【原子力資料情報室声明】GX原発法案衆院可決 欺瞞と偽りに満ちた国会審議

GX原発法案衆院可決 欺瞞と偽りに満ちた国会審議

2023年4月27日

NPO法人原子力資料情報室

 2023年4月27日、衆議院本会議で「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」の採決が行われ、自民・公明・維新・国民民主らの賛成多数により可決した。今後、参議院での議論に移る。

 本法案は原子炉等規制法、原子力基本法、電気事業法など5つの法案を束ねた非常に複雑な構成となっている。ところが束ねられたため、審議時間は極めて限られることとなった。

残された多くの疑問

 政府の「GX実現に向けた基本方針」(GX基本方針)では、脱炭素社会の実現のために、原発の再稼働、運転期間延長や建て替えが必要だとされている。必要だというからには、何らかの根拠が示されなければならない。ところが、きわめて定性的な議論にとどまり、政府は何らの数値目標も示していない。一方で、改正原子力基本法においては原子力の推進を国の責務として位置づけようとしている。GXと原子力基本法の改正には何らの因果関係も存在しない。そのうえ、原子力は多くのエネルギー源の一つにすぎない。そのような原子力の推進を国の責務として位置づけることは、原子力の固定化につながり、エネルギー供給の柔軟性を損なうことになる。

 GX基本方針などでは、原発の建設は建て替えに限ることとされている。ところが、次世代革新炉の開発においては、原型炉の建設が計画の中に盛り込まれており、政府は研究開発費を支出する方針だ。原型炉は、研究段階の原子炉であり、当然、商用炉よりも事故リスクも投資リスクも高いものになる。建て替えなのか、新設なのか誰がどこに、どのようなものを建てるのか、何ら示されないまま、建設するという方針だけが先行している。また、政府は原発再稼働が、電力価格抑制につながるという。ところが、東京電力EPの値上げ申請によれば、原発再稼働による価格抑制効果はわずか0.4円/kWh程度に過ぎないことが明らかになっている。一方、原発の維持のために支払っているコストは2円/kWh程度である。大きなリスクに比してあまりに小さいメリットだといえよう。この現実を見てもなお、原発は安い電源だと言えるのか。

 運転期間延長についても多くの問題点が解明されないままだ。原子力規制委員会の山中伸介委員長は60年超の原発について、「実際に60年以上運転しても、これくらいの健全性は評価できるという科学的な根拠がある」と説明しているが、現実には世界最高齢の原発は53年であり、60年でさえ未経験の世界である。原発大国フランスの原子力安全局は、50年以降の原発の運転の安全性すら「証明されていない」ので証明する方法を検討するとしている。原子力規制委員会は「科学的・技術的」という言葉のベールで現実をごまかそうとしている。しかし、原発の施設は経年とともに着実に劣化していく。

 さらに問題なのは、原子力の利用は安全性が前提だとしているところだ。原子力利用は安全性が前提なのは当然である。ところが、運転期間延長の議論の中でこの安全性を担保しているはずの原子力規制委員会の独立性が疑わしいことが明らかになった。原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁が推進官庁である資源エネルギー庁と事前に相談しながら、運転期間延長を進めていたのだ。原子力規制庁は資源エネルギー庁との隠れて事前調整をしていたことについてごまかしを繰り返してきた。12月、当室の情報公開請求に対して、原子力規制委員会が規制庁に対して検討を指示した10月以前に運転期間延長について検討した事実は存在しないと電話で回答、12月末、当室が内部資料の存在を明らかにしてようやく、事前相談の事実を明らかにしてからも、内部検討資料の黒塗り開示、資源エネルギー庁との打ち合わせで先方から示された資料についても、関係のないメモ書きをしてしまったからとして、新しい資料を資源エネルギー庁担当者と霞ヶ関駅で手交してメモ書きのある資料を破棄。この駅での受け渡しの事実も、当初は否定していた。さらに、関係ないものだと説明していたメモ書きについても国会で資源エネルギー庁側は、面談時に書いたメモだと規制庁側から伝えられたと答弁している。このようなごまかしに満ちた原子力規制庁に大事な原子力規制をゆだねることができるのだろうか。

 振り返れば、1979年のスリーマイル島原発事故の際には国会で当時の江崎真澄通産大臣が「わが国の場合はもう安全第一主義で、特に安全の規制については二つの法律を駆使して、十分の上にも十分を期しておる[i]」と答弁、1986年のチェルノブイリ原発事故の際には当時の中曽根康弘総理大臣が「ソ連の黒鉛あるいは軽水等によるあの型と、我が国がやっておるボイリングウオーターとかプレッシャーライズドウオーターというこの二つの軽水炉型とはまるっきり構造が違っておりまして、心配はないのでございます[ii]」と答弁している。

 日本は貴重な教訓を2度とも自分事としてとらえることなく、2011年福島第一原発事故に至った。今、私たちは自らが経験した3度目の教訓を投げ捨てようとしている。


[i] kokkai.ndl.go.jp/txt/108704461X01219790427/50

[ii] kokkai.ndl.go.jp/txt/110415254X01419860507/12

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