プルサーマル(MOX)燃料輸送 フランスから日本へ 関西電力高浜原発用

『原子力資料情報室通信』第569号(2021/11/1)より

 9月3日、関西電力はフランスから日本へのMOX燃料輸送に関して、出発港と船名・輸送事業者名を公表した。それによれば、パシフィック・ヘロン号並びにパシフィック・イーグレット号がフランスのシェルブール港から日本へMOX燃料を運ぶ。輸送事業者はPacific Nuclear Transport Ltd. これまで日本からの使用済核燃料の輸送やプルトニウム、MOX新燃料、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体を運んでいる輸送専門業者だ。関電はさらに日本時間9日に輸送船が出発したこと、日本への到着が11月後半だとプレスリリースした。出発日の公表は船がフランスの領海を離れた時点で行なっている。到着も同様で日本の領海に入った時点であり、着岸日に関する情報ではない。さらに9月24日に輸送ルートに関して喜望峰~南西太平洋経由であることを公表した。実に地球の3分の2を回る航海である。日本の領海に入った所で、より詳しい着岸に関する日程の情報が出てくるだろう。高浜原発の専用港に着岸することになる。
 こうした情報は、これまでの輸送反対運動を受けて、透明性を示すために公表されるようになった。2艘で出発するのは、テロ対策の一つで、どちらに乗せているのか不明にして、リスクを下げるためである。また、武装した警備隊が乗船して護衛している。
 関電は原子燃料工業(株)とMOX燃料製造契約をむすび、フランスのオラノ社のメロックス工場で燃料製造を実施している。集合体の枠や燃料の鞘管などは日本で製造してフランスに運び、それにMOXペレットを詰めて燃料にして、日本に返送する。このような複雑な対応となっているのは、フランスの被覆管の品質が日本の仕様に適していないためである。
 フランスでは、日本へ向けての燃料輸送(シェルブール港までの陸路)に対して、グリーンピースのメンバー約20人が横断幕を掲げて抗議行動を行なったという。
 燃料は高浜原発用だが、これまでの関電発表では何体を運んでいるのかを明らかにしていない。同原発では現在3号機で20体、4号機で20体のMOX燃料が装荷されている。それぞれ全体で157体の燃料集合体のうちMOX燃料集合体は40体を上限に装荷する。
 これは、福島原発事故前の原子力安全・保安院時代に、炉心燃料の3分の1以下のMOX燃料装荷であれば、ウラン燃料と同等に扱えるとした評価に基づいている。
 MOX燃料の輸送は今回で7回目となる。これまでの輸送を表にまとめた(表1参照)。


 原子力資料情報室はプルサーマルが焦点となりつつあった1998年に『MOX総合評価』をまとめて公表した。MOX燃料には以下の特性がある。①融点が数十度さがる、熱伝導度が下がる、希ガス放出率がたかくなり、ヨウ素、トリチウムの生成量が増える、局所的な出力上昇が起きやすくなる、これらのことで燃料が破損しやすくなる、②中性子への反応性が高まることで、制御棒やホウ素による炉心の制御効果が減り、原子炉の停止余裕が減少する、③中性子線が増えることにより、原子炉容器の脆化を早める。こうした変化により、重大事故時の状況を早めたり、悪化させたりする。
 にもかかわらず、2013年に発足した原子力規制委員会はプルサーマル実施炉に関して、特有の変化を考慮した審査を行なっていない。この点は大きな問題だと言える。
 2020年12月17日に、電気事業連合会は2030年までに12基でプルサーマルの実施を目指す計画を発表した。現在までに実施できている原発は玄海3号機、伊方3号機、高浜3、4号機の4基である。この他に事故前にプルサーマルの許可を得た原発は泊3号機、女川3号機、柏崎刈羽3号機、浜岡4号機、島根2号機である。この5基のうち規制委員会の審査に合格したのは島根2号機のみである。また、審査の途上にあるのは、泊3号機、浜岡4号機の2基であり、柏崎刈羽3号機と女川3号機は適合性審査が未申請である。これらの合計は9基となり、12基に達するには新たにプルサーマルの変更申請を行なう必要がでてくる。
 事業者ごとの海外再処理委託は、東電HDと関西電力が双璧をなし、1,855トンと1,849トンである(表2参照)。抽出されたプルトニウムの事業者別の割合は、再処理契約量に比例している。MOX燃料は海外で燃料加工して輸送されるが、1993年に「もんじゅ」の交換燃料に粉末のプルトニウムをフランスから返還するに際しては、国際的な反対運動が起きた。


 原子力資料情報室も高木仁三郎前代表がプルトニウム利用政策に焦点をあて、1991年11月に国際プルトニウム会議をグリーンピース・インターナショナルと共催、翌92年10月にはアジア・太平洋プルトニウム輸送フォーラムを主催するなどのキャンペーンを展開した。国内では輸送沿線ルート国の大使館に情報提供などを行なった。
 その結果、ルート沿線各国の反対の声に押されて、日本政府は、プルトニウム保有量の公開による透明性の確保と核物質防護対策として海外でMOX燃料に加工して輸送する対応を取ったのだった。
 その海外の燃料加工もイギリスのセラフィールドMOX工場(実証プラント)で加工したMOX燃料の品質データがコピペされていたことが明らかとなり(1998年)、関西電力は燃料の返送と加工契約を破棄した。高浜原発に最初のMOX燃料が装荷されたのは2010年12月だった。
 一方、東電はベルギーのベルゴニュークリア社でMOX燃料の加工をしたために、この災難は免れたが、品質保証への疑問が払拭されず、連動してプルサーマル導入はストップした。福島第一原発3号機に32体のMOX燃料が輸送されたのは1999年9月だが、装荷されたのは2010年8月のことで、定期検査後の営業運転を開始したのは10月、福島第一原発での爆発事故の数ヶ月前だった。このMOX燃料は製造から10年以上が経過しており、せいぜい使えて1年程度のものだった。柏崎刈羽原発にMOX燃料28体が到着したのは2001年3月だった。同年5月に刈羽村で実施された住民投票でプルサーマルの導入が拒否された。1年後には装荷の動きが再浮上したが、東電トラブル隠しが明らかになり、頓挫。装荷されることはなく、現在も3号機の燃料プールに保管されたままである。20年経つこの燃料はもう使えないだろう。
 さて、その後イギリスでの実用レベルでのMOX燃料工場の建設が頓挫した。日本はおよそ21トンのプルトニウムをイギリスに保有しているが、これを燃料加工するためには輸送してフランスで燃料加工するしかない。

(伴英幸)

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