タニムラボレターNo.010 土壌のセシウムは溶け出すのか
本誌462号で土壌中のセシウムは、固定態、交換態、水溶性と3つの状態に分類できることを述べました。土壌に含まれるセシウムの量が同じでも状態が違えば植物へ移行する比率が変わると考えられます。
昨年度の調査では試験農場の作物はセシウムをあまり吸収しないことが明らかになりました。その理由を考えるために土壌に含まれるセシウムがどのくらいの割合で液体に溶け出すかを右図に示した手順で調査した結果を報告します。
試験には昨年9月に採取した土壌のうち、セシウム濃度が違う3水準の試料を用いました。土壌200gを溶液2リットルで抽出試験し、抽出液1.8リットル(放射能測定の最大体積)のセシウム濃度を測定することにしました。まず、水溶性セシウム量を調査するため、一番濃度が高い土壌を純水で抽出しましたが、抽出液からセシウムを検出できませんでした。これより低濃度の土壌からは水溶性セシウムは検出できないと判断し、次に酢酸アンモニウム溶液で抽出試験を行いました。セシウムはイオン(Cs+)で土壌粒子に捕えられていますが、アンモニウムイオン(NH4+)やカリウムイオン(K+)と入れ替わることができます。この実験では酢酸アンモニウム溶液で溶け出したセシウムを交換態と分類します*。
その結果、水溶性セシウムは検出できないほど微量で、交換態セシウム量は土壌全体の4.5~11%でした。土壌のセシウムの約9割以上が固定態となっていたことが分かりました。この土壌の場合は、アンモニウムイオンを多く含む肥料の使用に注意が必要だと考えられます。 (谷村暢子)
*農環研報31, 75-129(2012)を参照