2023年度長期脱炭素電源オークション落札結果 原発に20年で1兆円?!

『原子力資料情報室通信』第600号(2024/6/1)より

記事ポイント
・2023年度長期脱炭素電源オークションの負担額は累計3兆円以上
・島根原発3号機は1兆円を受け取る
・知らない間に巨額の国民負担。求められる制度改正

 4月26日、電力広域的運営推進機関(OCCTO)は2023年度長期脱炭素電源オークション(以下DCA(Decarbonization Capacity Auction)と略称)の落札結果を発表した。DCAは容量市場の一部であり、本誌はこれまでも容量市場の問題について繰り返し問題提起してきた。本稿では今回のオークション結果分析とその問題点を明らかにしたい。

長期脱炭素電源オークションの概要
 DCAは電力自由化の結果、電源投資に資金が回りにくくなったとして、電源投資を促すために設けられた市場の一つで、脱炭素に資するとされた電源のみが入札できる。毎年400万~600万kWの募集が行われ、応札者は電源ごとに応札価格(kW/円)を設定し、入札額が安い順に募集量に達するまで約定させる。約定価格はそれぞれの応札価格になる。約定した場合、原則20年間、約定価格に当該電源の容量をかけたものを受け取ることができる(制度適用期間)。ただし、超過利潤の発生を防ぐために、当該電源が発電した電気を売ったことによって得られた利益(非化石価値含む)から発電に必要な費用(可変費)を差し引いた額の90%をDCAによって得られる収入から差し引くこととされている(他市場収益の還付)。費用は小売り電気事業者や送配電事業者に転嫁され、最終的には電力消費者が負担することになる。

2023年度約定結果
 2023年度約定結果によれば、約定総容量は401万kW、内蓄電池と揚水が166.9万kW、既設火力の改修が82.6万kW、バイオマス発電が19.9万kW、そして中国電力島根原発3号機が131.5万kWであった。太陽光や風力といった脱炭素電源の主力とみなされている電源は応札すらしていない。
これは、FIPという類似の制度が存在すること、また応札可能な容量が風力・太陽光は10万kW以上と規模が大きいためだと考えられる。なお太陽光は再エネ特措法による入札制度が始まった2017年度から10万kW超の案件が応札されたことはない。なお、これとは別にLNG火力が将来燃料転換することを前提に600万kW(2023~2025年度の合計)募集されており、575.6万kWが約定した。
電源別約定価格は非公表だが、脱炭素電源の約定総額は2336億円/年(他市場収益還付額推計706億円/年※)、LNG火力の約定総額は1766億円/年(他市場収益還付額推計-1343億円/年)だった。平均価格は脱炭素電源が58254円/kW/年、LNGは30681円/kW/年だったことになる。
 DCAの制度適用期間は原則20年だが、申請すればそれ以上の期間、受け取ることが可能になる。今回落札した電源(脱炭素・LNG)の制度適用期間は、20年が647.5万kW、21~30年が151.5万kW、31年以上が177.5万kWだったという。
 他市場収益還付額は日本卸電力取引所の年別スポット価格の3年平均から推計したものだという。2021年、2022年のスポット価格はほかの年に比べて大きく高騰していたため、この推計還付額が実際の還付額になるとは思われない。だが仮にこの還付額が継続したとして、今回のオークションで発生する費用の20年間の累計額を試算すると3.26兆円に上る。20年を超える制度適用期間を申請している電源が329万kWと全体の34%を占めることから、この費用を超えることは確実である。

容量市場との比較
 DCAに先行して2020年度から容量市場メインオークションが4回実施された。約定総容量は1.62~1.67億kW、約定価格は毎年大きく変動している結果、約定総額も大きく変動している(表)。

 DCAの約定価格はメインオークションの6~18倍であることがわかる。約定容量は容量市場が1.6億kWであるのに対して、DCAは400万kWと小さいが、30年かけてDCAの総確保容量は1.2億kWになる。
仮にこれまでの平均約定価格と他市場収益還付が続いた場合、費用はDCAが約4.8兆円/年、メインオークションが0.4兆円/年、合計5.2兆円/年になる。巨額だと指摘される固定価格買取制度の賦課金総額(回避可能費用差引き後)が2.7兆円/年程度であることを考えると、容量市場の負担規模は極めて大きい。さらに、固定価格買取制度の負担は将来的にはゼロになるのに対して、容量市場は約定価格が変動しても、日本全体で必要となる容量は減らず、兆円単位で負担が続く。なお電気業の設備投資額はピークの1993年で4.3兆円、2004年には1.1兆円まで下落し、現在は2~3兆円前後で推移している。この中には原発の新規制基準対応費用や福島第一の事故処理費用も含まれる。

島根原発3号機への補助金
 今回のオークションでは島根原発3号機が約定している。約定容量は131.5万kW、約定単価は不明だが、平均を代入すると約定総額は年766億円となる。他市場還付分を396億円とすると、DCAによる収入は369億円、20年間の収入は7400億円になる。上述した通り、今回試算の他市場還付額は大きく膨らんでいることから、還付額は相当程度減額される。20年間累計は1兆円程度になるだろう。

問題点
 DCAは脱炭素に追加性のある電源新設促進のために導入された。その観点から島根原発3号機(2006年着工)の落札には大きな違和感がある。中国電力はDCA導入以前から島根原発3号機を建設してきた。つまりDCAは島根原発3号機の建設を促進していない。中国電力にとっては棚ぼた利益だ。
 現在、DCAに既設の原発改修費も盛り込もうという検討が行われている。これも同じだ。現在、原子力事業者は新規制基準対応のために巨額の費用を投じているが、これらは再稼働のために投じているのであって、DCAがあるから投じたわけではない。現時点で建設中や未廃炉の原発に限ってみると、DCAは単に事業者への補助金となっているだけだ。
 将来的な巨額の費用負担にもかかわらず、容量市場もDCAもほとんど国民に理解されていない。落札した電源の約定単価も電源別の制度措置期間も明らかにされていない。最終的に一体いくら負担させられるのか、全くのブラックボックスだ。いったん容量市場全体を止めて、自由化のもとでの電源確保の方法を改めて考え直すべきだ。


(松久保 肇)

 

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