【原子力資料情報室声明】原発神話の復活と非現実的な原子力政策を懸念する

【原子力資料情報室声明】

原発神話の復活と非現実的な原子力政策を懸念する

――自由民主党総裁選挙・立憲民主党代表選挙での原発を巡る発言について――

2024年9月27日

NPO法人原子力資料情報室

9月、日本政治にとって大きなイベントが2つ行われている。一つは自由民主党総裁選挙(本日(27日)投開票)、もう一つは野党第一党である立憲民主党の代表選挙(23日投開票済)である。

この2つの選挙の中で、両党の候補者の間で異口同音に、電力安定供給のために、安全が確認された原発の再稼働を進めることが表明された。安全が確認されたとは何か。具体的には原子力規制委員会が新規制基準に適合していると認めた原発のことだ。だが、原子力規制委員会自身は「新規制基準に適合している」とは言っても、安全性を確認した、とは言っていない。

問題なのは定義上の問題だけではない。候補者たちはわずか13年前に起きた福島第一原発事故の惨禍とその後の電力供給不足を忘れてしまっているのだ。

原発は危険な放射性物質を内包している。そのため、弱点が新たに判明すれば、場合によってはすべての原発を止めて対応する必要も出てくる。実際、福島第一原発事故後、日本の原発は一度すべての原発が停止した。

大きな事故が起きたために停止したと思われるかもしれない。しかし、2022年夏、フランスの56基ある原発のうち、稼働できたのは27基でしかなかった。29基の停止理由は様々だったが、そのうち12基は同型の原発で配管にひび割れが見つかったからだ。原発ではひとたび何かあれば、同時に大量停止しうるのだ。

2011年、当時は火力発電所が多く存在し、これによって大規模な供給不足を回避した。それから13年経ち、火力発電所は老朽化が進んだ。政府の計画している20~22%という電源構成に占める原発比率(2030年時点)を達成するためには、27基以上の原発再稼働が必要だ。我々はこの目標の達成が可能とは思わないが、仮に27基以上の原発が稼働する中で問題が発覚し、全ての原発が再び停止した場合、現状では電力の安定供給確保は難しい。脱炭素の観点から大量にCO2排出を増やすことが許される状況でもない。2012年に大飯原発3・4号機再稼働を国が要請したように、電力供給のためにと称して、危険な原発を動かすことを迫られないとも限らない。

自由民主党総裁選挙ではさらに懸念される発言が多くみられる。例えば、AIやデータセンターなどによる将来の電力需要増加予測を背景にした原発の新増設、さらには核融合への期待である。

電力中央研究所の示す2050年の電力需要は、データセンターや電化などの需要増加を見込んだ場合でも、高位予測で1.27兆kWh、低位予測で0.94兆kWh(2021年現在0.92兆kWh)である[i]。一方、今、原発の新設計画を進めたとして、実際に運転開始に至るのは10年以上先の話である。ちなみに今年運転開始したフランスの新設原発は建設だけで17年を要している。

再稼働だけでも巨額の投資が発生している中で、今、原発を複数基、建設できるような自力のある原子力事業者はいない。現在、原子力小委員会で議論されているふんだんな原発支援が行われたとしても、2050年までに増やせる基数は数基止まりであろう。仮に高位予測が当たった場合でも、新設原発は規模も時間軸も合わない。

核融合に至っては雲をつかむような話である。現在、核融合に関する動きが活発だが、発電技術として使うには多くの技術的課題がある。仮に実証できたとして、例えば再生可能エネルギーと比べて競争力を持てる電源となりうるめどは全く立っていない。政府が後押ししたとしても、2050年までに商業利用できる状況では全くない。

与党と野党第一党の党首を選ぶ選挙は、日本の進む道を議論する場でもある。そのような大事な政策議論は、現実に即した地に足の着いたものであらねばならない。

以上


[i] www.occto.or.jp/iinkai/shorai_jukyu/2023/files/shoraijukyu_04_02_01.pdf

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