国際MOX燃料評価(IMA-International MOX Assessment)

国際MOX燃料評価(IMA-International MOX Assessment)

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国際MOX燃料評価プロジェクト(INTERNATIONAL MOX ASSESSMENT)1995-1997
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IMA最終報告書(英語版)全文ダウンロード
cnic.jp/english/publications/pdffiles/ima_fin_e.pdf

日本語版報告書『MOX総合評価-IMAプロジェクト最終報告』
高木仁三郎、マイケル・シュナイダー他 著
定価:2700円+税 1998年刊
www.pen.co.jp/syoseki/datugen/9828.html
www.pen.co.jp/tachiyomi/t-datugen/tachi9828.html
www.pen.co.jp/syohyou/s-datugen/syohyou9828.html

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 原子力資料情報室が2年計画で進めてきました、「国際MOX燃料評価プロジェクト」(International MOX Assessment :IMA)は、フランス、ドイツ、イギリスの研究者とともに、急な動きを見せている、いわゆるプルサーマルに関して、環境・健康面、安全保障の面、技術的安全性の面、経済性、バックエンド政策の面、社会的・法的側面、輸送の諸問題など包括的な角度から検討し、「MOXの軽水炉利用の推進には、今やなんの合理的な理由もなく、社会的な利点も見出すことができない」と結論し、政府や電力会社に対して、海外再処理契約の解消や「もんじゅ」の閉鎖、電力会社によるMOXの総合評価を求めるなど、10項目の提言を行なっています。
 原子力資料情報室は、プルサーマル計画が十分な資料に基づく議論のないまま進められようとしていることを憂慮すると同時に、この研究が広範な議論を進めるきっかけになることを願っています。また、この研究は、当室代表の高木仁三郎とフランスのワイズ・パリ主宰のマイケル・シュナイダー氏のライト・ライブリフッド賞受賞につながった大きな研究です。

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IMAは、INTERNATIONAL MOX ASSESSMENT(国際MOX燃料評価プロジェクト)の略称です。原子力資料情報室は1995年11月からこのプロジェクトを発足させ、研究活動をおこなってきました。1996年には京都で中間報告会を開催し、その記録はIMA中間報告会記録集「MOXを評価する」(原子力資料情報室発行・1200円)として公表されています。研究開始後2年を経て最終報告書 “Comprehensive Social Impact Assessment of MOX Use in Light Water Reactors” (「MOX燃料の軽水炉利用の社会的影響に関する包括的評価」:英文)を発表しました。

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IMA プロジェクトは以下の財団からの研究助成を頂きました。
トヨタ財団/W.Alton Jones FoundationJohn Merck Fund/Ploughshares Fund

※高木仁三郎「MOX燃料を評価する」トヨタ財団レポート78号(1996年12月)
www.toyotafound.or.jp/profile/foundation_publications/zaidanreport/data/tr_no78.pdf

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報告書の目次(概要)[日本語要約版による]

第1章 序論―とくに環境、健康との関連についての概説(高木仁三郎)
第2章 MOX燃料使用の安全保障上の問題(フランク・バーナビー)
第3章 軽水炉でのMOX使用の安全性問題(高木仁三郎、上澤千尋)
第4章 軽水炉でのMOX使用の経済性―日本の現実に基づく分析(西尾漠)
第5章 MOXとバックエンド政策(ミヒャエル・ザイラー、高木仁三郎)
第6章 社会的・法的側面から見たMOX計画
    ・第1部 MOX使用の法的側面-日本からの一視点(保木本一郎)
    ・第2部 MOXと社会(アレクサンダー・ロスナーゲル)
第7章 MOX利用における放射性物質の輸送(細川弘明、高木仁三郎)
第8章 結論と提言

最終報告書の目次(英語版)

FOREWORD
Summary ReportChapter 1 Introduction into General, Environmental and Health Aspects (Jinzaburo Takagi)
Chapter 2 The Security Aspects of the Use of MOX as Nuclear Fuel (Frank Barnaby)
Chapter 3 Safety Aspects of MOX Use in LWRs (Jinzaburo Takagi and Chihiro Kamisawa)
Chapter 4 Economics of MOX Use in LWRs –An Analysis Based on Japanese Realities (Baku Nishio)
Chapter 5 MOX and Back-end Policy (Michael Sailer and Jinzaburo Takagi)
Chapter 6 Societal and Legal Implications of MOX Use
Part 1: Legal Aspects of MOX Use –A Japanese Perspective (Ichiro Hokimoto)
Part 2: MOX and Society (Alexander Rossnagel)
Chapter 7 Transportation of Radioactive Materials(RAM) in MOX Utilization (Komei Hosokawa and Jinzaburo Takagi)
Chapter 8 CONCLUSIONS AND RECOMMENDATIONSAnnex 1 Plutonium Fuels at Crossroads: MOX at the Ultimate Justification for the Production of Plutonium –for How Long Yet? (Mycle Schneider and Mathew Pavageau)
Annex 2 Contribution Papers to the IMA Project
[a] Core Physics related Safety Aspects of MOX Fuel Burning in Light Water Reactors (Richard Donderer)
[b] Safety Aspects of Unirradiated MOX Fuel Transport (Edwin Lyman)
[c] Current State and Perspectives for MOX-Fuel Use in Russia (Alexander Dmitriev)
[d] Impact of U.S. Plutonium Decision-making on Japan’s Plutonium Program (Paul Leventhal and Steven Dolly)

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報告書”Comprehensive Social Impact Assessment of MOX Use in Light Water Reactors” (MOX燃料の軽水炉利用の社会的影響に関する包括的評価)について

 最新のデータに基づき、国際的なチームで徹底研究した。共同研究9人、論文寄稿者を含め助言者・協力者の専門家が16人、他に3人の査読者もお願いした本格研究である。以下にその要点を紹介する。

■核物質防護・保安

・原子炉級のプルトニウムもどんなに低くても1kt以上の核爆発力を持つ原爆になるし、それをつくるのに高度な技術がいらないことが、最新のアメリカの調査で明らかになった。

・大型の再処理・MOX工場では、有意量SQ(原爆製造可能量)の何倍、何十倍の計測誤差が生じてしまい、転用防止は不可能に近い。

・テロリストの核施設攻撃も国際的に切実な問題となった。

・防護を強化しようとすれば、大型のMOX計画の場合、市民的自由を大幅に制限しなければならない。日本の2010年までの計画通りのプルサーマルを実現するには、5000人以上の特殊警備員が必要となろう。

・世界の民事用分離プルトニウムは再処理の結果増え続け、1996年段階ですでに160トン、再処理を続けると一層増える。MOX計画はとても余剰を吸収できない。1996年に分離されたプルトニウムは世界で22トンで、MOX等で使われたのは8トンにすぎない。

■安全性

・燃料、原子炉の運転上の特性にいくつかの変化が生じ、異常事態が事故につながる可能性を否定できない。

・過酷事故の起こった場合の影響は、同線量の距離がウラン炉心の約二倍、面積で4倍に増え、地域と風向き次第では、300レム(半致死線量)内の人口が、ウラン炉心の場合の数万人レベルから数十万人レベルに一気に増える。

・再処理工場の放射能放出は今世界中で問題となり、ヨーロッパでは汚染の増加と小児白血病の発生は確実になった。

■経済性

・MOX燃料を3分の1炉心装荷すると、ウラン燃料に比べて、2.5倍の燃料費増となる。

金額にして、ウラン炉心の燃料費年間44億に対して、約110億、すなわち約70億円増である(日本の実状に基づいた計算)。

・仮に、日本の16の原発でプルサーマルをやると、全体で年間1000億の経費増となる。

■バックエンド政策

・使用済み燃料は、直接管理(処分)するのが、経済的にも、安全上も、廃棄物管理の上からも最も望ましく、再処理・プルサーマル路線のメリットはない。日本の海外との再処理契約は解消できるし、されるべきである。輸送の安全性について全面的に見直した後、使用済み燃料の残存分は日本に返還されるべきだ。残存プルトニウムは高レベル廃棄物と混合するなどして、廃棄する方向で検討すべきだ。

■プルトニウムおよびMOXの輸送-安全と安全保障が犠牲に
 関連する輸送がどのようなものか、今計画されている福島第一原発3号炉のMOX計画を見てみよう。この計画では、核物質と核廃棄物が日本とヨーロッパの間を何回もいったり来たりする。1種類の輸送物について1回の輸送を考えたとしても、これらの物質の合計の輸送距離は、10万キロメートルにも達し、地球を2まわりもする。これは警備官と保険会社にとっては悪夢にほかならない。

■結論

 IMA(国際MOX評価)プロジェクトの共同研究者は、次のような結論に達した。プルトニウム分離とMOXの軽水炉利用という路線のデメリットは、核燃料の直接処分の選択肢に比べて圧倒的であり、それは、産業としての面、経済性、安全保障、安全性、廃棄物管理、そして社会的な影響のすべてにわたって言える。換言すれば、プルトニウム分離の継続とMOXの軽水炉利用の推進には、今や何の合理的な理由もなく、社会的な利点も見出すことができない。

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IMA最終報告書 第8章 結論と提言(”Conclusions and Recommendations”)の要約

[結 論]

 プルトニウムは本質的に人工の放射性元素で、天然にはこの惑星ではごく一部の地域でほんのわずかに見いだされるにすぎない。ウランを燃料とするどのようなタイプの原子炉(100万キロワット級)も、1年におよそ200キログラムのプルトニウムを生産する。初期には、プルトニウムの同位体で最も重要な、半減期24,000年のプルトニウム239が大量に生産されて大量殺戮の兵器へと組み込まれ、この兵器はその恐るべき性能を1945年に長崎で示した。

■この世で、最も毒性の強い元素の一つ

 プルトニウムはよく知られた発ガン性の物質であるが、各種のプルトニウム同位体の組み合わせで成り立ち、民事原子力計画の中で一般的に用いられる原子炉級プルトニウムは、純粋のプルトニウム239よりも8~10倍も毒性が高い。
 たった1グラムのプルトニウムが、4,000万人もの一般公衆の吸入の年摂取限度に相当する毒性を持つ。
 プルトニウムの問題を議論するときは、常にこのことを念頭に置かねばならない。

■高速増殖炉は放棄され―MOXが推進される

 プルトニウムの分離は、軍事目的以外にも、当初高速増殖炉の開発を正当付けの理由として進められた。しかしながら、高速増殖炉はアメリカとヨーロッパで完全に放棄された。フランス政府は、高速増殖炉計画の失敗を認め、西側の世界で唯一の工業規模の高速増殖炉、スーパーフェニックスを完全に閉鎖した。日本のもんじゅは1995年のナトリウム火災以降閉鎖されたままである。日本においても、今後大きな高速増殖炉計画が実施されるような現実的な見通しはまったくない。その結果として、プルトニムを分離するというかつての決定のツケとして発生した、ぼう大な量の余剰プルトニウムを消費するために、軽水炉のMOX(ウランとプルトニウムの混合酸化物)利用が推進されつつある。

■プルトニウム備蓄は今も増え続けている

 2000年までには、(核兵器の外にある)米ロの分離核兵器級プルトニウムはおよそ160トンになるだろう。そのうえ、民事プルトニウム備蓄もとくにヨーロッパで増え続ける。1996年度だけを見ても、22トンの民事プルトニウムが分離され、そのうち軽水炉MOXおよび高速増殖炉用として用いられたものは、8トンにすぎなかった。IAEAの推定によると、1996年末までには、世界全体で、160トンが備蓄されている。日本の保有量は、日本政府によれば1995年末で約16トン、すなわち世界の約10%にあたるが、この割合は次第に今後増加し、2000および2010年にはそれぞれ、30トンおよび70トンの備蓄となるだろうと、この研究では予測される。

■すべてのプルトニウムは潜在的に主要な核兵器材料である

 いろいろな「品質」のプルトニウムがある。しかし、われわれの分析は、次の点をまぎれもなく明らかにした。すなわち、ほとんどどのような組成のプルトニウムも、そして、とくに現在日本で稼働するどの原子炉の使用済み燃料から分離されるプルトニウムも、核爆発装置に用いることができる。原子炉級プルトニウムの酸化物結晶を球形にした場合、臨界質量は約35キログラムであり、その半径は約9センチメートル、すなわちメロンほどの大きさである。この酸化物を金属に転換する―化学的には難しくない―と、臨界質量は13キログラムとなる。天然ウランなどの反射材を使うとその量はさらに小さくなる。
 プルトニウム産業は原子炉級プルトニウムは核爆発装置を作るには不向きだと言い続けてきたが、これは誤解を招くものであり、科学的にも誤りである。

■核兵器プルトニウムのMOX処分は望ましくない

 90万キロワット級の軽水炉の3分の1炉心でプルトニウムを照射する場合、核兵器級プルトニウム約170キログラムが毎年消費されよう。核兵器からのプルトニウム合金を転換しMOXに加工するための全産業構造を必要とすることに加えて、この方法では、今後10年間で解体核兵器から生じる140トンの軍事プルトニウムを処理するのに、30基の炉を30年間動かし続けなければならないだろう。

 この実施は、長い時間にわたってプルトニウムを多くの施設に分散させることにつながり、核拡散防止となるよりはむしろ核拡散を促進してしまうだろう。

■十分でない保障措置

 この研究の科学者グループによれば、巨大な再処理工場(使用済み燃料の年間処理量800トン)の場合、仮に工場のコンピュータによる計算誤差が1%という低い値に抑えられたとしても、95%の確かさで転用が検出される最小量は220キログラムにも達し、それ以下の転用はチェックするのが難しい。その量は、6ないし10個の粗成の核爆弾をつくるのに十分である。

 すでに1987年に、国際原子力機関(IAEA)はMOX燃料加工施設と新規MOX燃料の貯蔵施設における保証措置の問題を「重要事項」としていた。

 新規燃料からプルトニウムを取り出すのは化学的に決して難しい技術ではない。MOX燃料を貯蔵することによって、原子炉サイトは取りも直さず兵器物質の貯蔵所となるわけである。1996年に、IAEAはドイツの原発の運転事業者によって、MOX燃料の検認が拒否されるという問題に直面した。

■信頼できない物理的防護(PP)

 警備上の理由から、核施設の物理的防護の詳細は明らかにされていない。しかし、この研究の独立専門家グループは、その封じ込めと監視(C/S) のシステムについて十分洞察することができ、これらのシステムが破られたり、確実ではないというケースも生まれると推察する。とくに軽水炉MOX計画に伴って、プルトニウムと新規MOX燃料の輸送量および貯蔵量が飛躍的に増えることが警備上の大問題である。アメリカのエネルギー省は、商業炉で核兵器プルトニウムをMOXとして燃やす場合、“殺傷能力のある武器で武装した”特別の警備システムを設けることの必要性を示唆している。

■核テロリズム:増大する脅威

 プルトニウムがますます入手しやすくなっていることと高度に専門化したテロリスト組織が存在することのために、今日核テロリズムへとエスカレートする可能性が今まで以上に高まってきた。これらの組織は前例のないような残忍性と大量破壊手段の使用の実例を示した。これらのグループのあるものが、いずれ粗製の核装置を製造するか同種の効果を持つ脅威を行使するであろうことは、疑いを入れない。

■MOX製造と軽水炉での使用の安全性は疑問

 工業規模のMOXの使用実績は酸化ウラン燃料のそれに比べてきわめて限られている。今日まで軽水炉で使われたMOX燃料集合体の数は、全軽水炉燃料に対して0.2%以下でしかなく、日本とともに英仏の再処理事業の最大の顧客であるドイツにおいてすら、使用比率は最大4%を超えない(年間5,000トンのウラン燃料に対してMOXは200トン)。

 MOX燃料のある種の性質は、軽水炉で使用する場合、とくにある種の過渡事象下では、マイナスの影響を持つ可能性がある。それらとは、

・ウラン燃料に比べて、MOX燃料の融点は20~40℃下がる

・プルトニウムの濃度が増すにつれて、熱伝導度は系統的に下がる

・制御棒の中性子吸収能力が下がる

・いくつかの反応度係数に変化が生じ、これはある種の条件下で原子炉の制御をより難し くさせる

・出力の局所的なバラツキ(ピーキング)が大きくなる

・遅発中性子割合が減り、制御を難しくする

・中性子のスペクトルが硬化する(高いエネルギーにずれる)

 全体として、MOX燃料の導入によって、軽水炉の安全上の余裕は小さくなる。さらに、軽水炉でのMOX燃料の燃焼については、とくにプルトニウム富化度が大きい時や燃焼度が高い場合、安全上不確かな点が多い。

■MOXは過酷事故の影響を悪化させる

 格納容器が機能を失うような過酷な原子炉事故の場合、ウラン燃料の場合に比べてMOX燃料を装荷した原子炉(3分の1炉心装荷)では、ある地点での被曝線量は2.3~2.5倍になる。つまり、それだけ健康への影響も大きくなる。別の表現をすれば、MOXの導入によって同じ線量を受ける距離が増大する(1.8~2倍)結果、それに伴う社会的影響の大きさは、その影響が被害地の面積に比例すると考えれば、3.2~4倍となる。

■MOX燃料サイクルはその各工程で新たな危険を生む

 再処理、燃料加工、使用済み燃料の取り扱いなどのMOX燃料サイクルのすべての過程でプルトニウムの取り扱いが必要となるため、ウラン燃料だけの場合に比べて、各工程の危険度ははるかに増す。とくに、再処理工場からの巨大な放射能放出は、他の核施設に例を見ないもので、環境と健康に深刻な危険をもたらす。

■MOXは燃料コストを大きく増加させる

 本研究グループの独自の分析によれば、MOXを3分の1炉心導入した場合の軽水炉の燃料コストは、ウランだけの場合に比べて、約2.5倍となる。したがって、軽水炉にMOXを導入することを正当化できる経済的な理由は存在しない。日本でとくにコストが高くなる理由は、主として日本での一般的な建設費の高さによるだろう。しかし、ヨーロッパの企業に再処理と燃料加工を委託することでこの不利を回避しようとしても、その分だけ長距離の放射性物質の輸送量が多くなる結果、燃料コストの低下にはつながらない。

■乾式容器による貯蔵が現状では中間貯蔵のもっともよい選択肢である

 技術的な条件に関する限り、そして湿式プール貯蔵と缶型の貯蔵システムとの対比を見る限り、乾式容器貯蔵は、直接貯蔵の選択肢として、安全上の理由から最も望ましいと考えられる。というのは、この方式は、比較的単純で安価な、パッシブな安全装置に依存しているからである。

■核燃料のバックエンド政策としては直接処分が望ましい

 再処理に比べれば、直接貯蔵(処分)の選択肢が多くの理由―とくに次のような点―で好ましい。
・廃棄物の体積:再処理をする選択肢では、直接処分に比べて、少なくとも6倍の体積の放射性廃棄物が発生する

・放射性物質の放出:再処理は大量の液体・気体放射能を環境に放出するが、直接処分では実質的にゼロと見てよい。

・放射性物質の輸送:再処理に伴って日本とヨーロッパの間で、約200回以上の放射性廃棄物の輸送が今後10年間に予想される。

・中間貯蔵:中間貯蔵能力の不足を理由に再処理を選択するのは賢明なことではない。中間貯蔵能力の増大に技術的困難はない。

・廃熱の管理:MOX燃料の方がウラン燃料に比べて、使用済み燃料の廃熱発生量は2から3倍以上となる。

■MOX利用の社会的法的影響は重大

 現在日本の市民は、原子力問題と情報公開に関して、対等な当事者として法的なプロセスや政策決定過程に介入する権利と力を実質的に奪われている。最近の事態は、地方自治体の行政を通じて、住民参加が有効性を発揮しうることを示している。しかしながら、「公衆の安全と警備」を理由にプルトニウム計画に関しては常に企業機密と核物質防護上の機密の保持が正当化され、公衆参加の原理はないがしろにされるので、MOX計画は、民主的で参加型で透明性のある政策決定過程とは、相いれない。

■日本のプルトニウムの長期計画が進行するとどうなるか?―警備のシナリオ

 日本のプルトニウムに関する長期計画が進行し続けると仮定すれば、プルトニウムの貯蔵と加工を含めて全体で約90の施設の防護が必要となろう。400回のMOX燃料の輸送が必要で、そのうちの40%はヨーロッパからのものとなろう。また、ヨーロッパから日本への高レベル廃棄物の輸送については、30から60回が必要であろう。90の施設の防護には、5,400人の警備員が必要となろう(15人ずつ4交代で24時間)。

 核施設の危機状態についてあらかじめ備えておかなくてはならなくなる。アメリカにあるような核非常事態捜査班のような特殊集団がつくられねばならないだろう。そして、核施設の危機状態に対処するために、新たな警察力を養成する必要が生じるだろう。

 社会がプルトニウムを利用するときには、常に警備を強化することへの圧力がかかる。施設の警備に関する不安感が拡大されれば、社会には選択の余地がなくなり、警備の増強を理由に市民的自由が制限されてしまうだろう。

■プルトニウムおよびMOXの輸送―安全と安全保障が犠牲に

 関連する輸送がどのようなものか、今計画されている福島第一原発3号炉のMOX計画を見てみよう。この計画では、核物質と核廃棄物が日本とヨーロッパの間を何回もいったり来たりする。1種類の輸送物について1回の輸送を考えたとしても、これらの物質の合計の輸送距離は、10,000キロメートルにも達し、地球を2まわりもする。これは警備官と保険会社にとっては悪夢にほかならない。

 IMA(国際MOX評価)プロジェクトの共同研究者は、次のような結論に達した。プルトニウム分離とMOXの軽水炉利用という路線のデメリットは、核燃料の直接処分の選択肢に比べて圧倒的であり、それは、産業としての面、経済性、安全保障、安全性、廃棄物管理、そして社会的な影響のすべてにわたって言える。換言すれば、プルトニウム分離の継続とMOXの軽水炉利用の推進には、今や何の合理的な理由もなく、社会的な利点も見出すことができない。

[提言]

■透明性について

 核に関する情報機密に関しては、議会の承認の下に設置された委員会によって全面的に見直されるべきである。この委員会の委員は市民社会から選ばれ、原子力の利害から独立したものでなければならない。委員会は、今後の情報の公開の制限についての勧告をまとめるべきで、その時の原則は、原子力情報は本来的にはすべて公開されるべきものだということである。機密保持の必要性は、事例ごとに検討して判断されるべきである。

■原子炉級プルトニウムの核兵器への利用可能性について

 日本政府は、軽水炉プルトニウムの核兵器利用可能性を認めて真摯な声明を出し、これ以上この点に関して誤った推測がなされないようにすべきである。

■再処理について

 プルトニウムの軍事戦略的重大さと大きな毒性を考慮し、また、「民事」プルトニウムの備蓄がすでに1996年末の段階で世界で160トン、その10%以上が日本の電力会社のものであるという事実も考慮して、これ以上のプルトニウム分離は止めるべきである。

 現在の海外の再処理会社との契約は解消されるべきである。これは、具体的には次のことを意味する。

・まだ再処理されていないで海外にある日本の軽水炉の使用済み燃料、具体的にはCOGEMA社との契約分の800トンないし27%およびBNFL分のおそらく約2,300トンないし90%(BNFLからは正確な数字が得られなかった)は、日本に返還されるべきである。契約下にあってまだヨーロッパに輸送されていない使用済み燃料は、1%程度であるが、これらはもちろん日本で保管すべきものである(数字はすべて、1997年3月時点のもの)。

・現在まで海外で行われた分の再処理廃棄物は、ヨーロッパから日本へ返還されるべきである。しかし、輸送の前には、徹底した影響評価とそれに応じた輸送方法の改善がなされるべきである。

・日本の電力会社と政府は、日本がすべての廃棄物を、再処理役務で決まるカテゴリーごとに引き取ることを公に明言し、この問題でヨーロッパの再処理会社と何らかの取引をしないことを明確にすべきである。また、日本側は、どのような廃棄物をどれだけ受け取るかについて計算を公表すべきである。

・すでに分離されたプルトニウムは、当面はヨーロッパに貯蔵すべきである。そして、日本政府は、英仏の政府とただちに交渉に入り、プルトニウムを高レベル廃棄物と混ぜて処分するための最終パッケージをつくり、プルトニウム分離事業をプルトニウム廃棄体の製造事業へと転換する可能性について話し合うべきである。それらのプルトニウム混合済みの高レベル廃棄物ができたら、日本に返還されねばならない。

・日本政府は1997年3月の火災・爆発事故で運転の止まっている東海再処理工場の永久閉鎖を宣言すべきである。

・日本政府は、六ヶ所再処理工場計画の放棄を宣言すべきである。同工場はまだその建設の初期の段階にあるので、巨額な建設費が無駄になる(ドイツのヴァッカースドルフがかつてそうであった)前に建設を中止することが望まれる。

■高速増殖炉計画について

 高速増殖炉計画は放棄すべきである。もんじゅは永久閉鎖すべきである。日本政府と産業界は―西側世界で唯一の工業規模の高速増殖炉スーパーフェニックスを閉鎖することを決めた―フランスの政府と産業界のそれぞれと、最終的閉鎖と廃炉措置について協議すべきである。

■プルトニウムとMOXの輸送について

 現在のプルトニウムとMOX燃料の輸送は許容しえない危険をはらんでいる。これらは、プルトニウムの廃棄物としての処理と処分に必要な最小限のものに限定すべきである。

■使用済み燃料の中間貯蔵について

 日本政府と電力会社は、使用済み燃料の中間貯蔵について、中間貯蔵施設の立地点となる可能性のある自治体と住民に対して、ただちに協議を開始すべきである。その施設は原発サイトになるかも知れないが、サイトから離れた(AFR)施設となるかもしれない。この協議の最大の目的は、現在の再処理契約でカバーされている使用済み燃料を中間貯蔵に切り替えるために必要な貯蔵施設の受容条件を評価するためである。

 さらに新たに中間貯蔵施設の容量を増大させる場合には、第二段階の協議が必要で、その時には、当該の原発の廃止も含めた新たなエネルギー政策のシナリオをまず検討する必要がある。

■核物質の在庫管理と物理的防護

 核物質の在庫管理の基準は、とくに日本のプルトニウム取り扱い施設において、大幅に向上されねばならない。

 プルトニウム取り扱い施設の物理的防護のレベルも、少なくともアメリカ並みに向上される必要がある。

■MOX燃料加工について

 日本の電力会社は、MOX燃料を日本の軽水炉で使用することについての影響評価を何もせず、また、その使用についてまだ許可が下りてもいない段階で、ヨーロッパのMOX加工会社と契約してしまった。この契約は解消されるべきであり、電力会社は、プルトニウムの製造と使用についての議論がつくされる前に既成事実を積み重ねるようなことはすべきでない。

■MOX燃料の使用について

 日本の電力会社は、技術面、経済性、社会的側面を含むMOX燃料の軽水炉利用についての総合評価をするよう、要請される。その評価報告は、その基づくすべての仮定を公表して行い、また、広範な一般公衆が参加した徹底したチェック・アンド・レビューにかけられねばならない。

■本報告書について

 私たちは、日本政府、電力会社、原子力産業界に対し、この報告書を分析し、プロジェクトの代表に対して意見を提出するよう要請したい。

 プロジェクトのメンバーは、この報告書の結果について、日本の議会、政府ないしここで扱われている問題に関するいかなる委員会に対しても出席して証言する用意がある。

 さらに私たちは、MOXの軽水炉利用に関係したり関心を持ついかなる国の政府、電力、産業界に対しても、この報告書を分析し、そこでの結果に基づいて自らの核政策を検討し直すことを期待したい。

高木仁三郎(プロジェクト・リーダー)、マイケル・シュナイダー(プロジェクト・副リーダー)、 フランク・バーナビー、 保木本一郎、 細川弘明、 上澤千尋、 西尾漠、 アレクサンダー・ロスナーゲル、 ミヒャエル・ザイラー

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プルトニウム軽水炉利用の中止を提言する-プルサーマルに関する評価報告

岩波書店「科学」1998年1月号(VOL.68)掲載
www.iwanami.co.jp/kagaku/

高木仁三郎

注(追記):内容(本文・表)の内容は執筆当時のものです

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プルトニウム燃料を現在通常使われている沸騰水型および加圧水型の軽水炉で燃やすプルサーマル計画に関して、原子力の利害から独立した立場から評価した。その結果、プルサーマル計画は経済性、安全性、安全保障、廃棄物管理、そして社会的影響におよんで多くの不利益をもたらすので、その推進は即刻中止すべきであるとの結論を得た。
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□プルサーマル計画とは なにが問題か
□プルトニウムの危険性
□MOX利用は核拡散を促進する
□不十分な保障措置と核テロリズムの脅威 事故の危険性の増大
□再処理は廃棄物処理をむずかしくする
□経済的、社会的問題
□原子力政策をどうするか-IMAプロジェクトの提言
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私の主宰する原子力資料情報室は、プルトニウム利用の安全性、核物質防護や核拡散の問題、経済性、社会的側面などについて世界全体にある懸念を共有しつつ、日本および世界の民事プルトニウム計画の問題に長い間かかわってきた。そして、とくに最近、軽水炉でのMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)使用-日本でいうプルサーマル計画-が、政府と電力会社によって現実に提起されようとする中で、この計画について、企業や政府から独立した、本格的影響評価を緊急におこなうことが必要だと考えるようになった。そして、トヨタ財団などいくつかの財団の研究助成金を得て、NGOに属する専門家・研究者を主体に国際的研究グループを組織し、1995年11月から97年10月末までの2年間のプロジェクトとして、“MOX燃料の軽水炉利用の社会的影響に関する包括的評価”(通称IMA=International MOX Assessment)を実施、このたび最終研究報告書(1)をまとめて、一応の評価研究を終了した。

■プルサーマル計画とは

以下にこの報告の結論を紹介したいが、その前に日本のブルサーマル計画について、簡単な説明をしておこう。プルサーマルとは、二酸化プルトニウムを二酸化ウランと混合して焼結したいわゆるMOX燃料(通常、核分裂性プルトニウムを3~5%含む)を、現在通常使われている沸騰水型および加圧水型の軽水炉で燃やすことである。以前から計画としてはあったが、高速増殖炉の計画が1995年12月の“もんじゅ”事故以降見通しがつかなくなる中で、“余剰プルトニウム減らし”の側面も含んで、にわかに日本のプルトニウム利用の中心計画となってきた。とくに今年に入ってから、総合エネルギー調査会(通産大臣の諮問機関)の原子力部会報告での推進の基本的方向付け(1997年1月20日)、原子力委員会決定(同1月31日)、閣議了解(同2月4日)、電力会社11社による計画の発表(同2月21日)と矢継ぎ早に、計画の早期実行が打ち出され、表1に示すように、2010年までに全電力会社の合計16~18の原発で、プルサーマルを実施するという全体計画が明らかになった。そして、この全体計画にしたがって、すでに東京電力から福島県と新潟県、関西電力から福井県(それぞれの関連地方自治体を含む)に協力要請が出されている。いっぽう、この計画のためのMOX燃料は、当面、日本の使用済み燃料をヨーロッパで再処理して得たプルトニウムを使って、ヨーロッパで加工され(すでにベルギーで東京電力分の加工が始まっている)、いずれ日本に船で輸送されてくることになっている。手続き的には、各自治体が受け入れれば、電力会社はMOX燃焼にかかわる原子炉の設置許可変更申請をし、それが安全審査の結果許可されれば、計画が実施されることになる。しかし、いまのところ、電力会社の申し入れに対して、各自治体は受け入れを表明していない。

表1:電力11社のプルサーマル導入計画
 

1999年

2000年

2000年代初頭

~2010年

東京電力

福島第一3号炉

柏崎刈羽3号炉

1基

0~1基

関西電力

高浜4号炉

高浜3号炉

 

大飯1~2基

中部電力

   

1基

 

九州電力

   

1基

 

日本原子力発電

   

敦賀2号炉+東海第二

 

北海道雲カ

     

1基

東北電力

     

1基

北陸電力

     

1基

中国電力

     

1基

四国電力

     

1基

電源開発

     

1基

累計

2基

4基

9基

16~18基

■なにが問題か

ウラン燃料(核分裂する主体はウラン235)を燃焼するように設計された原子炉でMOX(核分裂する主体はプルトニウム239,241)を燃焼するとなると、原子炉の運転や燃料加工、取り扱い上の安全性、燃料や使用済み燃料の管理や輸送、軍事転用や核拡散の防止、経済性などさまざまな面で、これまでにない社会内広がりをもって問題が発生しうる。その状況は、図1に模式的に示したとおりである。このように、この計画の実施は社会的に大きな問題を含み、それは関係自治体だけでなく広く国民が関心をもっているはずである。“もんじゅ”事故の後を受けて出された福島、新潟、福井3県知事の提言(1996年1月23日)でも、プルサーマル計画やバックエンド政策(核廃棄物・使用済み燃料管理政策)の将来的な全体像をこれらから派生する諸問題も含めて具体的に明確に示すことが求められている。にもかかわらず、政府、電力会社の計画の説明には、そのような問題の広がりに対する包括的な評価がまったく伴わず、政府の決めた方針だから実施したい、といっているだけの印象を否めない。私たちのプロジェクトは、そのような総合的評価の一つの試みである。その結論は、一口にいえば、プルサーマル計画の実施に対してきわめて否定的なものであるが、この結論に達するまでには徹底した多面的な分析をおこなっている。したがって、単なる反対の立場表明ではなく、具体的にどこにどのような問題があるか、政治的決定がなされる前に今後どのような情報公開・検討・議論がなされるべきか、またそれに基づく意思決定プロセスはどのようにあるべきかについて、技術面と法制面におよんで具体的に指摘し提言もおこなっているので、今後の広範な議論の進展に寄与するところが少なくないと確信する。研究の構成について一言しておくと、共同研究者は高木仁三郎(プロジェクト・リーダー)、上沢千尋、西尾漠(以上原子力資料情報室)、Mycle SCHNEIDER(プロジェクト・副リーダー、フランス、WISE-Paris代表)、Frank BARNABY(フリーの科学コンサルタント、元ストックホルム国際平和研究所所長)、保木本一郎(国学院大学法学部)、細川弘明(佐賀大学農学部)、Alexander ROSSNAGEL(ドイツ・カッセル大学法学部)、Michael SAILER(ドイツ、Oko-Institut研究員)の9人で、ほかにアメリカ、ロシアを含む約20人の研究協力者があった。研究の最終報告書は、英文337ぺ一ジにまとめられているが、そのうち、“要約報告”と“結論と提言”の部分は邦訳され、“要約報告書”として独立の冊子になっている(いずれも原子力資料情報室から入手可能)。以下に本プロジェクトで得られた結論と、原子力政策についての提言を述べたい。

■プルトニウムの危険性

プルトニウムは、本質的に人工の放射性元素で、天然にはこの惑星ではごく一部の地域でほんのわずかにみいだされるにすぎない。ウランを燃料とするどのようなタイプの原子炉(100万kW級)も、1年におよそ200kgのプルトニウムを生産する。初期には、プルトニウムの同位体で最も重要な、半減期2万4000年のプルトニウム239が大量に生産されて大量殺戮の兵器へと組み込まれ、この兵器はその恐るべき性能を1945年に長崎で示した。また、プルトニウムはよく知られた発がん性の物質であるが、各種のプルトニウム同位体の組合せで成り立ち、民事原子力計画の中で一般的に用いられる原子炉級プルトニウムは、純粋のプルトニウム239よりも8~10倍も毒性が高い。たった1gのプルトニウムが、4000万人もの一般公衆の吸入の年摂取限度に相当する毒性をもち、この世で最も毒性の強い元素の一つである。プルトニウムの問題を議論するときは、つねにこのことを念頭に置かねばならない。プルサーマル計画では、このプルトニウムが大量に分離、輸送、備蓄されることになるので、以下に述べるように多くの問題が生じてくる。

■MOX利用は核拡散を促進する

プルトニウムの分離は、軍事目的以外にも、当初高速増殖炉の開発を正当づけの理由として進められた。しかしながら、高速増殖炉はアメリカと西ヨーロッパで完全に放棄された。フランス政府は、高速増殖炉計画の失敗を認め、西側の世界で唯一の工業規模の高速増殖炉、スーパーフェニックスを完全に閉鎖した。日本の“もんじゅ”は1995年のナトリウム火災以降閉鎖されたままである。日本においても、今後大きな高速増殖炉計画が実施されるような現実的な見通しはまったくない。その結果として、プルトニウムを分離するというかつての決定のツケとして発生した、膨大な量の余剰プノレトニウムを消費するために、軽水炉のMOX利用が推進されつつある。2000年までには、(核兵器の外にある)アメリカ、ロシアの分離核兵器級プノレトニウムはおよそ160tになるだろう。そのうえ、民事プルトニウム備蓄もとくにヨーロッパで増え続ける。1996年度だけをみても、22tの民事プルトニウムが分離され、そのうち軽水炉MOXおよび高速増殖炉用として用いられたものは、8tにすぎなかった。国際原子力機関(IAEA)の推定によると、1996年末までには、世界全体で、160tが備蓄されている。日本の保有量は、日本政府によれば1995年末で約16t、すなわち世界の約10%にあたるが、この割合は今後しだいに増加し、2000および2010年にはそれぞれ、30tおよび70tの備蓄となるだろうと、この研究では予測される。そして、備蓄されたプルトニウムは核兵器に転用することも可能である。今回のわれわれの分析は、ほとんどどのような組成のプルトニウムも、そして、とくに現在日本で稼働するどの原子炉の使用済み燃料から分離されるプルトニウムも、核爆発装置に用いることができることを明らかにした。原子炉級プルトニウムの酸化物結晶を球形にした場合、臨界質量は約35kgであり、その半径は約9cm、すなわちメロンほどの大きさである。この酸化物を金属に転換する-化学的にはむずかしくない-と、臨界質量は13kgとなる。天然ウランなどの反射材を使うとその量はさらに小さくなる。プルトニウム産業は原子炉級プルトニウムは核爆発装置を作るには不向きだといい続けてきたが、これは誤解を招くものであり、科学的にも誤りである。解体核兵器から生じるプルトニウムをMOXとして処分すれば核拡散の防止に役立つという意見もあるが、それは望ましくない。90万kW級の軽水炉の炉心の3分の1をMOXで置き換えた場合、核兵器級プルトニウム約170kgが毎年消費されよう。しかし、核兵器からのプルトニウム合金を転換しMOXに加工するための全産業構造を必要とすることに加えて、この方法では、今後10年間で解体核兵器から生じる140tの軍事プノレトニウムを処理するのに、30基の炉を30年間動かし続けなければならないだろう。この実施は、長い時間にわたってプルトニウムを多くの施設に分散させることにつながり、核拡散防止となるよりはむしろ核拡散を促進してしまうだろう。

■不十分な保障措置と核テロリズムの脅威

この研究の科学者グループによれば、巨大な再処理工場(使用済み燃料の年間処理量800t)の場合、仮に工場のコンピュータによる計算誤差が1%という低い値に抑えられたとしても、95%の確かさで転用が検出される最小量は220kgにも達し、それ以下の転用はチェックするのがむずかしい。その量は、6ないし10個の粗製の核爆弾をつくるのに十分である。すでに1987年に、IAEAはMOX燃料加工施設と新規MOX燃料の貯蔵施設における保障措置の問題を“重要事項”としていた。新規燃料からプルトニウムを取り出すのは化学的に決してむずかしい技術ではない、MOX燃料を貯蔵することによって、原子炉サイトは取りも直さず兵器物質の貯蔵所となるわけである。1996年に、IAEAはドイツの原発の運転事業者によって、MOX燃料の検認が拒否されるという問題に直面した。警備上の理由から、核施設の物理的防護の詳細は明らかにされていない。しかし、この研究の独立専門家グループは、その封じ込めと監視(C/S)のシステムについて十分洞察することができ、これらのシステムが破られたり、確実ではないというケースも生まれると推察する。さらにプルサーマル計画では核物質を頻繁に輸送する必要があるため、輸送時の保障も重要である。関連する輸送がどのようなものか、いま計画されている福島第一原発3号炉のMOX計画をみてみよう、この計画では、核物質と核廃棄物が日本とヨーロッパの間を何回も行ったり来たりする。1種類の輸送物について1回の輸送を考えたとしても、これらの物質の合計の輸送距離は、10万kmにも達し、地球を2まわりもする。これは警備官と保険会社にとっては悪夢にほかならない。プルトニウムがますます入手しやすくなっていることと高度に専門化したテロリスト組織が存在することのために、今日核テロリズムヘとエスカレートする可能性がいままで以上に高まってきた。これらの組織は前例のないような残忍性と大量破壊手段の使用の実例を示した。これらのグループのあるものが、いずれ粗製の核装置を製造するか同種の効果をもつ脅威を行使するであろうことは、疑いを入れない。アメリカのエネルギー省は、商業炉で核兵器プルトニウムをMOXとして燃やす場合、“殺傷能力のある武器で武装した”特別の警備システムを設けることの必要性を示唆している。日本のプルトニウムに関する長期計画が進行し続けると仮定すれば、プルトニウムの貯蔵と加工を含めて全体で約90の施設の防護が必要となろう、400回のMOX燃料の輸送が必要で、そのうちの40%はヨーロッパからのものとなろう。また、ヨーロッパから日本への高レベル廃棄物の輸送については、30~60回が必要であろう。90の施設の防護には、5400人の警備員が必要となろう(15人ずつ4交代で24時間)。さらに、核施設の危機状態についてあらかじめ備えておかなくてはならなくなる。アメリカにあるような核非常事態捜査班のような特殊集団がつくられねばならないだろう。そして、核施設の危機状態に対処するために、新たな警察力を養成する必要が生じるだろう。そして、社会がプルトニウムを利用するときには、つねに警備を強化することへの圧力がかかる。施設の警備に関する不安感が拡大されれば、社会には選択の余地がなくなり、警備の増強を理由に市民的自由が制限されてしまうだろう。

■事故の危険性の増大

工業規模のMOXの使用実績は酸化ウラン燃料のそれに比べてきわめて限られている。今日まで軽水炉で使われたMOX燃料集合体の数は、全軽水炉燃料に対レて0.2%以下でしかなく、日本とともにイギリス、フランスの再処理事業の最大の顧客であるドイツにおいてすら、使用比率は最大4%を越えない(年間5000tのウラン燃料に対してMOXは200t)。MOX燃料のある種の性質は、軽水炉で使用する場合、とくにある種の過渡事象下では、安全上マイナスの影響をもつ可能性がある(表2)。まず問題なのは、ウラン燃料に比べて、MOX燃料の融点は20~4°C下がる(ウラン燃料よりも少し低い温度で融けてしまう)こと、プルトニウムの濃度が増すにつれて、熱伝導度は系統的に下がること、制御棒の中性子吸収能力が下がる(ブレーキの効果が落ちる)ことである。これらはメルトダウンの可能性を高くする。また、いくつかの反応度係数に変化が生じ、これはある種の条件下で原子炉の制御をよりむずかしくさせること、出力の局所的なバラツキ(ピーキング)が大きくなること、開発中性子割合が減り、制御をむずかしくする可能性があること、これら三つの変化は、原子炉での中性子の反応に関連した重要な性質が変化するもので、原子炉に異常事態が生じた時に事態の収拾を困難にする可能性は否定できない、中性子のスペクトルが硬化する(高いエネルギーにずれる)ことは炉心構造物の早期の脆化にもつながり安全上好ましくない。全体として、MOX燃料の導入によって、軽水炉の安全上の余裕は小さくなる。さらに、軽水炉でのMOX燃料の燃焼については、とくにプルトニウム富化度が大きいときや燃焼度が高い場合、安全上不確かな点が多い。安全性が低下することに加えて、事故が生じた場合の被害も大きくなる。格納容器が機能を失うような過酷な原子炉事故の場合、ウラン燃料の場合に比べてMOX燃料を装荷した原子炉(炉心の3分の1をMOXで置き換えた場合)では、プルトニウムなどのアクチニド元素の放出量が大きくなると予測されるので、ある地点での被曝線量は2.3~2.5倍になる。つまり、それだけ健康への影響も大きくなる。別の表現をすれば、MOXの導入によって同じ線量を受ける距離が増大する(1.8~2倍)結果、それに伴う社会的影響の大きさは、その影響が被害地の面積に比例すると考えれば、3.2~4倍となる(図2参照)。また、MOX燃料サイクルはその各工程で新たな危険を生む。なぜなら再処理、燃料加工、使用済み燃料の取り扱いなどのMOX燃料サイクルのすべての過程でプルトニウムの取り扱いが必要となるため、ウラン燃料だけの場合に比べて、各工程の危険度ははるかに増す。とくに、再処理工場からの巨大な放射能放出は、他の核施設に例をみないもので、環境と健康に深刻な危険をもたらす。

表2 二酸化ウラン(UO2)と比較した場合のMOXの安全性に関連した特性

特性項目

UO2に対する変化

安全上の影響







融点

20~40℃下がる

マイナスの方向

熱伝導度

下がる

マイナスの方向

核分裂気体放出

放出増える

マイナスの方向

(非気体性物質の放出)

(増加あり得る、セシウムなど)

(マイナスの方向)




中性子に対する反応断面積

大きくなる;熱領域より上で大きな共鳴吸収

制御棒価値、ホウ素価値が下がる

出力ピーキング

大きくなる

複雑な燃料配置が必要

反応度係数

絶対値の増大

過渡事象時に急激な反応度変化;制御・炉停止に影響も

ドプラー係数

低富化度でより負に

 

ボイド係数

低営化度でより負に(沸騰水型炉)

 

減速材温度係数

低富化度でより負に(加圧水型炉)

 

核分裂収率とアクチニドの生成

ヨウ素、トリチウム、アクチニドの生成増加

事故時に悪影響

崩壊熱

増加

余熱管理と長期の廃棄物管理にマイナス

遅発中性子割合

減少

制御をむずかしくする

即発中性子

寿命がより短くなる

制御をむずかしくする

■再処理は廃棄物処理をむずかしくする

核燃料のバックエンド政策としては再処理よりも、直接貯蔵(処分)の選択肢のほうが多くの理由で好ましい。再処理をする選択肢では、直接処分に比べて、少なくとも6倍の体積の放射性廃棄物が発生する。さらに再処理は大量の液体・気体放射能を環境に放出する。直接処分ではこれらの放出量は実質的にせ口とみてよい。また、MOX燃料は、ウラン燃料に比べて使用済み燃料の廃熱発生量が2~3倍以上となるため、その管理がよりむずかしくなる。これらの難点に加えて、再処理を選択した場合、放射性物質を頻繁に輸送する必要が生じる。再処理に伴って日本とヨーロッパの間で、約200回以上の放射性廃棄物の輸送が今後10年間に予想される。輸送時の事故などを考えれば、これは危険であり望ましくない。再処理を選択する理由に、中間貯蔵能力の不足があげられることがある。しかし、これは賢明なことではない。中間貯蔵能力の増大に技術的困難はないからだ。技術的な条件に関する限り、そして湿式プール貯蔵と缶型の貯蔵システムとの対比をみる限り、乾式容器貯蔵は、直接貯蔵の選択肢として安全上の理由から最も望ましいと考えられる。というのは、この方式は、比較的単純で安価な、パッシブな安全装置に依存しているからである。バックエンド政策は、再処理よりも乾式容器での直接貯蔵を選択すべきだろう。

■経済的、社会的問題

上述したような技術上、警備上の問題だけでなく、プルサーマル計画の推進は、経済上も好ましくない。すなわち、MOX燃料の利用で燃料コストは増加することになる。本研究グループの独自の分析によれば、炉心の3分の1をMOXで置き換えた場合の軽水炉の燃料コストは、ウランだけの場合に比べて、約2.5倍となる/100万kW級炉心で年間約70億円の経費増)。したがって、軽水炉にMOXを導入することを正当化できる経済的な理由は存在しない。日本でとくにコストが高くなる理由は、主として日本での一般的な建設費の高さによるだろう。しかし、ヨーロッパの企業に再処理と燃料加工を委託することでこの不利を回避しようとしても、その分だけ長距離の放射性物質の輸送量が多くなる結果、燃料コストの低下にはつながらない。プルサーマル計画の推進は社会的法的にも問題がある。現在日本の市民は、原子力問題と情報公開に関して、対等な当事者として法的なプロセスや政策決定過程に介入する権利と力を実質的に奪われている。最近の事態は、地方自治体の行政を通じて、住民参加が有効性を発揮しうることを示している。しかしながら、“公衆の安全と警備”を理由にプルトニウム計画に関しては常に企業機密と核物質防護上の機密の保持が正当化され、公衆参加の原理はないがしろにされるので、MOX計画は、民主的で参加型で透明性のある政策決定過程とは、相いれない。

■原子力政策をどうするか-IMAプロジェクトの提言

以上を踏まえて、IMA(国際MOX評価)プロジェクトの共同研究者は、つぎのような結論に達した。プルトニウム分離とMOXの軽水炉利用という路線のデメリットは、核燃料の直接処分の選択肢に比べて圧倒的であり、それは、産業としての面、経済性、安全保障、安全性、廃棄物管理、そして社会的な影響のすべてにわたっていえる。換言すれば、プルトニウム分離の継続とMOXの軽水炉利用の推進には、いまや何の合理的な理由もなく、社会的な利点も見出すことができない。この結論にしたがって、今後の原子力政策をどのようにすべきか以下に提言したい。

■情報の透明性を確保する

核に関する情報機密に関しては、議会の承認の下に設置された委員会によって全面的に見直しされるべきである。この委員会の委員は市民社会から選ばれ、原子力の利害から独立したものでなければならない。委員会は、今後の情報の公開の制限についての勧告をまとめるべきで、そのときの原則は、原子力情報は本来的にはすべて公開されるべきものだということである。機密保持の必要性は、事例ごとに検討して判断されるべきである。情報の公開に加えて、日本政府は、軽水炉プルトニウムの核兵器利用可能性を認めて真摯な声明を出し、これ以上この点に関して誤った推測がなされないようにすべきである。

■再処理はただちにやめる

プルトニウムの軍事戦略的重大さと大きな毒性を考慮し、また、”民事”プルトニウムの備蓄がすでに1996年末の段階で世界で160t、その10%以上が日本の電力会社のものであるという事実も考慮して、これ以上のプルトニウム分離は止めるべきである。そして現在の海外の再処理会社との契約は解消されるべきである。まず、まだ再処理されないで海外にある日本の軽水炉の使用済み燃料、具体的にはフランスのCOGEMA社との契約分の800tないし27%およびイギリスのBNFL社公のおそらく約2300tないし90%(BNFLからは正確な数字が得られなかった)は、日本に返還されるべきである。契約下にあってまだヨーロッパに輸送されていない使用済み燃料は、1%程度であるが、これらはもちろん日本で保管すべきものだ(数字はすべて、1997年3月時点のもの)。そして、現在まで海外でおこなわれた分の再処理廃棄物は、ヨーロッパから日本へ返還されるべきである。その際に日本の電力会社と政府は、日本がすべての廃棄物を、再処理役務で決まるカテゴリーごとに引き取ることを公に明言し、この問題でヨーロッパの再処理会社と何らかの取引をしないことを明確にすべきである。また、日本側は、どのような廃棄物をどれだけ受け取るかについて計算を公表すべきである。ただし、輸送の前には、徹底した影響評価とそれに応じた輸送方法の改善がなされるべきである。すでに分離されたプルトニウムは、当面はヨーロッパに貯蔵すべきである。そして、日本政府は、イギリス、フランスの政府とただちに交渉に入り、プルトニウムを高レベル廃棄物と混ぜて処分するための最終パッケージをつくり、プルトニウム分離事業をプルトニウム廃棄体の製造事業へと転換する可能性について話し合うべきである。それらのプルトニウム混合済みの高レベル廃棄物ができたら、日本に返還されねばならない。もちろん国内での再処理もただちに中止すべきだ。日本政府は1997年3月の火災・爆発事故で運転の止まっている東海再処理工場の永久閉鎖を宣言すべきである。さらに、六ヶ所再処理工場計画の放棄を宣言すべきである。同工場はまだその建設の初期の段階にあるので、巨額な建設費が無駄になる(ドイツのヴァッカースドルフがかつてそうであった)前に建設を中止することが望まれる。高速増殖炉計画についてもこれを放棄し、もんじゅは永久閉鎖すべきである。日本政府と産業界は、西側世界で唯一の工業規模の高速増殖炉スーパーフェニックスを閉鎖することを決めたフランスの政府と産業界のそれぞれと、最終的閉鎖と廃炉措置について協議すべきである。

■核物質管理を強化し輸送を限定する

現在のプルトニウムとMOX燃料の輸送は許容しえない危険をはらんでいる。これらは、プルトニウムの廃棄物としての処理と処分に必要な最小限のものに限定すべきである。核物質の在庫管理の基準は、とくに日本のプルトニウム取り扱い施設において、大幅に向上されねばならない。プルトニウム取り扱い施設の物理的防護のレベルも、少なくともアメリカ並みに向上される必要がある。

■バックエンド政策を転換するために

日本政府と電力会社は、使用済み燃料の中間貯蔵について、中間貯蔵施設の立地点となる可能性のある自治体と住民に対して、ただちに協議を開始すべきである。その施設は原発サイトになるかもしれないが、サイトから離れた(AFR)施設となるかもしれない。この協議の最大の目的は、現在の再処理契約でカバーされている使用済み燃料を中間貯蔵に切り替えるために必要な貯蔵施設の受容条件を評価するためである。さらに新たに中間貯蔵施設の容量を増大させる場合には、第二段階の協議が必要で、そのときには、当該の原発の廃止も含めた新たなエネルギー政策のシナリオをまず検討する必要がある。

■電力会社はオープンな影響評価を

日本の電力会社は、MOX燃料を日本の軽水炉で使用することについての影響評価をなにもせず、また、その使用についてまだ許可が下りてもいない段階で、ヨーロッパのMOX加工会社と契約してしまった。この契約は解消されるべきであり、電力会社は、プルトニウムの製造と使用についての議論がつくされる前に既成事実を積み重ねるようなことはすべきでない。日本の電力会社は、技術面、経済性、社会的側面を含むMOX燃料の軽水炉利用についての総合評価をするよう、要請される。その評価報告は、それが基づくすべての仮定を公表しておこない、また、広範な一般公衆が参加した徹底したチェック・アンド・レビューにかけられねばならない。

私たちは、日本政府、電力会社、原子力産業界に対し、この評価研究の報告を分析し、プロジェクトの代表に対して意見を提出するよう要請したい。プロジェクトのメンバーは、この報告の結果について、日本の議会、政府ないしここで扱われている問題に関するいかなる委員会に対しても出席して証言する用意がある。さらに私たちは、MOXの軽水炉利用に関係したり関心をもついかなる国の政府、電力、産業界に対しても、この報告を分析し、そこでの結果に基づいて白らの核政策を検討し直すことを期待したい。

文献
(1)J.TAKAGI et al. Comprehensive Social Impact Assessment of MOX Use in Light Water Reactors, IMA Project, Citizens’ Nuclear Information Center(1997)
(2)高木仁三郎:MOX燃料の軽水炉利用の社会的影響に関する包括的評価要約報告書、原子力資料情報室(1997)

以上

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日本語版報告書詳細目次

IMA報告書日本語版刊行にあたって
研究の構成
謝 辞
序 言
要約報告書
MOX燃料の軽水炉利用の社会的影響に関する包括的評価
第1章 序 論
 とくに環境,健康及びこの研究の全体的視点について
  ―高木仁三郎
1.1 MOXとは何か
1.1.1 人工元素プルトニウム
安全保障(保安)/安全性/経済性/バックエンド政策/社会的,法的,政治的な側面からみたMOX計画/放射性物質の輸送
1.1.2 核兵器級と原子炉級プルトニウム
1.1.3 プルトニウム利用の軍事・民事の二面性
1.1.4 プルトニウムの毒性 1.4.2 IMAプロジェクトの基本的アプローチ
1.1.5 MOX燃料 1.4.3 変化する世界におけるプルトニウム政策の意味
1.2 日本のプルトニウム計画
1.2.1 民事プルトニウム計画と核燃料サイクル政策
1.2.2 日本のプルトニウム戦略
1.2.3 「もんじゅ」及び東海の事故の意味あい
1.3 軽水炉でのMOX使用 ──そのひろがりと問題点
1.3.1 MOX燃料サイクルと検討すべき問題
1.4 変化する世界におけるMOX使用の意味
1.4.1 冷戦後の世界におけるプルトニウムとプルトニウム余剰問題

第2章 MOX燃料使用上の保安問題
    ―フランク・バーナビー
2.1  はじめに
2.2 核兵器を製造しようと望むものにとってのMOXの魅力
2.2.1 核兵器の製造における原子炉級プルトニウムの使用
2.2.2 臨界質量
プルトニウム/高濃縮ウラン
2.2.3 核兵器の構造
2.2.4 核のテロリズム
2.2.5 テロリストによるプルトニウムの使用
2.2.6 テロリスト集団は核爆発装置を作ることができるだろうか
2.2.7 「原始的な」核爆発装置の爆発の影響
威力100トンの核爆発/威力1,000トンの核爆発
2.3 大量のプルトニウムを取り扱う施設の国際保障措置の有効性
2.3.1 物質収支区域
2.3.2 不明物質量(MUF)
2.3.3 ニア・リアルタイム計量管理(NRTA)
2.3.4 MOXを扱う施設の物理的防護
2.3.5 輸送中のプルトニウム(MOXを含む)のPP
2.3.6 MOX成形加工工場におけるプルトニウムの滞留
2.4 核兵器用の核分裂性物質生産禁止条約の交渉にMOX使用が与える影響
2.4.1 核分裂性物質カットオフ
2.4.2 核分裂性物質カットオフ条約の範囲
2.4.3 兵器利用可能核分裂性物質の現存量
2.4.4 核分裂性物質の生産禁止協定に民事用プルトニウムを入れる必要性
2.4.5 兵器級プルトニウムのMOXとしての処分
2.4.6 レーザー同位体分離
2.4.7 MOX燃料の使用が地域安全保障にとって持つ意味

第3章 軽水炉でのMOX使用の安全性問題
      ―高木仁三郎,上澤千尋
3.1 二酸化ウランと比較した場合のMOXの安全性に関連した問題
3.1.1 MOX加工と物理・化学的特性
燃料と原子炉の条件/事故シナリオと放射能の放出量
アクチナイドの放出/プルトニウム吸入による内部被曝の計算
線量評価の結果/線量評価の意味
3.1.2 MOX燃料の核的特質
3.1.3 放射線の特徴
3.2 軽水炉でのMOX燃焼の安全上の問題
事故の可能性/プルトニウム放出の影響
3.2.1 原子炉の安全性に影響を与える主要因の要約
3.2.2 沸騰水型炉に特有の問題と想定事故シナリオ
給水系の過渡事象/再循環流量過渡事象/主蒸気に関連した過渡事象
3.2.3 加圧水型炉に特有な問題
再処理工場の事故災害/再処理工場からの放射能放出
小児白血病の発生
3.2.4 他の過渡事象及び事故のケース
3.3 苛酷事故がMOXを燃料にした原子炉に与える影響の評価
3.3.1 事故の前提条件
3.4 MOX燃料加工工場の安全性問題
3.4.1 MOX燃料加工工場と労働者被曝
3.4.2 MOX燃料加工工場におけるプルトニウム放出事故
3.4.3 MOX燃料加工工場からのプルトニウム廃棄物
3.5 再処理工場のリスク
3.5.1 再処理工場の安全性問題

第4章 軽水炉でのMOX燃料使用の経済性
      ─日本の現実に即した検討
      ―西尾 漠

4.1  はじめに
4.2  試算その1:“フリー・プルトニウム”ケース
4.3  試算その2:プルトニウムの回収コストを考慮するケース
4.3.1 回収コストの考慮
4.3.2 試算その2の結論
4.4  考慮すべきその他のこと
4.4.1 追加項目
     a. 核物質の輸送
     b. 核物質防護の費用
     c. PR・説得活動
     d. 研究開発費
     e. 回収ウラン
4.4.2 ウランの節約になるか?
4.5  結び

第5章 MOXとバックエンド政策
      ―ミヒャエル・ザイラー,高木仁三郎
5.1 序
5.2 直接的中間・最終貯蔵:技術的説明
契約破棄後の措置/再処理中止のための法的・技術的措置
5.2.1 使用済み燃料の直接管理
5.2.2 使用済み燃料の中間貯蔵:技術的基礎と要件
中間貯蔵の技術/湿式貯蔵/キャスク貯蔵
貯蔵用缶による貯蔵(ボールト内での貯蔵)
立地の技術的要件/最善の中間直接貯蔵オプション
5.2.3 コンディショニングと最終処分
コンディショニング/最終処分
5.3 バックエンド政策の選択肢としての再処理の道
5.3.1 再処理の技術的ステップ
    再処理産業の問題
5.3.2 再処理の放射性廃棄物
再処理の道からでる他の廃棄物
5.3.3 放射性廃棄物の輸送
5.4 再処理の道と直接貯蔵・処分の道の比較
5.4.1 崩壊熱
5.4.2 全廃棄物量の比較
5.4.3 放射能の放出
5.4.4 輸送及び他の付随する原子力関連活動
5.4.5 再処理と中間貯蔵
5.4.6 合理的なバックエンド政策─結論
5.5 使用済み燃料とプルトニウムの将来の取り扱い
5.5.1 再処理契約の破棄
5.5.2 東海再処理工場の閉鎖と六ヶ所再処理工場の解体
5.5.3 中間貯蔵について
5.6 兵器用プルトニウムの処分の選択肢としてのMOX照射

第6章 社会的・法的側面から見たMOX計画
第1節 MOX使用の法的側面―日本からの一視点
        ―保木本一郎
6-1.1 日本の原子力問題に関する住民の権利の現状 6-1.3 将来の世代や他の生物と地球を分かち合う義務
6-1.1.1 情報の自由 6-1.3.1  将来の世代の視点
6-1.1.2 市民参加の法的側面 6-1.3.2 すべての生命体が持つ権利
6-1.1.3 地方自治体の役割
6-1.2 MOX使用に関する社会的懸念
6-1.2.1 公衆参加の難しさ
6-1.2.2 国際的懸念
第2節 MOXと社会
     ―アレクサンダー・ロスゲナール
プルトニウム─脅迫の手段と対象
防護の対象
不完全な保安措置
改善の社会的コスト

第7章 MOX利用にともなう放射性物質の輸送
      ―細川弘明,高木仁三郎
7.1 MOX関連の輸送活動の概観
7.1.1 輸送の規模拡大と複雑化─日本のMOX利用計画の場合
7.1.2 本章での検討事項
7.2 MOX燃料輸送及び関連業務の安全面
7.2.1 現行の規制枠組みとその問題点
7.2.2 輸送様態別の安全評価
7.2.2.1 MOX輸送容器
7.2.2.2 未照射MOXの海上輸送
7.2.2.3 未照射MOXの航空輸送
7.2.2.4 未照射MOXの陸上輸送
7.2.3 事故予測と防災計画
7.2.4 日本国内でのMOX輸送の安全性/危険
7.3 放射性物質輸送の国際問題及び社会問題としての側面
7.3.1 日本のプルトニウム輸送及び高レベル廃棄物輸送に対する世界各国の懸念
7.3.2 国際法との関係
7.3.3 社会的影響

第8章 結論と提言
結論
この世で,最も毒性の強い元素の一つ
高速増殖炉は放棄され,MOXが推進される
プルトニウム備蓄は今も増え続けている
すべてのプルトニウムは潜在的に主要な核兵器材料である
核兵器プルトニウムのMOX処分は望ましくない
十分でない保障措置
信頼できない物理的防護(PP)
核テロリズム:増大する脅威
MOX製造と軽水炉での使用の安全性は疑問
MOXは過酷事故の影響を悪化させる
MOX燃料サイクルはその各工程で新たな危険を生む
MOXは燃料コストを大きく増加させる
乾式容器による貯蔵が現状では中間貯蔵のもっともよい選択肢である
核燃料のバックエンド政策としては直接処分が望ましい
MOX利用の社会的・法的影響は重大
日本のプルトニウムの長期計画が進行するとどうなるか?
―警備のシナリオ
プルトニウム及びMOXの輸送―安全と安全保障が犠牲に

提言
透明性について
原子炉級プルトニウムの核兵器への利用可能性について
再処理について
高速増殖炉計画について
プルトニウムとMOXの輸送について
使用済み燃料の中間貯蔵について
核物質の在庫管理と物理的防護
MOX燃料加工について
MOX燃料の使用について
本報告書について

付録1   岐路に立つプルトニウム燃料
     ─プルトニウム製造の最後の正当化としてMOX
     しかし,この正当化はどのくらいもつのか
     ―マイケル・シュナイダー,マチュー・パバジョー
付録 2  IMAプロジェクトへの寄稿論文
付録2-a 炉心物理からみた軽水炉でのMOX燃料燃焼の安全性
     ―リヒャルト・ドンデラー
付録2-b 未照射MOX燃料輸送の安全性
     ―エドウィン・ライマン
付録2-c ロシアにおけるMOX燃料使用の現状と見通し
     ―アレクサンダー・ドミトリエフ
付録2-d 米国のプルトニウムに関する決定が日本のプルトニウム計画に与える影響
     ―ポール・レベンサール,スティーブン・ドリー
略語一覧表
共同研究者とレビューアー(査読者)

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IMA プロジェクトのメンバー
プロジェクト・リーダー
・高木 仁三郎 (原子力資料情報室)
プロジェクト・副リーダー
・マイケル・シュナイダー (WISE-Paris)
共同研究者
・フランク・バーナビー (フリー)
・保木本 一郎 (国学院大学)
・細川 弘明 (佐賀大学)
・上澤 千尋 (原子力資料情報室)
・西尾 漠 (原子力資料情報室)
・アレクサンダー・ロスナーゲル (カッセル大学)
・ミヒャエル・ザイラー (エコ・インスティテュート)
・マイケル・シュナイダー (WISE-Paris)
・高木 仁三郎 (原子力資料情報室)
付録論文の寄稿者
・マチュー・パバジョー (WISE-Paris)
・リヒャルト・ドンデラー (コラート & ドンデラー研究所)
・エドウィン・ライマン (核管理研究所)
・アレクサンダー・ドミトリエフ (Gosatomnadzdor)
・ポール・レーベンサール (核管理研究所)
・ステイーブン・ドリー (核管理研究所)
アドバイザー
・バス・ブルイン (フリー)
・ショーン・バーニー (グリーンピース・インターナショナル)
・トム・クレメンツ (グリーンピース・インターナショナル)
・マルティン・カリノウスキー (INESAP)
・クリスティアン・キュッパース (エコ・インスティテュート)
・ヴォルフガング・リーベルト (INESAP)
・デイビッド・ロウリー (フリー) [proof reading も担当]
・デーモン・モグレン (グリーンピース・インターナショナル)
・リディア・ポポヴァ (Socio-Ecological Union)
査読者
・ロス・ヘスケス (フリー)
・ベルナルド・ラポンシェ (International Consulting on Energy)
・山口 幸夫 (法政大学)