【原子力資料情報室声明】核ゴミ最終処分政策の基本方針改定に断固抗議する

核ゴミ最終処分政策の基本方針改定に断固抗議する
-不信と分断を増幅させ地域の火種となる-

2023年4月28日
原子力資料情報室

 政府は4月28日、特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針の改定案を閣議決定した。基本方針の策定は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)の第3条に規定されており、今後の最終処分場政策の方向性を決定する重要な方針だ。2015年から8年ぶりの改定となる。新たに「政府の責任」を明記した基本方針は、むしろ地域の分断を拡大・加速化させかねないきわめて無責任な内容だ。当室は、内容的にも、手続き的にも問題のある基本方針の改定に強く抗議する。
 今回の改定で、新たに追加された内容は大きく4つある。第一に、国が処分事業の実施主体であるNUMO(原子力発電環境整備機構)や電力会社と合同チームを結成し、全国行脚をする。このチームが個別に首長を訪問し、最終処分に関する最新情報を共有するという。第二は、国と関係自治体との協議の場の新設だ。文献調査応募に向けた課題や対応を議論・検討し、解決を目指す。この協議の場には、全国知事会での説明会や合同チームが訪問した自治体の中で、より深く関心を示した自治体が参加することになるという。
第三に、関心地域へ国から段階的な申入れを行う。申入れの対象は、商工会や地方議会など地域の関係者だ。これら関係者に対して、権限のある首長へ応募を要請するよう、国が働きかけをすることができるようになる。第四は、関係府省庁連携の体制構築だ。新たに「関係府省庁連絡会議」及び「地方支分部局連絡会議」を新設し、文献調査対象地域等に対し、地域のニーズに応じた交付金の使い方を相談・支援する。
 しかしこれらの改定内容は問題だらけだ。ご都合主義、秘密主義、狙い撃ち、金銭による誘導強化の4つの観点から批判をしたい。まずご都合主義に関しては、最終処分法の目的である「発電に関する原子力の適正な利用に資するため」に最終処分を計画的かつ確実に実施することだけを、政府の責任と考えているようだ。まるで核のゴミを生み出し続けることへの責任は、あらかじめ免除されているかの如く、最終処分政策を考えている。原発を推進したいだけの政府が語る手前勝手な「責任」に、どれほどの国民が共感するだろうか。
 第二の問題点は秘密主義だ。国・NUMO・電力会社の合同チームによる自治体訪問や関係自治体との協議の場について、国が接触した自治体名は非公表にするという。調査応募に向けた交渉が秘密裏に進行する可能性があり、地域の民意を無視した不透明な意思決定が行われる恐れがある。住民への説明なしにいきなり調査応募の話が出て、地域社会が混乱したのが北海道寿都町だ。過去にさかのぼれば、2006~07年に高知県東洋町でも当時の町長が独断で応募したことにより、町は二分された。透明性に欠けた意思決定による地域社会の混乱という問題の構造は同様だ。政府はこれらの過ちから何も学んでいないのか。公開で実施できないのであれば、やるべきではない。
 第三の問題は、商工会や地方議員など地域の一部の有力者にターゲットを絞った狙い撃ちのやり方だ。調査応募の権限のある首長に対して、効果的に応募への圧力をかけられる特定の団体や組織への働きかけを強化しても、それに関われない多くの住民には疎外感と不信感を植え付ける。重要なのは、多くの住民が参加し、議論を尽くして、地域全体の合意形成をすることだ。国からの段階的な申し入れは、それに背く不公正なアプローチとなる。長崎県対馬市で文献調査応募に向けた動きがあるが、国が商工会や地方議会に申入れを行えば、地域の分断を深める危険性がある。
 第四に、金銭による誘導強化の問題が挙げられる。電源立地地域対策交付金により、省庁丸抱えで町づくりに大々的に介入すれば、調査地域の安全性よりも交付金の使い道に関心が移る可能性が高まる。安全性に関わる議論が、交付金とのバーターになってはならない。交付金への関心集中は、住民自治の精神を蝕む恐れがある。周辺自治体との軋轢も強まる懸念がある。何より高レベル放射性廃棄物に関する議論が、交付金をもらっている自治体の議論に矮小化してしまう。やるべきことは、交付金に関する施策の強化ではなく、金銭による誘導を中心に据えた政策の見直しを含めた議論だ。
 基本方針改定のプロセスも問題だ。2月10日に最終処分関係閣僚会議で初めて改定案が提示された。しかし当室の高野聡も委員として所属する経済産業省の審議会である放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)では、それまで基本方針の改定を前提とした議論は一切なかった。その後、3月2日にWGで改定案の議論がようやく行われたが、閣僚会議で方針が固められた後になされる議論にどれだけの意味があるだろうか。審議会の独立性を喪失した意思決定では熟議は担保されず、手続き上の公正にも疑問符が付く。これほどまでに拙速で唐突な意思決定をした合理的な根拠は見当たらない。当室は不信と分断を地域にもたらし、民主的手続きにも背く今回の基本方針改定の撤回を求める。

 

以上

 

 

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。