被ばく労働を考えるネットワーク

『原子力資料情報室通信』第467号(2013/5/1)より

福島第一原発収束作業、除染労働者が抱えるさまざまな問題に取り組む

 「被ばく労働を考えるネットワーク」は、3.11後、ともに省庁交渉などを担ってきた、脱原発やさまざまな問題に取り組む市民運動、労働組合のメンバーたちで準備を進め、2012年11月9日、東京都江東区の亀戸文化センターで約300名の参加を得て設立集会を行った。同月25日にはいわき市で、村田三郎さん(阪南中央病院医師)の講演会と労働・健康・生活相談会を開催した。以来、被ばく労働ネットには100件を超える相談や訴えが届いている。2月にはいわき市と郡山市に、当該労働者同士の交流拠点として活用するための常設の宿舎を確保して、現地労働相談活動、事業者との交渉や争議に取り組んでいる。

 一昨年12月の政府の「事故収束宣言」以降、東京電力による経費節減が下請け労働者を直撃している。本誌でもお伝えしてきたが、待機中の賃金、危険手当、宿泊費のカットなど一方的な労働条件の変更や解雇が昨年秋ごろから相次いでいる。これらの問題を背景に、高線量下での作業の強要、被曝隠し、暴力団の関与や偽装請負の蔓延など、これまで現場から訴えても無いことにされていた問題が一挙に噴き出した。労働者からの告発も相次いでいる。

 除染作業は、福島原発事故後に出現した新たな「被曝労働」である。この新事業は政府や自治体直轄の公共事業であるが、国や自治体が大手ゼネコンに丸投げし、その下に複数の下請事業者が存在している。人材派遣業者や建設・土建・塗装会社、地元の中小企業などさまざまな業者が参入し、原発産業と同様の複雑な重層下請け構造となっている。

 除染特別地域での除染事業では、賃金とは別に、国から1人1日1万円の特殊勤務手当=危険手当が出ているが、業者にピンハネされ、ほとんどの労働者は受け取っていない。また、宿舎とは名ばかりの山中のキャンプ場や廃屋に入れられ、仕事もないまま待機させられたり、食事もご飯と一掴みの茹で野菜だけといったもので、労働者たちは人間としての誇りを踏みにじられたと感じている。

 2月28日、「被ばく労働を考えるネットワーク」主催で、環境省・厚生労働省に対して、除染問題に関する交渉と院内集会を行った。「国が税金から支払っている危険手当が、どこで中抜きされているかぜひ知りたい」という労働者からの訴えに対し、環境省の担当者は「だれがどう中抜きしたかではなく、作業員に支払われたかどうかが問題。賃金台帳を確認している」と回答。労働者から「賃金台帳は虚偽の内容。雇用契約書すらかわされていない」「ゼネコンに丸投げでは調査にならない」など怒りの声が上がった。

 時間切れで、被曝管理などの問題については次回持越しとなった。「被ばく労働を考えるネットワーク」は今後も引き続き、現場労働者とともに、命と健康、雇用を守る運動に取り組んでいく。    

(報告:渡辺美紀子)