき状態とは異なる状態、もしくは本来行うべき行為や判断とは異なる行為)の推移を示した。

 

 

●汚染水の状況
 福島第一原発における汚染水対策は大きく分けて①建屋に流入する地下水の減少、②海に流出する汚染水の減少、③汚染水の有害度低減に分けることができる。建屋流入量の減少は、上流側 から(A)地下水バイパスで地下水を汲み上げて海に放水(2023年2月17日現 在800,413m3)、(B)福島第一原発1~4 号機を囲う凍土壁(陸側遮水壁、全長約1,500m)を設置、(C)サブドレンで地下水を汲み上げて海に放水 (2月16日現在1,465,922m3)、(D)舗装による雨水の土壌浸透抑制、を実施。海洋への汚染水流出対策については(A) 海側遮水壁(鋼製)による地下水漏えい防止、(Bウェルポイント・地下水ドレンによる海側遮水壁でせき止められた地下水の汲み上げ、などで対策している。こうした対策により、 2015年度に490m3/日だった汚染水発生量は、2021年度には130m3/日まで減少した。2022年度は集中豪雨がなかったこともあり、100m3/日を下回るとみられる。
汚染水の有害度低減では、セシウムやストロンチウムを除去し、RO膜で不純物を取り除いた後、多核種除去設備(ALPS)でトリチウム以外の放射性核種を除去して、タンクに保管(2023年2月9日現在1,326,218m3、ただし過去の設備不具合や運用方針等によりトリチウム以外の核種を含んだものが多く、告示濃度以下のものは約3割)。それ以外に建屋内滞留水約11,360m3、Sr処理水等8,493m3、RO処理水3,794m3、濃縮廃液9,401m3などが存在する。
 凍土壁は地中に長さ30mの凍結管を約1,600本埋設し、この中に-30℃の冷却液を循環させて周辺の土を凍らせるというものだ。凍土壁は設置当初からその有効性に疑問が示されてきたが、2019年以来、冷却液が漏洩する事故が複数件発生している。ALPS処理水の海洋放出問題について、7月22日の第25回原子力規制委員会は東電の放出方針を認可、8月に福島県知事と大熊・双葉両町長も工事を承認した。現在、放出用のトンネルの構築といった 工事が実施されている。工事は2023年第一四半期には完了する計画だ。1月13日、「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」は「具体的な海洋放出の時期は、本年春から夏頃と見込む」とする方針を決めた。併せて全国の漁業者向けに新たに500億円の基金を創設する。なお、風評対策としてすでに300億円の基金が設けられている。他に、テレビCMなどを使った「理解 情勢の取組」がおこなわれている。一方、全国漁業協同組合連合会の坂本雅信会長は同日、「海洋放出に反対であることはいささかも変わらない」との談話を出した。
また、オセアニア地域の協力機構「太平洋諸島フォーラム」(PIF、15か国及び2地域が加盟する)のプナ事務局長は1月18日、全当事者が安全だと確認できるまで放出を延期するよう求める談話を発表した。2月6~7日にかけて訪日したPIF代表団は岸田首相などと会談、海洋放出に関しての集中的な対話について合意した。2月10日には、政府によるPIF 事務局及び専門家向け説明会が対面で実施された。

 

 

                                        (松久保 肇)

 

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