検査ができない再処理工場・直下地盤がゆれを増幅するMOX工場

『原子力資料情報室通信』第570号(2021/12/1)より

直接検査できない機器が多数

 『原子力資料情報室通信』第565号(2021年7月1日)の記事「六ヶ所再処理工場 耐震不足だが補強工事ができない汚染された機器」の最後の段落で、日本原燃がおこなう使用前事業者検査のことについて触れた。
 2020年7月29日に事業変更許可がおりた六ヶ所再処理工場について日本原燃は、12月24日にMOX燃料加工工場(12月9日に事業変更許可)と同時に第1回の設計及び工事の計画に関する認可(設工認)の申請をした。第1回の中で申請されたおもなものは、安全冷却水B冷却塔(再処理)と燃料加工建屋(MOX工場)である。その後、設工認の審査が審査会合(月に1回)と非公開の事業者ヒアリングですすめられている。
 審査の過程で、再処理工場の使用前事業者検査がきちんとできるのか、という疑問が原子力規制庁側から提起され、原燃に説明するよう求めた。新しくなった現在の検査制度では、使用前事業者検査の結果から規制庁が使用前確認をおこなうことになっている。
 アクティブ試験をおこなったことによって、人間が入れないほどに汚染された工程の区画(レッドセル)がいくつも出現した。核燃サイクル1万人原告団は、1月22日の六ヶ所再処理裁判の口頭弁論で、汚染のためセル内に人が立ち入れないので補修などができず、そのため、耐震不足だが補強工事ができない機器がある、と指摘していた。おそらくこの指摘がきっかけとなって使用前事業者検査のことがクローズアップされたのだろう。
 日本原燃は5月25日の審査会合で、直接検査できない機器類が約5,300機器あると説明した。

使用前事業者検査の実施方法について

 「使用済燃料の再処理の事業に関する規則」では、使用前事業検査を実施する方法として、次のように規定している:
1.構造、強度及び漏えいを確認するために十分な方法
2.機能及び性能を確認するために十分な方法
3.その他設置又は変更の工事がその設計及び工事の計画に従って行われたものであることを確認するために十分な方法
 使用前事業者検査として日本原燃が実際におこなう項目は、使用材料の化学成分・機械的強度などが設工認通りであること【材料検査】、寸法(高さ、幅、奥行、板厚)が設工認通りであること【寸法検査】、検査圧力に耐え漏えいがないこと【耐圧・漏えい検査】、設工認通りに据え付けられ、外観に有害な欠陥がないこと【据え付・外観確認】、である。
 これらの検査は実地でおこなうことが必要なものばかりである。ところが、日本原燃は、アクセスできない機器については、過去の記録を組み合わせて実地の検査に替えるというのである。これは、設置時およびそれ以前の記録から、現時点での状況を把握することになるので、記録の信頼性確認と現状把握の両方の点において問題は大きい。
 とくに、再処理工場では金属を腐食させやすい硝酸が大量につかわれるため、容器や配管が腐食しているのを見逃して放射性廃液の漏えい事故を引き起こす危険性がある。

漏えい事故が起きないと容器の損傷がわからない

 6月28日の審査会合での日本原燃の説明資料には、「腐食を考慮する容器等の使用前事業者検査の判定基準(既設設備)」の方針が書かれている。「既設の腐食を考慮する容器等は、設計腐食代を確保していること及び試験運転による腐食の進行を考慮しても技術基準を満足していることが必要」として、このような容器の使用前事業者検査【寸法検査】では、
(1)新設時の板厚が「公称値の許容範囲内(素材の公差及び加工公差)」
(2)現状の板厚が「最小厚さ以上」
(3)「初回の定期事業者検査までの期間以上板厚が確保できること」
を判定基準とする、としている。
 (1)は一応確認できるとしても、(1)から(2)について危険性を過小評価することなく科学的に推測することは困難で、(2)から(3)への同様のステップはさらに難しくなる。腐食の進行の速さを想定するにも現場の状況がわからなければはじまらない。さらに以降の定期事業者検査では不確実さが大きくなるため、より状況の把握が困難になり、容器や配管から使用済み燃料の硝酸溶液が大量に漏えいしてはじめて破損がわかる、ということになりかねない。

過去の記録のみによる使用前事業者検査

 日本原燃が7月26日に最終的に示してきた使用前事業者検査の対象となる建物・構築物・機器・配管の分類について、円グラフ(図1)と表(表1)を示す。表中の「F施設」は使用済み燃料の受け入れ・貯蔵施設(受け入れ建屋と貯蔵建屋)のことを指している。円グラフの破線で囲んだ部分が耐震補強を含めて改造工事などが予定されていない対象物である。
 それまでの資料とは、配管の数え方を変えており、また、建物・構築物と配管についてはアクセス可能かどうか明確にはされていない。重大事故等対処設備の配管のうち、セル内の2,183箇所の配管はアクセス困難ということだろうが、それ以外についてはどう判断しているのかよくわからない。
 この表の「既設(改造なし)」+「配管」+「F施設」あわせて54,301箇所の検査対象のうち、グレーで色をつけた部分37,680箇所の対象物(約70%)について、(アクセスが困難なため)日本原燃は実検査はおこなわずに記録の確認で使用前事業者検査に代替する、といっている。これでは、建物・構築物や配管について、たとえアクセス可能で実検査ができたとしても、記録確認ですませることができてしまう。現時点においても、日本原燃が六ヶ所再処理工場の状況全体がどうなっているのかをつかめていないのに、ますますあやしくなってくる。
 また、「既設(改造あり)」の対象物が118箇所と予想以上に少なく、必要な耐震補強などをごまかしているのではないか、という疑いは依然として強く残っている。
 この日本原燃の方針について、規制庁は大きな疑問を呈することなくそのままあっさりと認めてしまっている。

図1 使用前事業者検査の対象の分類

MOX工場の地震応答解析

 六ヶ所再処理工場のウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX粉末)貯蔵施設の南側に、MOX燃料加工工場(MOX工場)の建設が予定されており、基礎版部分と地下の壁の一部が建設されたところで、福島第一原発事故が起き、中断している。
 日本原燃は、敷地内を走るf-1とf-2の2本の断層を境に、敷地の地盤を図2のように、「西側地盤」、「中央地盤」、「東側地盤」の3つに分けてモデル化し、耐震計算をおこなっている。今回、MOX工場の設工認で申請した燃料加工建屋は東側地盤に設置される建設中断中の建屋である。
 再処理工場の敷地内には、地下の地質構造を調査するためにたくさんのボーリング孔があけられて、土壌のサンプル採取などがおこなわれている。また、ボーリング孔を利用してPS検層という振動をつかった地下の探査も数多くおこなわれている。図3に白と黒の丸で示したものがPS検層の位置である。今回の申請にあたり、PS検層を追加しておこなっており、燃料加工建屋の直下でも複数取得されている。
 建屋の耐震性をみるために、基準地震動を入力する解放基盤表面から建屋の直下および建屋の周辺の地盤がモデル化され、地震応答解析がおこなわれる。燃料加工建屋の地震応答解析を実施するにあたって、日本原燃は以前の設工認のときの地盤モデルをそのまま採用して、地震応答解析をおこなっていた。3月15日の審査会合で、規制庁から新たに取得したPS検層によるデータを地盤のモデル化に使用していないことを指摘された。

 

図3 PS検層位置(PS:PS(well)logging。P波とS波のこと。)

 

敷地地盤データの更新によって燃料加工建屋のゆれが増幅

 6月28日および8月30日の審査会合の資料をみると、基準地震動Ss-A(最大加速度700Gal)に対する、新たに取得したデータを用いた地盤モデルでの解析結果としては、加速度、せん断力、曲げモーメントいずれも、以前の地盤モデルの結果より大きな値となっている。図4のように建屋基礎版下での入力地震動の結果を見ても、建屋の固有周期付近をはじめ多くの周期帯で従来の結果を上回っている。また,図5に示すように、建屋の基礎版より上部の最大加速度をみると、4割ほど大きな値が得られている。
 それでも日本原燃は、燃料加工建屋の解析結果としては検定基準以下におさまる見通しだ、としている。しかし、機器・配管類の評価はまだされておらず、再処理工場の建屋に対しての再評価はこれからである。
 また、地盤モデルの妥当性が疑われるのは、解放基盤表面より上部だけに限らないのではないか。六ヶ所再処理工場およびMOX工場の場合、標高-3045mの位置に地震基盤が設定されており、そこから解放基盤表面である標高-70mまでの地質構造のモデルについても再検討すべきではないか。その場合には、基準地震動がいまより大きくなる可能性がある。

図5 燃料加工建屋の最大応答加速度の比較(Ss-A)

 

■参考資料
●原子力規制委員会、第405回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合(2021年5月25日)、
 資料1 使用前事業者検査の実施方針及び設工認申請に係る対応状況 (https://www2.nsr.go.jp/data/000353151.pdf)
●原子力規制委員会、第407回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合(2021年6月28日)、
 資料2-1 使用前事業者検査の状況及び設工認申請に係る対応状況 (https://www2.nsr.go.jp/data/000357277.pdf)
 資料2-2 地盤の支持性能に係る基本方針に関する地震応答解析における地盤モデル及び物性値の設定について
 (https://www2.nsr.go.jp/data/000357274.pdf)
●原子力規制委員会、第409回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合(2021年7月26日)、
 資料1 使用前事業者検査の状況及び設工認申請に係る対応状況 (https://www2.nsr.go.jp/data/000360012.pdf)
●原子力規制委員会、第411回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合(2021年8月30日)、
 資料1 設工認申請に係る対応状況 (https://www2.nsr.go.jp/data/000363239.pdf)
●原子力規制委員会、第32回原子力規制委員会(2021年9月15日)、 
 資料3 日本原燃株式会社再処理施設及びMOX施設に係る設計及び工事の計画の認可申請に関する審査の状況 (https://www.nsr.go.jp/data/000365122.pdf)

   
(上澤千尋)

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