汚染の上塗り「公害輸出」、JAEAによる放射性物質の海外輸送問題について

『原子力資料情報室通信』第559号(2021/1/1)より

有機農業、丹波篠山市原子力災害対策検討委員 玉山ともよ

 ホワイトメサ製錬所は、現在米国で稼働している唯一のウラン製錬所である。1970年代終わりに建設され、場所は、ユタ・コロラド・アリゾナ・ニューメキシコの4州が接するフォーコーナーズ地域の、ユタ州側のブランディンという小さな町の近くにある。製錬所にはユート・マウンテン・ユート先住民のホワイトメサ保留地が隣接している。製錬所の風下にあたり、長年同所から流れてくる異臭やラドンガスなどの放射性物質等の被害に悩まされてきた。また、とりわけ製錬所の鉱滓池から漏洩し地下水脈に染み出している汚染物質が、地域住民の飲料水源を汚染し深刻な問題になっている。
 同製錬所は、近年ウラン製錬よりも製鋼添加剤として使われることの多いバナジウムの生産にシフトしてきた。なぜならウラン価格は低迷し続け、米国内でウラン鉱山の閉山や休止が増え、採掘量が減った為に、稼働率が極めて悪くなっているからである。
 そのような状況下で、昨年5月に同製錬所を所有するエナジー・フューエルズ社(以下EF社)は、製錬所の地下水汚染等を規制するユタ州政府環境品質部廃棄物管理放射線規制課へ、日本原子力研究開発機構(JAEA)から、ウラン鉱とウラン鉱同等物質を輸入、製錬したい旨の許可願を提出した。これが米国の地元環境NPO「グランドキャニオントラスト」の目に留まり広く問題が提起された。製錬所は「ベアーズ・イヤーズ」という近隣5先住民が聖地とする文化資源区域ナショナルモニュメントの裾野にあり、輸送は単に環境汚染に加担するだけでなく聖地を冒涜する行為であると断罪した。しかし、7月に同課はあっさりとEF社への受け入れを認めてしまった。
 問題となっているのは、JAEAの東濃地科学センター(岐阜県)と人形峠環境技術センター(岡山県)にある、主に外国産のウランとウランを吸着させたイオン交換樹脂や活性炭、処理固化物等、計120トンの放射性物質の同製錬所への輸送だ。EF社はエストニアからも類似の輸送を計画中で、地元では、海外からの低レベル放射性廃棄物の最終処分場になるのでは、という懸念が広がっている。それもそのはず、海外から送られる予定の99%以上が最終的には、製錬所敷地内で貯め置かれることになる。
 同所への輸送と処理自体は今回初めてではなく、2005年にも人形峠環境技術センターから約500トンのウラン残土等が神戸港から船で送られ、約6億6千万円の公費をかけて海外製錬が行われた。当時のウラン価格は約30ドル/ポンド。通常のウラン鉱を製錬するよりも、ウラン混じりの廃棄物を引き受けるほうが儲かるから受け入れたのだ。事実、ソルトレイク・トリビューン紙(2020/9/16)に同社CEOが、この「リサイクルビジネス」で年間500~1500万ドルの売り上げがあると発言、報道された。
 昨年12月3日に立憲民主党の宮川伸衆議院議員の協力のもと開かれた面談では、JAEA担当者は文科省官僚と異口同音に「資源の有効利用」を強調した。だが、あくまでも契約の本質は無償譲渡、いや無償どころではなく処理費を支払って、輸送費も全部出した上での所有権と管理責任の移管に他ならない。
 人形峠と東濃の両サイトには一部放射線管理区域の設定があり、対象の物質が残っていると廃止措置の障壁となりうる、というのがJAEA側の本音なのではないか。 中でもイオン交換樹脂等 は今回の輸送計画ではウラン同等物とされているが、処分する場合は余裕深度処分(中深度50-100m地下埋設)等が求められる。茨城県東海村にあった製錬施設は1969年に操業を終了し、国内にウランを粗製錬できる施設は現存しない。つまり国内でウラン資源の有効利用をできる見込みはゼロだ。したがって資源の有効利用をJAEAが唱えるならば、海外製錬以外の道は無い。面談時、文科省・JAEAは「すべての可能性を検討中」と述べたが、空疎に聞こえる。
 現在、私は同社との契約に関する情報公開請求をJAEAに申請中であるが、「正式な契約はなされていない」という理由で詳細な開示が未だ叶っていない。すでに昨年2月7日の第8回東濃鉱山閉山措置技術検討委員会の議事録では、「ウラン鉱石等の措置については4年計画で進めており、令和3年度にはウラン鉱石等を海外の製錬所に輸送し、令和4年度に鉱石等を製錬し、措置を完了する予定」とある。この点についてJAEAに問い正すと、必ずしもそのようなスケジュールで進めているわけではない、とあいまいな回答が返ってきた。しかし、米国発の情報発信で輸送が発覚するまでは、最大限それに向けて努力してきたはずであろうし、今さら「それについては地元の理解を得て」などと言われてもにわかに信じがたい。そもそも、それ以外のオプションが果たしてあるのだろうか。
 すでにJAEAは2016年に28キロのウラン同等物質のサンプルをEF社へ送り、受け入れにあたり新たなライセンスを米原子力規制委員会から取得する必要があるかを尋ねている。また同社は昨年5月のユタ州政府への申請時に、既存のライセンスで対応可能である旨を報告している。 これで未だ検討中の段階であると誰が思うだろうか。
 何よりJAEAが輸送を敢行したい最大の理由はコストである。国内で製錬はおろか廃棄するにも処分施設はなく、これからどこかの自治体の住民の理解を得て新たに誘致、建設することがスムーズに行われることは決してない。鳥取県、岡山県、鏡野町、岐阜県、土岐市等、地元でさえ既存の放射性廃棄物を受け入れることが困難である状況下で、別の場所へ何万トン、何十万トンも撤去移動することなど結局不可能なのである。それを思えば米国に押し付けてしまうことに何億円払っても、全く安価でスピーディーに目の前からなくすことができ、資源の有効利用と謳えば一石二鳥どころか、廃棄物処理の別形態であると言わなくて済む。
 しかし、何の解決にもならない公害輸出でしかないものを、資源と言わなければ輸出できない、要らなくなったもの使い道がないものを、国内に置いておけば廃棄物になるしかないようなものを、それをあたかも価値があると偽って、売るのであるならまだしもお金を払って引き取ってもらう、そんなインチキな資源とやらがあるだろうか。
 JAEAもEF社も法令順守さえすれば輸送は何の問題もないという姿勢を崩していない。しかしながらJAEAには国際協力銀行やJICAなどが整備している環境社会配慮ガイドラインもない。輸送先のコミュニティへの配慮もなく、自分達の都合だけで輸送を行おうとする姿勢は不道徳極まりなく、同時に国際問題にも発展しかねない。加えて人形峠と東濃の地元住民への説明会さえ開催せず、理解も得られないままなら信頼が損なわれ、今後の閉山措置でも大きな支障が生じるだろう。
 JAEAは令和2年度229億円→3年度257億円と増額された廃止措置・放射性廃棄物処理処分研究開発予算の中で、海外製錬に幾ら予算措置を講じるのか個別の見積もりと、また今回限りの輸送なのか、今後の輸送があるのかについて明らかにすべきだ。
 もしも資源でなく廃棄物として輸出するのであれば、外為法、廃棄物等合同条約、バーゼル条約等に抵触する可能性があるが、原子炉規制法上、事業者が廃棄しようとしない限り廃棄物扱いにはならない。2005年のときは「準鉱物」、今回は「ウラン鉱石類」あるいは「ウラン同等物」として脱法的に輸送を可能にしている。つまり全ての法的コンプライアンスが守られるから、放射性物質の海外輸送は適切な措置であるというのはヘリクツだ。我々のお金でもある公的資金で公的機関であるJAEAは、先住民聖地とその周辺に住む住民の環境破壊に加担し、加害責任を生じる可能性があることの重さを認識すべきだ。また市民にはぜひ、反対の声を一緒にあげてほしい。