福島はいま(27) トラブル続き―だが、廃炉をやりきる?

『原子力資料情報室通信』第603号(2024/9/1)より

■前例のない大災害の福島原発事故から13年半が過ぎる。

 ふるさとを失い、避難民となった人々のかなしみの深さに思いをはせながら、『国内避難民の人権に関するダマリー国連特別報告者による訪日調査報告書(2023)』の日本語訳(2024年5月)を読む。その中で、ダマリーさんは「V.『福島原発事故』による国内避難民に影響を与える人権課題に対処するための勧告」として、9つの基本的な権利(注)を挙げ、その内容を解説し、最後にそれぞれに対する勧告を述べている。あの事故に即してきわめて切実な内容である。
 福島原発事故は放射能を操った科学技術が引き起こした結果であることは疑いない。だが、科学技術は肝心の後始末をできるのか。手に負えないのではないか。その行く末は、依然としてあいまいである。それにもかかわらず、福島原発事故を起こした当の東京電力は、新潟県にある柏崎刈羽原発の7号機(135.6万kW)を政府・業界と一体になって、この秋にも再稼働させようとしている。「県民の同意」といわれる最後の関門を残すのみだという。

■しかし、多くの新潟県民にとっては、避難の困難さとともに、あの「7項目の約束」はどうなったのか、東京電力への不信感が根底にあって、それを取りのぞくことができない。「福島第一原子力発電所の廃炉を進めるにあたっては、地元をはじめ関係者に対して理解を得ながら、廃炉を最後までやり遂げていく」、「廃炉をやり遂げるとともに、柏崎刈羽原子力発電所の安全対策に必要な資金を確保していく」、「安全性をおろそかにして経済性を優先することはしない」等々、他に4項目がある。これらは、福島原発事故を起こした原子力事業者としての適格性を問われて、「原子力事業者としての基本姿勢」をしめすとした東京電力社長の原子力規制委員会に対する回答である(2017年8月)。
「やり遂げる」と繰り返し言うが、福島原発の「廃炉」とはどういう状態を指すのか。今もって明確な定義が無いことはよく知られている。やり遂げる内容が定まっていなくて、やり遂げようはないではないか。「安全性をおろそかにして」いないのに、なぜ、「廃炉を進めている」最中の福島原発で次々と、安全性にかかわるトラブルが発生するのだろうか。ここ1年に満たない期間でも、安全対策が疑われるようなトラブルが何件も発生している。

■今年4月、福島第一原発構内で、6,900Vの高圧電源回路のケーブルを下請けの作業員が間違って掘り進めて損傷し、熱傷(2度)を負った。所内電源A系が停止し、免震重要棟、ALPS処理水関係施設が機能停止した。そして、本来はB系に切り替わるはずなのが失敗した。さらにガスタービン発電機が不具合で2度目の電源喪失が発生した(本誌600号)。
遡って去年10月、ALPS処理施設の配管に溜まった炭酸塩の固形物を溶かす作業をしていた作業員が、溶解時に発生するガスの圧力で仮設のホースが暴れ、放射性物質を含む廃液をあびた。作業員全5名のうち、防水アノラックを着用していなかった2名は体表面の放射能汚染で緊急入院、被ばく線量がそれぞれ6.71mSv、1.67mSvと評価された。廃液拭き取り回収作業の3名も被ばくした。原子力規制委員会の山中委員長は「東京電力の実施計画違反」と記者会見で答えている(本誌594号)。

■無理に無理を重ねつつ、東京電力は今後もトラブルを起こし続けるであろう。「廃炉」と「柏崎刈羽原発の再稼働を目指す」と言いながら、途中で放棄せざるを得なくなるのではないか。ダマリーさんの挙げた9項目の中身の重さを考えると、科学技術は原発を諦めるという選択をすべき時が来たと言うべきである。   

         (山口 幸夫)

(注) 1.情報への権利、2.国内避難民の参加する権利、3.救済を受ける権利、4.家族生活に対する権利、5.十分な住居への権利、6.健康に対する権利、7.クリーンで健康的、かつ持続可能な環境への権利、8.生計を立てる権利、9.教育を受ける権利

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