タニムラボレターNo.010 土壌のセシウムは溶け出すのか

『原子力資料情報室通信』第467号(2013/5/1)より

 

 

 

 

 本誌462号で土壌中のセシウムは、固定態、交換態、水溶性と3つの状態に分類できることを述べました。土壌に含まれるセシウムの量が同じでも状態が違えば植物へ移行する比率が変わると考えられます。

 昨年度の調査では試験農場の作物はセシウムをあまり吸収しないことが明らかになりました。その理由を考えるために土壌に含まれるセシウムがどのくらいの割合で液体に溶け出すかを右図に示した手順で調査した結果を報告します。

 試験には昨年9月に採取した土壌のうち、セシウム濃度が違う3水準の試料を用いました。土壌200gを溶液2リットルで抽出試験し、抽出液1.8リットル(放射能測定の最大体積)のセシウム濃度を測定することにしました。まず、水溶性セシウム量を調査するため、一番濃度が高い土壌を純水で抽出しましたが、抽出液からセシウムを検出できませんでした。これより低濃度の土壌からは水溶性セシウムは検出できないと判断し、次に酢酸アンモニウム溶液で抽出試験を行いました。セシウムはイオン(Cs)で土壌粒子に捕えられていますが、アンモニウムイオン(NH4)やカリウムイオン(K)と入れ替わることができます。この実験では酢酸アンモニウム溶液で溶け出したセシウムを交換態と分類します

セシウム抽出試験結果
測定器: NaIシンチレーション式スペクトロメーター(EMF211)
検出限界3σ, 測定時間:24時間、サンプル量:土壌500mL、抽出液1800mL、
括弧内は測定誤差
*抽出液中のセシウム-134濃度が一部検出限界以下になったためセシウム-137のみに着目

 その結果、水溶性セシウムは検出できないほど微量で、交換態セシウム量は土壌全体の4.5~11%でした。土壌のセシウムの約9割以上が固定態となっていたことが分かりました。この土壌の場合は、アンモニウムイオンを多く含む肥料の使用に注意が必要だと考えられます。   (谷村暢子)

*農環研報31, 75-129(2012)を参照

原子力資料情報室通信とNuke Info Tokyo 原子力資料情報室は、原子力に依存しない社会の実現をめざしてつくられた非営利の調査研究機関です。産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行なっています。
毎年の総会で議決に加わっていただく正会員の方々や、活動の支援をしてくださる賛助会員の方々の会費などに支えられて私たちは活動しています。
どちらの方にも、原子力資料情報室通信(月刊)とパンフレットを発行のつどお届けしています。