福島はいま(27)東京電力福島第一原子力発電所事故処理状況(2024年2月から7月まで)

『原子力資料情報室通信』第603号(2024/9/1)より

●プラントの状況
 格納容器や使用済み燃料プールの水温は季節変動があるものの、大きな変動は見られていない。また、ウラン燃料の核分裂時に生じるキセノン-135(半減期:約 9 時間)の発生状況にも変化はみられておらず、原子炉の状況は安定していると推定できる。なお建屋から毎時約1.2万Bqの放射性物質が放出されている(東電評価、2024年6月時点、図1)。

図1 福島第一原子力発電所1~4号機の大気への放射性物質放出量(ベクレル/時)

 

 一方、時間の経過とともに、崩壊熱は大幅に減少している。そのため、原子炉への冷却水注水量は減らされている(2011年5月時点7~10m3/h→2024年7月時点1.6~3.8 m3/h)。特に1号機では原子炉格納容器の下部にあるドーナツ状のサプレッションチェンバー(S/C)内の水位が高く地震の揺れなどの損傷が懸念されていたため、3月から段階的に注水量を減らしている(2月時点3.7 m3/h→7月時点2.5 m3/h)。注水量の削減前の水位はS/C底部から約8.5mだったが、現在は約7.1mまで低下した。原子炉格納容器の上部にあるフラスコ型の部分(ドライウェル(D/W))の底部には1m程度、事故時の堆積物(デブリなど)がある(堆積物の上部はS/C底部から約7.5mと推定)ため、現在、堆積物は露出しているとみられる。
 使用済み燃料プールからの燃料取り出し状況は表1にまとめた。3・4号機では取り出しが完了した。1・2号機は準備中だ。

表1 使用済み燃料プール処理状況


 燃料デブリ取り出し作業は遅延している。中長期ロードマップ上は2021年度開始予定だった2号機デブリ試験取り出し用装置(全長22メートルの折りたたみ式ロボットアーム)での取り出し試験は2024年10月までへと延期した(3回目)。新型コロナウィルスの感染拡大や取り出し用装置の不調で遅延したうえ、使用する原子炉容器貫通孔(X-6ペネトレーション)のハッチ開放にてこずった。さらに開放後もペネトレーション内部も事故時にケーブル等が溶けて固まり堆積していた。東電は装置を製作し、5月13日に堆積物除去が完了した(当初2023年度末完了予定だった)。また、ロボットアーム型取り出し用装置とは別に堆積物が除去しきれていなくとも投入可能なテレスコピック式試験的取り出し装置を用いて8月から10月までにデブリを試験採取、さらに2024年度末から2025年度にかけてロボットアーム型取り出し装置でもデブリ採取を行う方針だ。ほかに1号機は原子炉格納容器(PCV)、3号機はPCVやサプレッションチェンバー内水位低下のための調査が進められている。
 1日当たりの作業員の推移を図2に示した。2024年6月現在4,540人となっている。不適合案件報告数は減少傾向にあるが、立て続けに深刻な事象が発生している(図3)。

 

●汚染水の状況
 福島第一原発における汚染水対策は大きく分けて①建屋に流入する地下水の減少、②海に流出する汚染水の減少、③汚染水の有害度低減、に分けることができる。建屋流入量の減少は、上流側から(A)地下水バイパスで地下水を汲み上げて海に放水(2024年8月16日現在917,626m3)、(B)福島第一原発1 ~ 4号機を囲う凍土壁(陸側遮水壁、全長約1,500m)を設置、(C)サブドレンで地下水を汲み上げて海に放水(8月15日現在1,723,123m3)、(D)舗装による雨水の土壌浸透抑制、を実施。海洋への汚染水流出対策については(A)海側遮水壁(鋼製)による地下水漏えい防止、(B)ウェルポイント・地下水ドレンによる海側遮水壁でせき止められた地下水の汲み上げ、などで対策している。こうした対策により、2014年5月に540m3/日だった汚染水発生量は、集中豪雨がなかったこともあり2022年度には80m3/日まで減少した。
 汚染水の有害度低減では、セシウムやストロンチウムを除去し、RO膜で不純物を取り除いた後、62の放射性核種を除去するとされる多核種除去設備(ALPS)で処理して、タンクに保管(2024年8月1日現在1,312,262m3、ただし過去の設備不具合や運用方針等により告示濃度以上のものが64%)。2023年8月24日からALPS処理済みの汚染水海洋放出が始まり、2024年7月までに6回、計23,589 m3が放出された。それ以外に建屋内滞留水約14,390m3、Sr処理水等10,461m3、RO処理水6,346m3、濃縮廃液9,415m3などが存在する。
 前回新しい事故情報の登録がなかったニューシアに8月5日、2023年10月25日から6月18日までの事故情報が8件登録された。登録された事象の多くは労働災害、作業ミス、またはその両方だ。現場の余裕のなさが垣間見られる。     

  (松久保 肇)

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