福島はいま(24) 汚染水放出の強行は許されない

『原子力資料情報室通信』第585号(2023/3/1)より

 経済産業省・東電ホールディングス(以下、東電)は早くから海洋放出を方針とし、2015年8月に全漁連ならびに福島県漁連との間でそれぞれ「理解なしには放出しない」との文書約束があるにもかかわらず、海洋放出のための準備工事を着々と進めている。
10個のタンクを1群とし、3群を準備。それぞれのタンクの底部に攪拌機を設置し、かつ、10個のタンク間を循環させて「均一化」。その後、トリチウム量を測定して、1,500Bq/Lとの比から海水混合量を割り出す。現在の平均濃度は約60万Bq/Lと推定されるので、平均400倍の希釈になる。同時に他の放射性核種が基準をクリアしていることを確かめる。 クリアするまでALPSによる処理を繰り返す。希釈用の海水は3つのラインからポンプで汲み上げる。これらのポンプの回転率によって混合量を調整する。群単位で放出し、放出に2ヶ月ほどかける。1日に処理する処理水(汚染水)の量は最大で500m3、上記平均希釈によれば平均日量20万m3となる。年間のトリチウム放出量は事故前の最大放出量を踏襲して 22兆ベクレル以下とするという。ボーリングマシンを使ったトンネル工事は22年8月から始まり23年2月の時点で1kmの距離の80%程度まで進んでいる。
 当初は沿岸陸域からの放出計画だったが、これは海岸の汚染が無視できないと判断したのだろう、沖合1km、水深12mの海底からの放出と変更された。これによって工事費用は当初4年間で430億円、放出期間は30年以上と、当初の34億円、88ヶ月の試算から大きく増加する結果となった。ただ、費用は80万トンで評価した結果で現在の量とは異なるが、それでも「安価・早い」との評価は崩れている。
 漁業者団体は22年度の総会において海洋放出に反対する特別決議をあげており、反対の姿勢は今も変わっていない。経産省はこれに対抗して、風評被害対応として300億円の基金を積んだ(21年11月)。これは、需要が落ち込んだ水産物を一時的に買い取り、インターネット販売などで支援するというものだった。しかし、これでは不十分と見たのか、22年度の補正予算で、新基金として500億円を積んだ。報道によれば、こちらの方は「全国の漁業者を対象に、漁船の燃料費支援などに充てる見通し」という。このような経産省の姿勢に漁業者団体が対応を変えることは考えにくい。

高性能容器の貯蔵スペース確保が課題
 ALPS処理やその前処理段階で回収した廃液はポリエチレン製の高性能容器(HIC)に入れて貯蔵されている。22年12月現在、4,192基が貯蔵されている。東電は増加に備えて、25年6月までに192基分の貯蔵スペース拡張を、さらに26年中頃までに192基分の貯蔵スペース拡張を計画している。
 原子力規制庁は21年6月段階で、HICの吸収線量が限度(5メガグレイ)に達している容器が31基あると指摘している。東京電力の予測より早く限度に達していることになるが、その理由は、東電と異なり、廃液HICの底部に溜まったスラッジによる吸収線量を評価しているためだ。そこで東電はHICから廃液を抜き出してフィルタープレス方式で脱水して固化することを計画、そのための「スラリー安定化処理設備」を設置する。設備の試験運転開始は26年度中頃からとしている。東電によれば、21年段階で月間発生量は23基(今後は10基に減少としているが根拠は不明)。汚染水が今後とも発生し続けることを考えると、貯蔵スペースの確保が厳しくなってくると考えられる。

              (伴 英幸)

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