タニムラボレターNo.013 そこにあるはずの情報を見えなくすること

『原子力資料情報室通信』第470号(2013/8/1)より

 

 

 

 

 

そこにあるはずの情報を見えなくすること

 茶に含まれる放射性物質の試験法は、乾燥した葉の状態でなく浸出液(飲用状態)で試験することになっています。規制値は浸出液で1キログラムあたり10ベクレルです。
 放射能測定では、低い濃度のものを測定するのは、高い濃度のものを測定するより困難です。放射壊変に伴って発生するわずかなガンマ線を検出器になるべくたくさん入れなければ、測定の信頼性を高めることができません。そのためには、なるべく濃いものを大量に集めて長時間測定することが重要です。水による放射線の吸収も測定を邪魔する要因になるので、水分が多い試料なら炭化させて測定器にかける方が良いほどです。
 茶は浸出液で検査するという国の方針は、測定の精度や信頼性を下げ、検出下限値を上げることになります。
 浸出液こそが実際に飲む真実の状態なので必要な測定だということができるのかもしれません。しかし、わざわざ薄めて測定させる方針に私は反対します。何故なら、食品の放射能測定データは規制値を超えるか超えないかの判断に使うだけでなく、微量な放射能も記録されていれば、汚染が地理的にどのように広がり、年月を経てどのように変化していくのかを考察するのに使えるからです。浸出液にして薄めることによって一律に「検出限界以下」としてしまっては、福島原発事故から学べる情報をわざわざ減らしてしまうことになると考えます。
 前置きが長くなりました。今年の新茶を全国(埼玉・茨城・静岡・三重・奈良・福岡・鹿児島)から取り寄せて放射能検査をしました。測定はまず、乾燥した茶葉の状態で行い、放射性セシウムが検出された茶葉の一部を用いて、厚生労働省の提示した方法で浸出試験を行いました。
 その結果、埼玉産と茨城産の茶葉から1キログラムあたり放射性セシウム137+134合計3×10ベクレルを検出、静岡産の茶葉からはセシウム-137のみ1ベクレル程度を検出しました。それ以外の地域では検出されませんでした*1。次に、埼玉産の茶葉(3×10ベクレル/kg)で浸出試験をおこなった結果、浸出液からはセシウム合計1ベクレルほどを検出しました*2
 同じ茶を測定して、浸出液ではわずかにしか検出できない時でも、茶葉の状態では確実に検出できるのです。きめ細やかなモニタリングのためには茶葉状態の測定が必要だと思います。           

*1:測定器:NaIシンチレーション検出器 EMF211、測定容器:900mlマリネリ、質量:500g、測定時間:24時間、装置検出限界:Cs-137 0.8 Bq/kg, Cs-134 0.9 Bq/kg

*2:測定器:EMF211、測定容器:1800mlマリネリに1000ml充填、質量1000g、測定時間:24時間、装置検出限界:Cs-137 0.3 Bq/kg, Cs-134 0.3 Bq/kg

 

(谷村暢子)
 

 

 

 

 

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