特定放射性廃棄物小委員会奮闘記⑩ 文献調査報告書案と対話の場振り返りの議論終了

『原子力資料情報室通信』第603号(2024/9/1)より


記事ポイント
・日本での地層処分は不可能との「声明」審議報告について、説明会での取り扱いは今後検討
・対話の場の振り返りにおける寿都住民への聞き取り調査で起きた不祥事に対しNUMOが謝罪
・対話の場の留意事項集にはより正確な内容が必要


第5回特定放射性廃棄物小委員会(以下、小委)が8月1日に開催された。今まで行われてきた文献調査報告書案と地域住民との対話の場の振り返りの審議が今回で実質終了した。審議内容を確認していきたい。

◆◆消化不良に終わった文献調査報告書案の議論

 2020年11月に高レベル放射性廃棄物処分場選定のための第一段階の調査である文献調査が北海道寿都町と神恵内村で開始され、その調査報告書の原案が2024年2月にようやく公表された。筆者が委員として活動する小委の下部組織である地層処分技術ワーキンググループ(以下、技術WG)で、技術的な観点からその内容が5回にわたり審議され、終了した。
 第5回小委では、技術WGで指摘された内容の最終確認が行われた。委員からは、2017年に政府が発表した地層処分の適性を示した科学的特性マップと文献調査との整合性があいまいで、概要調査以降に不適地を積極的に排除するスタンスは評価するもののそれをどう担保するのかはっきりしないなどの意見も出されたが、報告書案自体は了承された。これにより今秋にも報告書が完成される見通しも示された。
 筆者は今後の議論の進め方に重点を置いてコメントした。文献調査では詳細なデータが取れないため、概要調査へ進むべきという結論が見え隠れする審議会での議論に限界を感じたため、今後それを補完するような措置が必要だと感じたからだ。本連載でもお伝えしてきたが、2023年10月に日本で地層処分は不可能という声明が発表され、その呼びかけ人3人が技術WGに出席した。1) その一連の議論は声明審議報告としてまとめられ、鋭い批判も盛り込まれた。2) 第4回の小委では、筆者を含め複数の委員から、この審議報告の内容を寿都町や神恵内村および社会的に広く共有するような取り組みを実施すべきと提起された。
 今回の小委の資料には、それに対する回答がなかったので、筆者が直接確認するとともに、文献調査報告書の完成後に開催されることになっているNUMO主催の説明会では、報告書だけでなく声明審議報告の経緯や内容についても説明すべきと提案した。経済産業省は「寿都や神恵内での対応については、当該自治体と相談する必要がある」と含みを持たせたものの、説明会での取り扱いについては「多様な意見を取り上げていくことは極めて重要だと思っている」と一般論に終始し、明言しなかった。文献調査報告書案に対する審議会での議論が終わった今、この不十分な審議過程に対する不満とその是正を求める声を市民社会から上げる必要がある。

◆◆対話の場の振り返りをめぐりNUMOが謝罪

 対話の場の振り返りに関する議論も今回で終了した。文献調査実施地域の住民が参加する形で、NUMOが地層処分事業や将来の町づくりについて情報共有を行う対話の場について、その運営を評価し、今後の課題や改善点を抽出する作業をNUMOが行ってきた。
 その作業の一環として住民への聞き取りが実施されたが、寿都町民からNUMOによる聞き取りの進め方がおかしいとの訴えを直接聞いた。筆者はそれら住民の指摘を意見書としてまとめ、小委に提出していた。3) 前回の小委ではその回答があまりに不誠実だったため強く抗議し、もう一度事実関係の確認を要求した。
 今回、NUMOは回答を修正し「進め方等に不備を生じさせてしまい、調査実施主体の責任として、深くお詫びを申し上げます」とその場で頭を下げて謝罪した。委員からは「なぜこの内容を初めから出せなかったのか。信頼を損ねた」といった指摘が出され、筆者も当然同じ思いだった。筆者はNUMOが直接頭を下げて謝罪する対象は委員よりも住民だと述べ、直接会って経緯を説明し、謝罪の意を伝えるべきだと要求した。


◆◆より正確な内容が求められる対話の場の留意事項

 住民への聞き取り過程で問題はあったものの、筆者を含めた小委の委員が推薦した第三者専門家が聞き取り内容の分析を行い、課題を抽出したため、対話の場の振り返り作業はある程度公正さと中立さが担保された。振り返り作業は、課題点などをまとめた「 留 意事 項集」と住民の意見や第三者専門家の評価などを含んだ「資料編」の2部構成で、今後報告書として提示される予定だ。
 前回の小委では、留意事項集の内容についてあまりコメントできなかったので、今回筆者は留意事項集にある9つの「得られた知見」に焦点を絞ってコメントした。4)まず、より多様な地域住民の参加についてだ。「多様さ」の内容について、ジェンダーや年齢層以外に、賛否の意見傾向のバランスについても言及されていた。もちろんこの点は公正な運営をする上で極めて重要だ。一方、寿都町の対話の場が不公正に運営された原因について、調査賛成派に偏ってメンバーを編成したことで、調査反対派の意見や提案がほぼ無視されたためであることが明記されていなかった。この点を強調するよう表現の修正を求めた。
 次に、多面的な情報提供についても、より厳密な定義にするよう求めた。対話の場は国や事業者の見解について理解の醸成を行う場ではない。したがって、国や事業者の見解とは異なる立場からの情報提供が必須でかつ十分に行われなければならないことを明記する必要があると指摘した。
 これは視察や見学のあり方にも関わってくることだ。国や事業者の見解とは異なる立場からの情報提供がなければ、視察や見学は事業者の単なる広報事業にすぎない。それならば実施を拡大すべきではない。
 寿都町の対話の場では、地層処分に懐疑的な専門家の意見を聞く機会は一度も設けられず、神恵内村でもたった2回だった。青森県六ヶ所村や北海道幌延町の関連施設への視察や見学でも、事業者とは異なる見解を持つ現地および周辺住民や専門家の意見を聞くことはなかった。むしろNUMOが視察費用の大半を支払うことで、住民がそれに恩義を感じ、結果としてNUMOを受け入れる雰囲気が地域社会に醸成していった。このようなことは二度と繰り返してはならないだろう。
 ファシリテーターの活用については、対話の場の中立的な運営に役立ったというNUMOの安易な認識が見て取れたので、選定基準の明確化と選定過程の透明化を要望した。これら筆者の要望が留意事項集に反映されるよう、今後もNUMOと交渉していきたい。
 一方、小委による対話の場の振り返りとは別に、北海道の市民社会から対話の場の検証作業も行われたことは注目に値する。ファシリテーターの経験のある北海道の有志が「核のごみに関する対話を考える市民プロジェクト」という団体を結成し、「対話の場への見解」を発表した。この見解は第5回小委の参考資料として公表された。5)
 見解では、政策変更を前提としていないためNUMOによる一方的なコミュニケーションであり、地域社会の不和や分断をより深めた可能性が強いという根本的な批判を行っている。今後、佐賀県玄海町で対話の場が運営される予定だ。対話の場の留意事項集やこの「見解」を参照しながら、よりまともな運営が行われるよう、経産省やNUMOに私たちから積極的に提案をしていく必要がある。 

(高野 聡)

脚注
1) 本誌599号「第2回地層処分技術WG報告 地層処分に反対する専門家が政府審議会に出席」
2) 本誌602号「特定放射性廃棄物小委員会奮闘記⑨ 「『声明』の審議報告に呼びかけ人がカウンター見解」
3) 意見書の内容については、本誌600号「特定放射性廃棄物小委員会奮闘記⑧ 対話の場の総括の実態が明らかに」
4) 9つの「得られた知見」は留意事項集で確認できる
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/005_09_00.pdf
5)第5回 特定放射性廃棄物小委員会 参考資料5
www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/radioactive_waste/pdf/005_s05_00.pdf

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