科学的有望地の顛末

『原子力資料情報室通信』第515号(2017/5/1)より

科学的有望地の顛末

2012年に放射性廃棄物ワーキンググループ(以下、廃棄物WG)が設置されて、これまで議論してきたが、一段落したことから、最初にこれまでの審議の流れがどのように変化してきたかを見たい。その後、科学的な要件・基準の内容と処分の実施主体であるNUMO(原子力発電環境整備機構)の公募要件との関連をみた。

 

廃棄物WGの議論のこれまで

科学的有望地という用語が初めて使われたのは、2013年12月17日に行われた第1回最終処分関係閣僚会議においてであった。同会議(以下、関係閣僚会議)は、菅義偉官房長官を議長に経済産業大臣、文部科学大臣、総務大臣、科学技術政策担当大臣、原子力委員会委員長、内閣官房副長官、資源エネルギー庁長官らで構成されている。
関係閣僚会議で「高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた新たなプロセス」として、「国が科学的根拠に基づき、より適性が高いと考えられる地域(科学的有望地)を提示する」とし、その上で「国が前面に立って重点的な理解活動を行った上で、複数地域に対して申し入れを実施する」ことを決めた。廃棄物WGでこのような取組をすることを議論していたわけではなく、まさに唐突に上から諮問内容が降りてきたのだった。
その後、科学的な適性について、地球科学的観点(世界自然遺産など地層の長期安定性など)ならびに社会科学的観点(他の法による制約や人口密度、地権者数など)から要件・基準づくりが進められた。前者は地層処分技術ワーキンググループで審議された(以下、技術WG)。
また、その後の閣議決定で、科学的有望地は地図上に色分けして示すとされた。すなわち適性の低い地域、適性のある地域、適性のより高い地域の3色マップが想定された。適性のより高い地域が科学的有望地である。そして、地図は2016年中に公表することが第5回関係閣僚会議で決定された。
地図作製と公表に向けて、要件・基準が技術WGで16年8月に取りまとめられ、1ヶ月のパブリックコメントにかけられた。このパブコメを受けて、用語の見直しを行うことになった。理由は、より適性が高いと区分された地域に国が申し入れて処分地が作られるとの印象が強すぎ、誤解をうむからだ、としている。また、杤山修技術WG座長は「各方面からいただいた指摘を真摯に受け止め丁寧に対応していく」ためには「科学的知識を専門家ほど持ち合わせておらず地層処分に馴染みのない情報の受け手の立場に立って、意図することが分かりやすく伝わるようになっているかを精査することや、例えば津波への対応など、国民の関心が高いもののとりまとめ案ではあまり触れていない点についてもう少し丁寧な説明を加えること等が、取り得るアクションではないかと考えている」と説明している。
しかし、それまでに3回の全国シンポを開催して科学的有望地の説明を行い、全国の自治体に対しても2回の説明会を開催している。その上、経産省がパブコメに出された意見を受け入れるのは稀なこと、どうも腑に落ちない。
さまざまな情報から16年暮れ頃に解散総選挙があるかもしれないという政治の動きがあったことが、公表の延期の隠れた理由と考えられる。鹿児島県知事選、新潟県知事選で原発が争点となって自民党が連敗したことが、背景にある。もっともこの理由をストレートに出せないから、誤解を与える表現といった理由で見直すことにしたのではないか。

 

第1回関係閣議決定後の変遷
そこで、第1回関係閣僚会議で示された科学的有望地、国が前面に立っての重点的な理解活動、国による複数地域への申入れ、という3点がどう変化してきたかを以下に述べたい。

 

科学的有望地
科学的有望地の「有望地」という表現が処分地を決めうちするような印象を与える理由から、「地域の科学的特性」と呼び変えた。もともと決めうちするものでないことは全国シンポなどで説明している上に、これが段階的な処分地選定の入り口である文献調査のさらに前段のものであるとの説明も行っているのだから、用語変更の理由としては乏しい。
なによりも2002年からNUMOが全国の自治体に対して文献調査の公募を行っているが、未だに応募がない状況を背景に、処分地選定を一段と進めるために関係閣僚会議が上記の新たな選定プロセスを決定し、複数の場所に申し入れるとした。ある意味で「決めうち」を閣議決定したのに、用語の見直しによって、この姿勢は大きく後退したようだ。
「地域の科学的特性」に変更したのに伴い、「適性が低い」という用語は「好ましくない特性があると推定される」に変更された。そして、「適性がある」は「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」に、「適性のより高い(科学的有望地)」は「輸送面でも好ましい」と変更された。
科学的な要件・基準の内容の変更に伴う用語の変更なら理屈は通っているが、内容が変わらず、用語だけを変更しているのだから、より分かりにくくなったというのが筆者の印象である。おそらく、多くの人がそう感じているだろう。

 

重点的な理解活動
国(経産省)による重点的な理解活動は、いつの間にかNUMOにすり替わっている。小林大和放射性廃棄物対策課長は原子力委員会の第2回放射性廃棄物専門部会でヒアリングを受けた時に、経産省は「NUMOを監督する立場にもあり、かつ必要に応じて指導したりしていくという立場でもありますので、NUMOが先々地域でいろいろな対話をしていく上でどういうようなことを進めていくことが適当なのだろうかということは国のある種のパイロット事業的なことを進めておりまして」(6月24日会合の議事録より)と発言している。
廃棄物WGの資料でも、国は全国規模のシンポを中心に展開し、NUMOが主として地域での対話活動という理解活動を展開するという、役割分担をする図が示されている。そしてNUMOが「重点的に」進める対話活動は「適性のより高い(科学的有望地)」地域で行うとされている(最新の図は、第31回放射性廃棄物WGにNUMOが提出した資料にある)。表現の変更後もそれは変わらず「輸送面でも好ましい」地域で実施される。
NUMOが行っている対話活動は現在のところ少人数グループによるものだが、その活動を通して地域での受け入れ合意形成を図っていくことになる。国が前面に出て重点的な理解活動を行うという、関係閣僚会議が当初に描いたイメージからはずいぶんとかけ離れたようである。
なお、輸送面でも好ましい地域とは沿岸から20kmの範囲(かつ標高1500m以下)の地域を意味している。

 

国からの申入れ
第1回関係閣僚会議の決定からすれば、国が地域に文献調査を直接に申し入れると読める。ところが、15年の5月に改定された基本方針では、国はNUMOによる「調査の実施その他の活動に対する理解と協力について、その活動の状況を踏まえ、関係地方公共団体に申し入れる」とされた。ここでは、処分地の選定から処分の実施までを行うNUMOが主体であり、国は前面に立つという印象はない。
第31回の廃棄物WG(4月14日開催)に提出された資源エネルギー庁作成の資料でも、科学的特性マップ提示後に全国・地域における対話を積み重ねることで国民理解が深まり、「調査を受け入れて頂ける地域が出てくれば」文献調査に入るという図になっている。
文献調査を受け入れる自治体が出てこないので国が申し入れるとしたのだが、受入自治体が出てくれば、国が前面に立って申し入れる必要はない。なお、同じ会合にNUMOが提出した資料では、上で述べたように、国からの申入れが図に書き込まれている。どうも、微妙な足並みの乱れがあるようだ。

 

マップ提示の目的
当初は科学的有望地を示すことで、処分地選定を加速させようとしていたと言えるが、最近では、マップ提示は議論のきっかけを作るためとしている。提示によって議論が巻き起こり、地層処分に無関心の人にも関心を高めてもらいたいという。
しかし、マップを提示すれば関心が高まるとするのは早計ではないか。確かに輸送面でも好ましいとされた地域では、処分地選定の対象になるかもしれないことから、関心は高まるにちがいない。だが、「好ましくない特性があると推定」された地域では自分のところが処分地選定の対象地域とならないと安堵して、それ以上の関心は得られないだろう。他人ごとなってしまうだろう。もっとも、その地域はそれほど広くはなさそうだ。圧倒的に広いのは「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」地域だが、NUMOが重点的活動を展開する「輸送面でも好ましい地域」から外れていることから、関心の高まりは思う程には期待できないだろう。
こうした流れをみてくると、第1回関係閣僚会議の国が前面にたって処分地選定を強く進める姿勢からはだいぶ後退したといえる。その理由は明白ではないが、筆者は火中の栗を拾う役人がいないからだと受け止めている(なお、筆者は強力に進めれば良いとの立場ではない。地域住民の主体的な参画のもとで、できれば住民投票などの手段で、受け入れの可否を判断するべきだと考えている。また、現在計画されている地層処分に反対の立場である)。

 

科学的特性の要件・基準
地球科学的観点からは処分場の地質環境の長期安定性を確保できるように以下の避けるべき要件・基準を定めた。
①火山・火成活動:火山から15km、15kmを超えるカルデラの範囲
②隆起浸食:隆起速度が10万年あたり最大90m以上の範囲
③地熱活動:地温勾配が100mあたり15℃より大きな範囲
④火山性熱水・深部流体:pH4.8未満あるいは炭酸化学種濃度が1リットルあたり0.5mol以上を示す範囲
⑤断層活動:活断層とその長さ(セグメント長あるいは起震断層長)の1%の幅を持たせた範囲
⑥鉱物資源:鉱業法で定められている鉱物のうち全国規模で整備された文献データで技術的に採掘が可能な鉱量の大きな鉱物資源の存在が示されている範囲
などである。
文献調査前にマップを作るのだから、全国的規模で整備された文献データに基づくことになる。そうした文献データが整っていない場合には、次善策として代替できるものを使用して判断する。その結果が、上述した要件・基準だ。
これらは地下環境の長期安定性に関するものだが、地上施設および地下施設の建設や操業中の安全性も課題となるため、その要件・基準についても検討した。処分深度まで更新世中期(約78万年前)以降の地層が分布する範囲、また火山については約1万年前以降の火砕流堆積物・火山岩・火山岩屑の分布範囲を好ましくない特性とした。これ以外は対応可能で、地上施設の耐震性や津波対応などの考慮は既存の原子力施設に対する基準が適用される。
社会科学的観点からの要件・基準は文献調査の前に定めることが困難であるとして文献調査後に考慮されていくことになった。人口密度や地権者数など少ない方が、処分地選定作業がより容易になるだろうが、予めその上限値を決めることはできない。例えば条約などで土地利用の制限がある場合は考慮しても良いと筆者は考えるが、経産省は、必ずしも処分地選定ができないわけではないとして、社会科学的観点はマップ提示段階では考慮しないことになった。

 

NUMO公募要件との関係
上記に検討した1~6項目のどれか一つでも好ましくない特性が認められた場合は、「好ましくない特性があると推定される」地域に分類される(図参照)。
他方、NUMOは従来通りの公募方式を継続している。自治体から応募があった場合に考慮するのは①の火山と⑤の活断層のみである。これ以外は文献調査段階で、概要調査地区を選定するために考慮する要件となっている。NUMOの公募資料「概要調査地区選定上の考慮事項」によれば、地震、噴火、隆起・浸食、第4紀の未固結堆積物、鉱物資源と付加的に評価する事項を考慮する。付加的に考慮する事項の中には、地層の特性(岩盤の強度や隆起浸食速度など)、地下水特性(流量・速度、水温、pH、酸化還元性など)、地質環境(評価・モデル化の容易性、土地利用等の制約などを含む)、建設・操業時における自然災害発生可能性、土地確保の容易性、輸送の容易性などがある。考慮では、好ましくない特性に該当する場合があっても「総合的に評価して」判断するとしている。
この点は経産省の姿勢とは大きく異なる姿勢である。例えば、NUMOは火山と活断層の排除要件をクリアした地域から応募があれば、それに対応していくことになり、文献調査、概要調査、精密調査へと進んでいく際に、考慮項目の一部が要件をクリアしていなくても総合的に評価して判断していくことになる。その際に、引き返す条件は示されていない上に、基本的な姿勢は、工学的な対策で地層処分は可能であり、処分できる場所は日本に広く存在しているとするものだ。言いかえると、諸外国のように地層条件を満たす極めて安定な場所は日本にはないのだから、工学的対策をしっかりしないと地層処分できないというものだ。
筆者は廃棄物WGの4月14日の会合の席上、NUMOの藤洋作副理事長に質問した。公募要件を見直す必要はないのかと、姿勢を質したが、回答は「見直す必要があれば見直す」というものだった。だが二重条件では混乱を招く恐れがあり、早急に技術WGの要件・基準に合わせるべきではないか。

(伴英幸)