原発-国と業界の癒着と腐敗は底しれない(『通信』395号より)

『原子力資料情報室通信』395号(2007/5/1)より

原発-国と業界の癒着と腐敗は底しれない

山口幸夫

 さる3月30日に、全電力12社から過去にさかのぼった総点検の結果が国に報告された。経済産業相の「指示」によったとされる。原子力、火力、水力あわせて発電所の不正は1万646件におよぶ。そのうち、原発に関しては、東電の230件、中電の123件など455件を数える。じつに多くのデータの改ざん、偽装、捏造、隠ぺいが行なわれていたわけである。
 4月6日、電力各社はこの総点検結果をふまえた再発防止策を経済産業省原子力安全・保安院に提出した。国は精査したうえで、法令違反にあたるかどうか、処分対象かどうかを判断すると言っている。
 本誌前号で、志賀1号炉・福島第一3号炉で起きていた制御棒落下、臨界事故、原子炉緊急停止の失敗について緊急報告をした。その後に判明した件を含めて主なものを別表に(5p参照)掲げた。
 一人の技術者の内部告発がきっかけで、2002年8月、「東京電力検査記録改ざん・隠ぺい事件」が明らかになった。他の電力会社でも次々にトラブル隠しが発覚した。東電は全面的に非を認め、全原発を止めざるを得なくなった。そして会長ら4人が責任を負って辞任し、信頼回復に努めることを明言した。その詳細をわたしたちは『検証 東電原発トラブル隠し』(原子力資料情報室著、岩波ブックレットNo.582、2002年12月)に述べた。
 その事件のおりに、国が行なってきた定期検査でも不正が行なわれており、原発の安全性の根幹がまったくの虚構だったことが判った。このたび、経済産業大臣の「事実をかくさず出すように」の指示による総点検というが、本来は2002年の事件のときに出されるべきことであったのだ。国も電力もプラントメーカーも寄りかかり合い、馴れ合ってきた原子力村の内情がまたひとつ見えてきた。
 4月13日、「志賀1、福島第一3原発の臨界事故と制御棒脱落問題」について福島瑞穂、近藤正道の両参議院議員、各地の住民らが原子力安全・保安院に対するヒヤリングを行なった。その場で、「この総点検は全社で7万人の関係者から事情聴取した」が、「法律に基づく報告徴収ではないので、ウミが全部出切ったかどうかは分からない。これ以上の追加報告を国としては求めていない。今後さらに出てくる可能性は否定できない」と担当者は答えた。

志賀原発1号炉は即発臨界だったらしい

 前号で志賀原発1号炉の臨界事故がどのように起こったか詳しく述べた。その後、日本原子力技術協会と北陸電力は、核分裂すると即時に生まれる中性子だけで臨界になる即発臨界だったらしいと発表した。
 冷却材喪失事故と反応度事故の二つが原発で起こりうる典型的な大事故である。前者の例はスリーマイル事故(1979年)、チェルノブイリ事故(1986年)は後者だ。チェルノブイリでは臨界超過になり、ごく短時間に出力が急上昇して、原子炉が制御できなくなった。原子炉の暴走である。BWRもPWRも軽水炉だが、今回BWRの制御棒落下事故では、核分裂を制御できなくなり、暴走事故になる恐れがあった。定期検査中に原子炉が停止していても危険である。ちなみにPWRでは、起動時制御棒飛び出し事故という心配がある。
 志賀1号炉の制御棒3本がなぜ引き抜けたかについては、前号で説明した通りである。北陸電力はメーカーの工場で志賀1号炉と同じ形式の試験用高速型制御棒駆動機構で再現・検証実験を行なった。報告書によると、事故発生時の制御棒引き抜け速度を原子炉-冷却水ヘッダ間差圧の関数として求めて、その値は毎秒47ミリメートルと推定した。条件によってはもっと勢いよく引き抜けたかもしれなかった。もっと厳しい事故になった可能性があった。
 メーカーの日立製作所は3月30日、経済産業省から法律に基づいた報告徴収を受け、報告書を4月6日に提出した。その中で、「北陸電力と日立の現地関係者から一部の設計部署に計算・解析の依頼はあったものの、北陸電力からの当該事故の技術評価やその対策に関する依頼を受けていないため、当社としては本件に関する評価はしていない。また、設備や要領書の不適合ではなく、基本的に運転管理上の問題である。再発防止の検討・提案も行なわれていない」と答えている。すべて、北陸電力が悪いというわけだ。
 3月25日に発生したマグニチュ-ド6.9の能登半島地震で、志賀1号炉の原子炉建屋地下2階の地震計は239ガル、2号炉では264ガルを示した。スクラムレベルは、それぞれ190ガル、185ガルである。1号炉は本件で、2号炉は日立製の低圧タ-ビン事故で止まっていたため、幸運にも難をのがれた。国の地震調査委員会は、北陸電力が評価対象からはずしていた断層がもう1本と連動して動いた可能性が高いと発表した。北陸電力は地震対策を甘く見積もっていたと言えよう。

福島第二4号炉の偽装工作事件

 全電力会社が国に総点検を報告した3月30日を過ぎて、プラントメーカーの日立からの資料提供で、4月6日、東電の制御棒駆動装置の偽装工作があかるみに出てきた。
 1988年10月、福島第二4号炉で、185本ある制御棒の駆動装置の1つが故障した。東電は日立に依頼し、新たな装置に前の装置の製造番号をうち、受けなければならない国の検査を受けずに装着したというものである。偽装工作にかかわった東電の4人の社員のうち2人はいまでも社内にいるという。電力会社とメーカーが共謀して、違法性を知りながら隠ぺいを協議し、犯した行為である。こういうことを、原子力安全・保安院はまったく把握できていなかったのである。その結果、東電の原発不正行為は3月30日の報告より増えて、233件にのぼった。
 1992年の定期検査で原子炉格納容器の気密性試験を東電と検査を担当した日立が相談し、偽装工作をしていたのが福島第一1号機だった。そのために、「原子炉の重要な安全機能をもつ機器で行なわれたこの偽装行為は一連の自主点検記録改ざん以上に悪質」として、1年間の運転停止命令を受けていた。これは、日本の原子力史上初めての処分だった。
 東電はまた、福島第一5号機で放射線測定器が警報を発する濃度が本来より100倍高い数値に設定し、汚染を発見しにくい状態にしていたことを4月3日に告白した。
 もうこれでないのかどうか、不正の底は見えない。

「安全な原子力」がありうるか

 02年の東電トラブル隠し事件で、日本の原子力政策に赤信号がともったと多くのひとたちは受けとめた。国も電力会社もメーカーも原子力学者もいっさい信用できない、というのが当時の世論だった。それでも、これからは少しは慎重に運転するだろうし、情報も開示するのではないかと期待を抱いた人たちもあった。
 東電は不祥事を反省し、再発防止対策とその課題を公にした。02年9月、4つの約束として、①情報の確保と透明性の確保、②業務の的確な遂行に向けた環境整備、③原子力部門の社内監査の強化と企業風土改革、④企業倫理遵守の徹底をあげた。この4月6日に、それらを拡充して、企業倫理・法令遵守の再徹底に向け「しない風土」「させない仕組み」「言いだす仕組み」に分類し、アクションプラン12項目を国に提出している。
 他の電力各社も同様に、法令遵守(コンプライアンス)の徹底・最優先などを掲げた。しかし、そういう問題なのだろうか。第一に、企業は利益を上げることが大前提である。そのかぎりにおいて、社会の倫理に従う存在である。企業の存続を捨てても原発の安全を重視するのではない。企業そのものがつぶれてしまっては、元も子もないと経営者は考える。第二に、法令はいつだって完全なものではない。最低の必要条件を決めたものと見なすべきものである。そして、遵守しているかどうかを、誰が判断するかである。社内にも、第三者機関と称するものにも、信をおくことができないことは明らかだ。原子力安全・保安院にも、チェック機能がないことがはっきりした。4月13日に行なったヒヤリングで、原子力安全・保安院には反省の姿勢や言葉がまったくないということがわかった。原子力をすすめる経済産業省に属していることも一因だろう。
 「業界の体質改善」がひんぱんに言われている。しかし、体質というものは容易には改善できないものではないのか。核分裂を完全に制御することが途方もない困難なことなのだ。むしろ、データを改ざんし、偽装し、捏造し、隠ぺいしないと原発はやっていけない技術なのではないか。情報の完全な開示ができない技術と考えるべきではないか。危険をするどく感知でき、しりぞくことができる人が慎重にたずさわる技術ではないか。
 六ヶ所再処理工場を動かすことの危険を思わないわけにゆかない。まったく信頼が地に落ちたが、それでも、BWRやPWRには40年近くの運転経験がある。再処理工場については、きわめてわずかな東海再処理工場の経験があるだけだ。大気中と海中とに放射能をたれ流しながら運転する六ヶ所再処理工場の技術レベルが非常に心配だ。プルトニウムの体内被曝がおきたとき、「お百姓さんをやっていて泥がつかないわけがないのと同じ」、「再処理をするかぎり、内部被曝がおこる」という専門家の発言があった。そういう大雑把な感性と技術レベルではいけない。このたびの数々の不祥事はそう示唆しているのではないだろうか。

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