福島第一原発事故緊急作業員の内部被曝線量
福島第一原発事故緊急作業員の内部被曝線量
国際機関からの疑問で厚生労働省が再評価
東京電力福島第一原発事故の緊急作業に従事した作業員の内部被曝線量について、東京電力がプラントメーカーなど下請け企業から取りまとめて報告した数値に問題があるとして、厚生労働省が調査した結果、479人の被曝記録を修正すると7月5日発表した。
厚生労働省は、今年4月末に東京電力から提出された2011年度と12年度の内部被曝の報告を精査したところ、元請け事業者による評価値と東京電力による暫定評価値に一定の乖離があることを把握し、5月から再評価を行った。
2011年3月11日から同年12月にかけて作業にあたった1万9,592人のうち452人が報告より高い線量となり、最大では48.9ミリシーベルトの増加となった。
修正した結果、今年3月末時点で50ミリシーベルトを超えた人が24人(うち6人は100ミリシーベルト超)増加した。放射線作業従事者の被曝限度は5年間で100ミリシーベルトであるが、限度を超えたままで働き続けた人が少なくとも2人確認された。
事故後は内部被曝を測定するホールボディカウンター(WBC)が不足し、数ヵ月間測定できなかった人が多かった。こうした場合、測定時に体内に残る放射線量と取り込んだ時期から内部被曝量を算定する。
厚生労働省の調査によれば、取り込んだ時期が不明な場合、作業開始直後とみなす必要があるのに作業期間の真ん中とした例や、29人分の入力ミスやデータの取り違えなど479件が見つかったという。
東京電力は2011年7月、旧原子力安全・保安院から算定ルールの明確化を指導されたが、徹底しなかった。その後、学者らが不適切に算定されるおそれがあると指摘していたが、調査しないままだった。被曝の影響を検証する国際機関の要求に応じ、2012年3月に東京電力は世界保健機構(WHO)に作業員の年代別被曝線量、内部被曝分布、甲状腺等価線量の分布を提出した。今年に入って、国際機関から記録の一部に疑問が出て、ようやく厚生労働省による調査が始まった。
作業員の内部被曝の大半は事故直後の甲状腺被曝による。東京電力は、甲状腺等価線量についてはヨウ素131の実測値に基づき評価した522人のデータをWHOに報告し、100ミリシーベルト超は178人としていた。
今回対象を広げ、ヨウ素131の取り込みがはっきりしない場合、セシウム摂取量をもとに評価した結果、1,973人が100ミリシーベルトを超えていることが明らかになった。
原子力資料情報室は3.11以降、全国安全衛生センターやヒバク反対キャンペーンをはじめ多くの団体とともに複数のチャンネルで関連省庁と交渉を重ねている。福島原発事故における被曝労働に関しては、6月20日に第10回目の交渉となった。
内部被曝の問題に関しては交渉の当初から、「事故直後、大量の内部被曝があった東京電力社員についてはていねいな被曝評価がされているようだが、協力企業の社員や下請け労働者の内部被曝評価に差があるように思われる。どのような方法で評価しているのか明らかにしてほしい」という質問を厚生労働省に対し続けてきた。ようやく、その疑問に対しての調査が行われたのだ。2年間にわたる私たちの疑問に答えるのではなく、国際機関からの疑問が出るまで、調査されなかったことは問題である。
今回の再調査は、プラントメーカー、東京電力の応援職員、原発専業者が対象となった。しかし、事故直後から爆発が起きたときも高い線量下の正門付近で警備作業を続けた人が大勢いた。数日間休む間もなく、食事もそこで取るしかなかった人たちに対してもていねいにヒアリングし、ちゃんと評価し直す必要があるだろう。
東京電力は2ミリシーベルトを記録レベルとし、「記録レベル未満の線量は放射線管理手帳に記入しない」としていることも問題だ。
省庁交渉での厚生労働省労働基準局労働衛生課電離放射線労働者健康対策室の説明によれば、「3ヵ月に1回の測定は実施している。1ミリシーベルトでスクリーニングしてcpmで2万カウントを超えていないかを確認している。カウント数は捨てられていないが、オフィシャルには「ゼロ」と記録される。国際放射線防護委員会(ICRP)のICRP pub.75「作業者の放射線防護に対する一般原則」に、記録レベル以下は除外するという原則がある」と、すべてICRPの考え方に依拠したものだった。
1997年に発行されたICRP pub.75の規定は、事故から2年以上経過しても収束していない福島原発のような事故を想定していない。まだ放射能放出が続いている現場で働く労働者の内部被曝線量をきちんと記録することはきわめて重要なことである。除染作業者、除染廃棄物の作業に従事する労働者にとって、内部被曝はいっそう深刻な問題となる。
除染作業者の被曝管理
除染労働者の被曝データが事業者から公益財団法人放射線影響協会の中央登録センターに送られていないことが生じている。異なる事業者の下で働く場合、本人に累積線量が知らされない。事業者の倒産などで被曝線量が不明となるおそれがあり、労災補償の申請などの障害となる。
ヒバク反対キャンペーンら8団体と共に6月24日開催した「労働者と住民の健康と安全を守り、生じた健康被害を補償することを求める要請書に基づく第7回政府交渉」では、厚生労働省は交渉に先立つ福島第一原発の緊急作業者の被曝データの一元管理についての事前質問に対し、「(除染作業者については)民間データベースである中央登録センターへの登録義務はないが、線量が確定次第、中央登録センターに速やかに登録することが望ましい」との見解を示した。
交渉での環境省の回答は、「5年経過するとデータを指定の機関に引き渡すことができ、その場合は残り25年間の事業者の保存義務がなくなる。しかし、除染電離則の場合はそのためのルールがなく、データの引き渡しはできない。労働安全衛生法に専門的知識がある厚生労働省でルールを定めてもらえれば、それに従う」というものだった。労働者の安全管理については厚生労働省がイニシアチブをとるべきであろう。
(渡辺美紀子)