ノーニュークス・アジア・フォーラム韓国参加記
『原子力資料情報室通信』第594号(2023/12/1)より
9月19日から23日まで5日間にわたり、韓国で第20回ノーニュークスアジアフォーラムが開催された。1993年に第1回が日本で開催されてから、今回は30周年記念となる。アジアから7カ国、約30名が参加した。韓国開催は2012年以来11年ぶりだが、韓国で11年間生活した筆者が参加することになった。全日程の詳細は紙幅の制限で書ききれないので、各国からの報告を中心に、内容をかいつまんで報告したい。※全日程の詳細は「ノーニュークスアジアフォーラム通信 No.184」に報告されています。そちらもぜひお読みください。ダイジェスト版の閲覧、ノーニュークスアジアフォーラム通信の購読申し込みはこちらから。 nonukesasiaforum.org/japan/
各国からの状況報告
1日目は、ソウルのカトリック会館でシンポジウムが開催された。各国から原発に関する状況が報告された。まず台湾のリン・チェンイェンさんとリン・シュエユアンさんの発表から始まった。台湾では、2021年12月に原発ゼロ政策を見直すかどうかを決める国民投票があり、12月4、5日の2日間、第四原発から台湾総統府へ行進しながら、見直し反対の投票を呼びかけるキャンペーンを行った。18日に実施された国民投票では53%が反対に投票し、原発ゼロ政策が維持され、2025年5月に原発ゼロが実現することとなった。しかし2024年の総統選の野党有力候補は、みな原発ゼロ見直しを公言しており、まだまだ安心できない状況が続く。また、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関しては、2055年に最終処分場の稼働を目指す計画はあるものの、いまだ関連する法律は制定されていない現状が指摘された。
続いてフィリピンからエミリー・ファルハドさんの報告があった。フィリピンでは1984 年にバターン州で原発が完成したが、1986 年に民主化運動によりマルコス政権を打倒し、腐敗の象徴であったバターン原発の稼働を止めた歴史がある。しかしそのマルコス元大統領の息子であるマルコス・ジュニア現大統領は、気候危機対策対案として、バターン原発の
復活を検討しているという。また、SMR(小型モジュール炉)の導入も推進しており、建設の可能性が噂されている地域は13カ所もあるという。ファルハドさんは、自然エネルギーでのエネルギー転換を進めながら、バターン原発は解体すべきだと訴えた。
インドからはヴァイシャリ・パティルさんが報告した。インドの全電源における原発の設備容量と比率は、2019年時点で678万kW、1.9%と小さいが、今後の急速な電力需要増加への対処として、2075年までに2,500万kW分の原発建設を目指しているという。インドでは核エネルギーを繁栄や発展、および愛国の象徴と捉える傾向が強く、特に右寄りの現政権の下、原発反対を訴える民主的な空間はどんどん狭まっている。パティルさんは、そのような厳しい中でも脱原発運動を引っ張ってきたのは大地に根差した女性たちであり、気候正義運動との連携が、今後の運動発展のカギだと述べた。
オーストラリアからは、エイドリアン・グラモーガンさんが、ウラン鉱山問題を中心に発表した。ウランの採掘は、環境破壊と放射能汚染を伴うため、先住民族を中心に、市民社会がそれに抵抗してきた。最近では採掘を終了したウラン鉱山の環境修復も問題であり、莫大な公的資金の投入が必要で、修復期間中も環境への直接的な脅威となっている現状を指摘した。また原発利用国は放射性廃棄物の処分場として、オーストラリアの広大な土地をいまだ狙っており、持続的な監視と連携の必要性を訴えた。
ベトナムの状況は、日本から沖縄大学の吉井美知子さんが紹介した。ベトナムでは、2009年に国会で原発建設が決議されたが、福島原発事故の影響もあり、2016年に建設は白紙撤回された。しかし、2023年6月に韓国の尹錫悦大統領がベトナムを訪問した際には、原子力分野の協力を推進する覚書を締結した。吉井さんは原発推進を跳ね返すための国際連帯が必要だと述べた。
韓国からは、緑色連合のビョン・インヒさんが現政権の原発推進政策を報告した。尹錫悦政権は、前政権による新規原発中止と老朽原発寿命延長の禁止を覆した。それにより新ハヌル3,4号機の建設再開や古里原発2号機などの寿命延長が現在進行している。また、2030年までに10基の原発輸出を目指しており、SMRや原子力エネルギーを利用した水素製造の研究開発も推進している。一方、ビョンさんは、それらが推進されている慶州や蔚珍では、地域経済が原発に依存しているため、反対の声が挙げにくく運動が広がらない現状を指摘した。
タイからは、プラソン・パンスリさんが発表した。タイには1960年代に米国の支援を受けて研究用原子炉を導入したが、2011年にバンコクにある原子炉が洪水の被害に遭うなど安全面での問題が指摘された。また2022年11月には、米国のカマラ・ハリス副大統領がプラユット首相と会談した際には、SMR開発でのパートナーシップを締結するなど原発推進の動きが強化されていることも報告された。
トルコからは、プナール・デルミジャンさんがアックユでの原発建設プロジェクトを紹介した。2010年にロシアと協定を結び始まった原発建設プロジェクトがアックユで進んでいる。しかしアックユには原発エリアから30km以内に断層線があり、安全面で問題がある。しかもテロへの懸念から関連情報を集めにくい困難さもあるという。なお、日本からの報告は割愛する。
フォーラム参加者の記念撮影
大規模な気候正義行動が開催
1日目以外の内容は簡潔に報告したい。まず2日目に釜山へ行き、日本領事館近くの街頭で福島原発事故汚染水の放出に抗議する記者会見を開催した。長崎県対馬市での核ごみ文献調査誘致の動向などを報告するセミナーも開催された。3日目は蔚山に行き、日韓の核ごみ問題を集中的に議論した。4日目は月城原発に行き、甲状腺がんを発病し、移住を訴える住民の悲痛な声を聞いた。また、蔚珍で原発反対運動をしている住民、新規原発計画を白紙撤回させた三陟住民の証言も聞いた。
5日目は、ソウルに戻り気候正義マーチに参加した。環境団体以外にも、労働組合、障がい者、宗教者、農民など多様性に富む参加者3万人が集結した。事前のミニイベントでは私も発言の機会が与えられた。今回のフォーラムで報告された原発に関する様々な被害事例や抵抗運動を紹介しつつ、原発は差別と犠牲の上に成り立つシステムであること、したがって原発は気候危機解決の代替案にはなりえないこと、そのシステムを変えるには連帯しかないことを訴えた。
今回のフォーラムでは、アジア各国で気候危機対策として原発が推進されている暗澹たる現状を確認した。一方、行進には「脱原発こそ気候正義だ」と書かれたプラカードを持つ参加者がいた。怖気づくことなく闘おう。その対策の虚構性に気づき、原発のない世界を目指す熱き魂を持った同志がアジアにはたくさんいるのだから。
「脱原発こそ気候正義だ」と書かれたプラカードを持って行進する参加者
(高野 聡)