【共同声明】国際協力銀が出資する、ニュースケール社の小型原発計画が中止に
国際協力銀が出資する、ニュースケール社の小型原発計画が中止に
~問われる公的金融機関の説明責任~
2023年11月10日
NPO法人原子力資料情報室
国際環境NGO FoE Japan
日本の政府系金融機関・国際協力銀行(以下、JBIC)が出資する米国のNuScale Power(以下、ニュースケール)が、米西部アイダホ州での小型原発の建設計画を中止することを発表した。JBICは、昨年4月、日揮ホールディングス株式会社および株式会社 IHIとともにニュースケールに出資していた。JBIC出資額は1.1億ドル。今年9月には出資分の一部を中部電に譲渡していた。いずれもJapan NuScale Innovation, LLCを介しての出資である[i]。
JBICの出資の際、私たちは「小型モジュール炉(SMR)という新たな装いをしていようとも、ライフサイクルにわたる放射能汚染、核廃棄物、事故リスクに加え、テロや戦争のターゲットとなるリスクなどの問題を抱えていることは、従来の原発と何ら変わりはない」点を指摘。また、経済性が喧伝されるSMRが、実際には単位発電量あたりのコストはむしろ増加する点をあげ、リスクが高いSMRに対して出資すべきではないことを主張していた。
一部報道では、今回の計画中止は、インフレや金利高による建設費増が要因だと指摘されている。しかし、私たちは、SMRのもつ経済的脆弱性が明らかになった結果であると考えている。ニュースケールは今年1月、今回中止となった小型原発建設計画の目標単価を2021年に発表した58ドル/MWhから89ドル/MWhへと引き上げた。これは単価にしておよそ30ドル/MWhの政府補助金を差し引いた額のため、実質単価は119ドル/MWhになる。米国の蓄電池付き大規模太陽光の単価は2022年時点で45ドル/MWh、2030年には25ドル/MWhまで下落するとみられている[ii]。ニュースケールのSMRにコスト競争力がないことは歴然としていた。
ニュースケールは昨年5月にニューヨーク証券取引所に株式を上場したが、株価は昨年の8月頃から下落を続けており、11月9日終値で2.08ドルまで低下した。株価下落によりJBICが多額の含み損を出していることは間違いがない。また、ニュースケールは資金不足に陥ることも懸念されている[iii]。
一般に、企業会計において、上場有価証券が帳簿価額に比べて50%以上下落した場合、また、30%~50%下落した場合でも、個々の企業が設定した合理的な基準に該当する場合は「著しい時価の下落」に該当し、回復可能性について合理的な反証がなければ減損処理を行う必要がある。ニュースケールの株価は現在約80%下落している。
JBICは、日本政府が100%出資する公的金融機関である。JBICは損失額を開示するとともに、このように環境社会的なリスクのみならず、経済合理性にも疑義がある投機性の高い事業に公的資金をつぎ込むことの責任の所在を明らかにすべきである。
以上
[i] Japan NuScale Innovation, LLCは、2023年6月6日時点の保有株数19,285,070株、持ち分比率8.4 %で第二位の株主である。
www.sec.gov/Archives/edgar/data/1822966/000182296623000160/nuscale424b3.htm
[ii] ieefa.org/wp-content/uploads/2022/02/NuScales-Small-Modular-Reactor_February-2022.pdf
[iii] iceberg-research.com/2023/10/19/nuscale-power-smr-a-fake-customer-and-a-major-contract-in-peril-cast-doubt-on-nuscales-viability/