残された時間 2022年の展望

『原子力資料情報室通信』第571号(2022/1/1)より

松久保 肇

 新年明けましておめでとうございます。 旧年中はNPO法人原子力資料情報室の活動にご理解とご協力をいただき、まことにありがとうございます。今年もご支援・ご協力をお願い申し上げます。

 昨年を振り返ると、原発再稼働基数は美浜3号が6月に再稼働し、1基増の10基(995.6万kW)だった。ただし、日本エネルギー経済研究所が2021年中に再稼働すると見込んだ最大4基と比べると大幅に少ない。これは高浜1・2号、柏崎刈羽7号が再稼働できなかったためだ。なお、美浜3号はテロ対策施設が設置期限に間に合わず、10月に再び停止した。
 廃炉となった原発は24基(1742.3万kW、東海、浜岡1・2号含む)、新規制基準審査中は10基(1068.1万kW、建設中の大間、島根3号含む)、審査合格は7基(710.9万kW)、未申請は9基(963万kW、東電東通含む)となっている。


再稼働をめぐる動き
 福井県がこれまで関西電力に求めていた使用済み燃料の中間貯蔵施設県外候補地選定について、関西電力はたびたび延期していた回答期限を2023年に再延期し、福井県はこれを了承。40年超運転となる美浜3号、高浜1・2号の再稼働を容認した。
 新潟県は、福島第一原発の事故原因や、原発事故が健康と生活に及ぼす影響、安全な避難方法について、委員会で検証してきた。この間相次いで発覚した核物質防護体制の不備、柏崎刈羽6号の大物搬入建屋の杭損傷(本誌 武本論考参照)、安全対策工事の不備などにもかかわらず、県側は議論の収束を図っており、11月には初めての県主催の住民説明会も開催された。資源エネルギー庁幹部が柏崎刈羽7号の再稼働にむけて県側に積極的な働きかけを行っていることも明らかになった。一方、東京電力は第四次総合特別事業計画で、柏崎刈羽7号が2022年10月、柏崎刈羽6号が 24年4月、柏崎刈羽1~5号のうち1基が28年に再稼働する見通しを示した。
 9月に新規制基準に合格した島根2号(工事完了は2021年度中)では、島根県松江市、鳥取県米子市・境港市で再稼働の賛否を問う住民投票を求める署名数が必要数を達成、さらに、島根県出雲市でも来年1月から署名募集が開始される。また、中国電力が島根県・松江市の間で締結している原子力安全協定について、30km圏内の島根県出雲市・安来市・雲南市、また鳥取県と米子市・境港市が事前了解権のある協定の締結を求めている。中国電力は一定の譲歩を示したが、事前了解権は受け入れていない。
 泊原発では1号機原子炉建屋近くのF-1断層の活動性が議論されてきたが、原子力規制委員会は活断層ではないという北海道電力の主張を受け入れた。本誌545号(2019年11月1日発行)で小野有五氏が同断層の活動性を詳細に分析している。
 東北電力は女川2号の2022年度以降の再稼働を見込んでいるが、地元住民が計画の実効性を焦点に再稼働差し止めを求める訴訟を提起している。
 日本原電の東海第二原発については12月、原子力規制委員会がテロ対策施設の審査を終えた。安全対策工事は2022年12月に完了予定、またテロ対策施設の設置期限は2023年10月となっている。一方、3月に水戸地裁が東海第二原発の運転差し止めを命じる判決を行った。避難計画の実効性にも多くの問題が明らかになっている。同じく日本原電の敦賀2号については地質データ書き換え問題をめぐって原子力規制委員会が8月に審査を中断、複数回の立ち入り検査を実施している。日本原電は2012年以降、1kWhも発電していないにもかかわらず、2011年から2020年までの東電・東北電・中部電・北陸電・関電からの販売電力料収入合計は1.2兆円に上る。
 九州電力川内原発では40年超運転に向けた準備活動が始まっている。鹿児島県は国の原子力政策に批判的な専門家も含めた委員会を組織し、2022年から延長の可否を議論するとしている。
 北陸電力志賀原発では、関電・中部電と締結していた志賀2号に関する基本計画が2021年3月に期間満了で終了している。2社からの基本料金収入がなくなり、再稼働の見通しの立たない志賀原発を維持する北陸電力はさらに厳しい状況となる。
 中部電力浜岡3・4号では、新規制基準審査が続く。中電は想定津波高さを20.3mから、完成済みの防波堤を超える22.5mに修正するという。


原子力事業環境整備をめぐる動き
 原子力の事業環境をめぐる最も大きな動きは、2020年から北海道寿都町・神恵内村で始まった放射性廃棄物の地層処分の入り口にあたる文献調査だ。文献調査に関心を示す自治体はほかにも複数あるとみられている。
 放射性廃棄物をめぐっては、日本原子力研究開発機構が東濃と人形峠に保管中のウラン廃棄物を米国ユタ州のホワイトメサ精錬所に処分委託する計画が進んでいる。また第6次エネルギー基本計画で、廃炉廃棄物の海外輸出方針が示された(本誌末田論考参照)。こちらも有力候補地はユタ州のクライブ処分場だ。これ以外に12月、室蘭市が原発事故後に福島県内で発生した、放射能汚染された高濃度PCB廃棄物を市内施設での受け入れを表明した。
 本誌で何度か取り上げてきた電力新市場も原子力を下支えする材料だ。容量市場では、原発が再稼働すれば、約定価格にもよるが100万kWの原発で年間80億円程度の収入になる。非化石価値取引市場はFIT以外の再エネや原発の非化石価値を取引する高度化法義務達成市場とFIT電源の非化石価値を取引する再エネ価値取引市場に分割されることになったが、100万kWの原発が設備利用率70%で発電した場合、年間37億円の収入となる。合計100億円程度の収入だが、40年運転で4,000億円、60年となると6,000億円の収入になる。
 昨年末以来の卸電力市場の価格動向も気にかかる。新型コロナウィルスからの回復に伴う経済活動の活性化や天候不順などから、国際的なLNG需要が拡大し価格が上昇、また国内の9割近い電源を握る大手電力の市場への売り入札行動の変化が背景にある。大手電力は国際市場でLNGを転売したほうが有利な場合、転売しているという。その時、電力供給に必要な電力は市場から調達しているようだ。つまり、市場への供給量は減り、需要は増える。結果、市場価格が高くなるというメカニズムだ。市場価格が変動する中で、一定出力で発電する原発は市場価格安定に有効であるという声が高まりかねない。


2030年代・50年代の崖
 10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、2030年時点の原発の電源構成に占める割合を20-22%に据え置いた。この目標達成にはおよそ30基の原発の稼働が必要だ。この目標が達成不可能なことは明らかだが、さらに大きな問題がある。廃炉になっていない原発は2021年現在33基(建設中の3基除く)だが、40年稼働の場合は2039年に、60年稼働の場合でも2059年には10基未満になるのだ。国は新増設・リプレースは現時点で考えていないとしており、現実的にも極めて厳しい。つまり、この激減する設備容量を別の電源で補う必要が出てくる。だが、政府は脱原発方針を打ち出さないどころか、小型原子炉への投資などを議論しており、将来の電源への投資の予見可能性が著しく低くなっている。
 日本原燃は六ケ所再処理工場の2022年度上期竣工予定という旗を依然下ろしていない。これも実現不可能な計画だ。
 私たちはすでに事故から11年、不毛な費用を原子力産業に費やしてきた。これ以上の猶予はない。

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