東京電力福島第一原子力発電所事故処理状況(2023年1月から9月まで)

『原子力資料情報室通信』第594号(2023/12/1)より

 

●プラントの状況
 格納容器や使用済み燃料プールの水温は季節変動があるものの、大きな変動は見られていない。また、ウラン燃料の核分裂時に生じるキセノン-135(半減期:約9時間)の発生状況にも変化はみられておらず、原子炉の状況は安定していると推定できる。なお建屋から毎時約1.0万Bqの放射性物質が放出されている(東電評価、2023年9月時点、図1)。

図1 福島第一原子力発電所1 ~ 4号機の大気への放射性物質放出量(ベクレル/時)


 一方、時間の経過とともに、崩壊熱は大幅に減少している。そのため、原子炉への冷却水注水量は減らされている(2011年5月時点7~10m3/h→2023年9月時点1.3~2.5 m3/h)。
 使用済み燃料プールからの燃料取り出し状況は表1にまとめた。3・4号機では取り出しが完了した。1・2号機は準備中だ。

表1 使用済み燃料プール処理状況


 燃料デブリ取り出し作業は遅延している。中長期ロードマップ上は2021年度開始予定だった2号機デブリ試験取り出し用装置(全長22メートルの折りたたみ式ロボットアーム)での取り出し試験(現在2023年度中実施予定)は、まず使用する原子炉容器貫通孔(X-6ペネトレーション)のハッチの開放にてこずった。4月に開始し、1月程度で完了する予
定が10月までかかった。またペネトレーション内部もケーブル等が事故時に溶けて固まり堆積しており、装置を挿入できない状態だ。東電は堆積物を水や機械で押し込む方針だが状況は厳しい。ほかに1号機は原子炉格納容器(PCV)、3号機はPCVやサプレッションチェンバー内水位低下のための調査が進められている。
 1・2号機非常用ガス処理系(SGTS)配管(原子炉建屋と1/2号機主排気塔をつなぐ配管、ベント時に内側が汚染された)の撤去作業で進捗があった。1号機建屋への大型カバー設置工事で干渉するため、2022年3月から撤去工事に着手していた。当初1月程度で完了予定だったが、トラブルが頻発して一時中断していた。2023年4月18日に工事を再開した
が、またトラブルが続発。5月に完了するはずが、7月14日にようやく撤去作業を完了させた。一日当たりの作業員の推移を図2に示した。2023年9月現在4,590人となっている。

図2 平日1日あたりの平均作業員数(実績値)の推移

 

●汚染水の状況
福島第一原発における汚染水対策は大きく分けて①建屋に流入する地下水の減少、②海に流出する汚染水の減少、③汚染水の有害度低減、に分けることができる。建屋流入量の減少は、上流側から(A)地下水バイパスで地下水を汲み上げて海に放水(2023年11月16
日現 在861,862m3)、(B) 福島第一原発1~4号機を囲う凍土壁(陸側遮水壁、全長約
1,500m)を設置、(C)サブドレンで地下水を汲み上げて海に 放 水(11月15日 現 在
1,606,834m3)、(D)舗装による雨水の土壌浸透抑制、を実施。海洋への汚染水流出対策については(A)海側遮水壁(鋼製)による地下水漏えい防止、(B)ウェルポイント・地下水ドレンによる海側遮水壁でせき止められた地下水の汲み上げ、などで対策している。こうした対策により、2015年度に490m3/日だった汚染水発生量は、集中豪雨がなかったこともあり2022年度には90m3/日まで減少した。
 汚染水の有害度低減では、セシウムやストロンチウムを除去し、RO膜で不純物を取り除いた後、多核種除去設備(ALPS)で62の放射性核種を除去して、タンクに保管(2023年11月9日現在1,328,208m3、ただし過去の設備不具合や運用方針等により告示濃度以上のものが65%)。2023年8月24日からALPS処理済みの汚染水海洋放出が始まり、10月までに2回、計15,598 m3が放出された。それ以外に建屋内滞留水約12,240m3、Sr処理水等7,962m3、RO処理水5,162m3、濃縮廃液9,371m3などが存在する。

(松久保 肇)

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。