GX束ね法案 原子力回帰いっそう明瞭に、規制あやふやに

『原子力資料情報室通信』第585号(2023/3/1)より

GX実行会議や原子力委員会、原子力規制委員会などのパブリックコメントが終了し、結果が公開され始めている。内閣府によれば、「GX実現にむけた基本方針」に対しては3,303件。報道によればその多くが原発への反対意見だった。同実行会議はパブコメ結果を公表すると同時に、若干の修正の上で基本方針を閣議決定した。また、原子力規制委員会の議事録によれば、パブコメへの応募意見は、2,016 件でうち「意見として見られるもの」は1,749件と公表。歓迎意見はなく、多くが反対もしくは不備の意見だったようだ。原子力委員会のパブコメへの応募意見数は議事録音によれば約3,000件とのことであった。原子力資料情報室はパブコメへの応募を呼びかけたが、応募数としてはこれまでになく多かったといえる。

 

束ねるずる賢い上程方法
 これらを受けて、幾つかの法改正案が束ねられて 国会に上程される。一つひとつの改正(改悪)案への採決が行なわれず、まとめての採決となる。ずる賢い方法である。原発回帰と言われる大きな原子力政策の転換になるのだから、じっくり審議し、改正(改悪)案ごとに審議採決するべきではないか。
電気新聞によれば、束ね法案は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案(GX脱炭素電源法)」で、改正されるのは①電気事業法、②再生可能エネルギー特別措置法、③原子力基本法、④原子炉等規制法(炉規法)、⑤使用済燃料再処理法である。ここでは①と④について詳しく述べることとする。

 

電気事業法改正(改悪)
 本誌584号で既報のとおり、①と④は相互に関係している。現在の④炉規法にある運転期間の条文を削除して、①電気事業法の中に位置づけるというものだ。電気事業法の改正(改悪)の骨格は、40年を原則として、これを超えて運転する場合には経産大臣の認可が必要となる。認可の条件では、設置許可が取り消されていないことや規定違反による行政処分が行われていないことは当然であるが、これに加えて、「脱炭素社会の実現に向けた発電事業の利用の促進を図りつつ、電気の安定供給を確保することに資すること」があげられている。
 延長の申請に対する許可条件なので当たり前のように読めるが、これは原発を電気の安定供給の上で欠かせない重要電源として位置付けていることになる。そうなると逆に運転延長しない場合が許されるのか疑問である。運転延長でなければリプレース(建て替え)といった圧力になりはしないか。
 60年を超えて運転する場合には、運転を停止していた期間のみが延長の対象となる。ここで停止期間の定義は、イ)炉規法の審査基準や処分基準の変更に対応するために停止していた期間、ロ)炉規法上の規制に違反して許可取り消しや運転・使用停止命令をうけ、後にそれらの処分が異議申し立てにより撤回された場合の停止期間、ハ)行政指導により停止していた期間、二)仮処分命令により停止し、後に取り消し決定された場合の停止期間、などである。 原子力事業者がたいへん有利になる運転期間復活条件とでも言おうか。イ)では、この間の審査を見ていると、審査に時間がかかるのは必ずしも規制側の問題ではなく、原子力事業者に責任がある場合がある。例えば、日本原電は、敦賀2号で地質データを断りなく書き換えていた。それでも審査による停止期間が復活するのは納得できない。また、ハ)では、所管の経産省は原子力事業者の不始末に対して行政処分は避けて行政指導で済ますケースが増えていくのではないか。
 なお、原子力基本法の改正(改悪)では、国と事業者の責務や利用推進の観点から運転期間にも言及するようだが、まだ案が示されていない。

 

炉規法の改正(改悪)の概要
 原子力規制委員会はパブコメでの反対意見に真摯に応えることなく、2月8日の委員会において「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の概要」 を示した。それによれば、30年を超えて運転をする場合には、10年を超えない期間に長期施設管理計画(仮称)を策定して規制委員会の認可を受けなければならない。さらに延長する場合も同様の手続きを繰り返す。認可をえた期間中での変更も同様に認可が必要(ただし、軽微な変更は認可不要)。長期施設管理計画には劣化評価の方法およびその結果、劣化管理のための措置などを記載する。認可の基準は災害防止上支障がない、かつ、技術基準に適合していること。適合していない場合には必要な措置を命じる。これに違反して運転した場合には設置許可取り消しもしくは1年以内の運転停止命令が可能。新制度への経過措置を設ける。この経過措置は2年程度で、事業者はすでに了解している。
 これまでの規制委の議論から60年までは現行の技術基準で審査するが、これを超える場合の技術基準は今はなく、これから策定していくとしている。しかし、新知見を反映した経年劣化が確実に評価・予測できる技術基準が策定できる見通しは語られていない。筆者はパブコメ応募意見に寄せたが、少なくともその技術基準が策定できてから運転期間の延長を議論するべきだと考える。
 その案に対して5人の委員のうち石渡明委員が反対を表明。その後13日に開催された臨時会議においても反対の姿勢は変わらなかった。山中伸介規制委員長は「締め切りがあるので仕方ない」と多数決で判断した。法案改正(改悪)に重ねた勇み足と言える。石渡委員の反対理由は、「科学的・技術的な知見に 基づいて人と環境を守るということが原子力規制委 員会の使命」、今回の改変というのは、これは「科学的・技術的な何らかの新知見があって、それに基づいて改変するという、法律を変えるということではない」、改正案は「特に運転期間というものを法律から落とすということでありますので、これは安全側への改変とは言えない」という論理である。さらに2つ目の理由として、審査が延びていることに言及して、鋭意審査を進めているが残念ながら結構時間がかかっているとし「時間をかければかけるほど、 その分だけ運転期間が延びるような案」は「より高経年化した炉を将来動かすことになると、二律背反のようなことになってしまう」ことをあげている。
 報道によれば、13日の会合で石渡委員は、審査による停止期間を運転期間から除外する政府方針について「審査が長期化した原発の延命策につながることに対して『審査する側として耐えられない』」と吐露した。また、杉山智之委員は「締め切りを守らなければいけないように、せかされて議論してきた。われわれは独立した機関であり、じっくり議論すべきだった」と指摘、伴信彦委員は「制度論ばかりが先行し、60年超をどう規制するのかが後回しになっていることに違和感がある」と述べた。両委員は賛成をしたものの、必ずしも諸手を挙げての賛成ではなかったことがわかる。

 

その他の改正(改悪)
 再処理法は、通常炉の廃炉に関する積立金を拠出金とする改正(電気事業法)とその拠出金を管理する団体として使用済燃料再処理機構を充てることに関する改正で、機構の名称も使用済燃料再処理・廃 炉推進機構に変更される。パブコメ応募意見の多くが原発回帰に反対であった。この意見を反映させることなく、ほぼ原案を通してしまった。国会での論戦が始まっているが、反対を押し切る強行は許されない。

(2月20日 伴 英幸)

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。