新安全基準骨子案のパブリックコメント結果

『原子力資料情報室通信』第467号(2013/5/1)より

 本誌466号にて既報の通り、原子力規制委員会は2013年2月7日から28日にかけて、3つの安全基準骨子案*1(設計基準、シビアアクシデント対策*2、地震・津波、以下、骨子案)のパブリックコメントを募集した。

 466号では5つの観点(曖昧な表現、地震・津波、計測系、代替設備系、共通原因故障)から、骨子案に対する提示意見を紹介したが、4月3日に募集意見に対する回答及び修正骨子が発表されたので、以下、ご報告する。

1.曖昧な表現

 情報室では、骨子案全体に多く見られる曖昧な表現(たとえば、シビアアクシデント対策にある「更なる信頼性向上を図る」や設計基準にある「適切と考えられる」)を削除すべきと指摘した。また、ALARA原則(公衆被ばくを「合理的に達成可能な限り」低く保たなければならないとする考え方)を改めるべきとする意見も、他グループから提示された。

 回答ではいくつかの不明確な文言の記述が修正されている。しかし、ALARA原則に関する指摘に対しては、ゼロ回答であった。

2.地震・津波

 骨子案では、活断層の認定時の調査対象は「後期更新世の活動性が明確に判断できない場合には、中期更新世(約40万年前以降)まで遡って(中略)評価すること」と記載され、活断層の評価漏れが懸念された。そこで、情報室では、中期更新世まで遡って評価するべきだとコメントした。これに対し、回答では「我が国の活断層の活動周期が概ね千年から長いもので5~10万年程度である」、「地層が侵食等により欠如していたり、地層の年代評価が難しい場合(中略)中期更新世以降まで遡って評価する」とし、修正しなかった。

3.計測系

 東京電力福島第一原子力発電所事故ではプラント情報が採取出来ないことが、事故収束への大きな妨げとなった。そこで情報室はどのようにプラント情報を把握するのかを明記するよう、意見を提出したが、これに対しては「事業者の計画を審査で確認します」として、明確な回答は行われていない。

 なお、シビアアクシデント時の汚染水対策は東京電力福島第一原子力発電所の現状を見るまでもなく重要だ。そこで情報室は海洋の放射性物質の計測体制を整えるべきだと、意見を提出した。これに対しては、「陸上及び海洋において、原子炉施設から放出される放射性物質及び放射線の状況を監視する」と修正された。

4.代替設備系

 骨子案では設計基準を超える事故に対しては可搬代替設備で対応すると記載されている。一方、地震・津波と同時に台風が襲来する場合等も想定で、骨子案にあるように可搬代替設備と恒設設備を「容易かつ確実に接続」できるようにしたとしても、過酷な状況下で、可搬代替設備を接続可能なのかは不明だ。そのため情報室では恒設代替設備の設置を必須とし、そのバックアップとして可搬代替設備を用意するべきだと指摘した。

 回答では、恒設設備への依存を高めることの問題や可搬代替設備の耐震性の高さなどを指摘して、緊急性を要する「原子炉冷却材低圧時の冷却対策」、「電源確保対策」は恒設代替設備とするものの、可搬代替設備を基本とするとしている。

5.共通原因故障

 今回の骨子案では、「設計基準」上では「単一故障の仮定」(単一の原因によって1つの機器が安全機能を喪失するとする仮定)を維持し、「シビアアクシデント対策」で「共通原因故障」(自然現象や作業ミスにより安全系に関わる複数の設備・機器が同時に機能を失うこと)を対策するとしている。しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになったとおり、「共通原因故障」は現実的なリスクだ。そのため、「設計基準」上でも「共通原因故障」を想定すべきだとの指摘があった。

 しかし、これに対する回答は、従来の考え方を維持するものであった。

6.新たな猶予

 骨子案のパブリックコメント募集終了後の3月19日、第33回原子力規制委員会で、「原子力発電所の新規制施行に向けた基本的な方針(私案)」と題する文書が発表された。これは今回策定する規制の導入方法を示した文書で、概略、①設計基準事故対策及びシビアアクシデント対策は7月の新規制施行時点で全て対応していることを求める、②シビアアクシデント対策やテロ対策の信頼性向上のためのバックアップ対策(PWRのフィルターベントや3つ目の恒設直流電源等)については施行後5年以内に設置を求める、③導入時点で稼働している大飯原発3・4号機については、導入直後の定期点検(13年9月を予定)終了時点で①の対応を求める、とするものだ。

 たとえばフィルターベントでも、全ての放射性物質を濾し取ることは出来ず、全ての問題解決を図ることは不可能ではある。しかし、原子力規制委員会が規則制定時点から猶予措置を取ると電気事業者に伝えることによる規制の弛緩に関するアナウンスメント効果は大きい。また新規制基準に即しない大飯原発の稼働を、新規制基準施行後も許すことも、問題が多い。原子力規制委員会はこのような猶予措置をとるべきではない。

7.原子力規制委員会規則案のパブリックコメント募集

 規制委員会は、4月10日の第2回原子力規制委員会で「原子力規制委員会設置法の一部施行に伴う関係規則の整備等に関する原子力規制委員会規則案等について」とする議案を了承、翌11日から5月10日までの30日間、パブリックコメントの募集が行われている。約3,000ページに渡る大部な規則案であり、解説もほとんど無い、極めて不親切なものではあるが、このパブリックコメントは今後の原子力規制において重要なものとなるので、ぜひ、ご応募いただきたい。なお、情報室では4月26日、『原子力規制委員会の新規制基準何が問題か』と題して、本件に関する公開研究会を行った。(松久保肇)

*1:当初、「安全基準」としていたが、4月3日の第1回原子力規制委員会で「規制基準」に名称が変更された。
*2:パブリックコメントの指摘を受け、「重大事故対策」に名称が変更された。

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