『原子力資料情報室通信』396号(2007.6.1)短信
『原子力資料情報室通信』396号(2007.6.1)短信
※情報は執筆時点のものです
■志賀原発・能登半島地震で設計を超える揺れ
3月25日におきた能登半島地震(マグニチュード6.9、震源深さ11キロメートル、志賀原発から震央までの距離18キロメートル)による志賀原発の被害状況について、北陸電力は4月19日に報告書をまとめ、原子力安全・保安院に提出した。
巡回点検の結果つぎのような被害の状況が明らかになった:1号炉で使用済み燃料貯蔵プールから水が約45リットルこぼれていた。1・2号炉ともに変圧器の放圧装置が作動した。1号炉のタービン建屋で7個・2号炉の原子炉建屋で2個の水銀灯が落下した。2号炉で組み立て中の低圧タービンロータの位置ずれがおき動翼と静翼それぞれに接触痕ができているのが見つかった。2号炉タービン建屋床面のコンクリートのはがれ、1号炉原子炉建屋およびタービン建屋壁のモルタルのはがれが見つかった。
また、1号炉の建屋内に設置されている地震観測用地震計で、ICメモリの容量が不足したため、本震の記録が余震の記録に上書きされて消失するというおそまつなミスがあった。このため、1号炉の地震波解析も2号炉の記録に基づいて行なわれている。
志賀原子力発電所が建っている基礎地盤でのゆれの解析を行なったところ、1号炉・2号炉ともに設計時の想定を超えるゆれに襲われていたことがわかった。地震波の固有周期ごとの分析の結果、旧耐震設計審査指針の設計用最強地震S1によるゆれの強さを、0.2秒前後の周期帯と0.3秒?1.0秒の周期帯で,観測された地震波の解析結果(はぎとり波)の方が、長周期側では2倍近くの値が得られ、大きく上回っていた。0.2秒前後の固有周期(設計時)を持つものには、1号炉では燃料集合体や原子炉建屋壁、主蒸気管、余熱除去系配管があり、2号炉では燃料集合体や原子炉建屋壁、余熱除去系配管、補機冷却系配管がある。いまのところは報告されていないが、これらの機器・建物にはある程度大きな変形が起きていてもおかしくない状況だったことになる。
設計用限界地震S2によるゆれの強さについても、0.4秒付近と0.5?0.8秒の周期帯で、はぎとり波が上回っていた。1号炉の補機冷却系配管がちょうどこの周期帯の固有周期をもつと説明されており、配管が破損・破断が起きてもおかしくない状況だった。
1号炉の原子炉建屋の内壁のせん断変形角解析では、下層階の方が上層階より小さくなるという結果が報告されており、通常の条件では説明できない。1号炉の地震観測記録が消失し、2号炉の記録で代用していることの限界を示しているのではないか。
他にも、機器の耐震解析で制御棒駆動系配管については、許容値以内ではあるがS2に対して1・2号炉ともかなり厳しい結果になっており、解析の精度などを考慮すると、変形や破損が生ずる危険性があったとみるべきであろう。
■福島第二3号炉・制御棒駆動装置が可動状態に
3月9日から定期検査中の東京電力・福島第二3号炉で、1体の制御棒駆動装置が隔離されておらず動作可能なままの状態になっていることが、5月28日にわかった。
制御棒の動作試験をしようとしたところ、185本ある制御棒のうちの1本の制御棒の駆動装置へ水を送る駆動水圧系の挿入側元弁(101弁)と引き抜き側元弁(102弁)が開いていた。本来なら制御棒が動かないように両方とも隔離されていなければならない弁である。
たまたま今回は制御棒が脱落したりすることはなかったと報告されているが、制御棒脱落による臨界事故が発覚し問題になっているさなかに、なぜこのような初歩的な確認ミスによるトラブルが起きるのか。
■もんじゅ、ナトリウムを充てん
1995年に二次系でナトリウム(Na)漏えい・火災事故を起こして止まっていた高速増殖原型炉「もんじゅ」は、5月23日に改造工事を終えて、Naを充てんした。二次系は3系統あり、Naを充てんしたのはB系統で、充てん量は200m3。作業は同月25日に完了した。抜いたのが04年6月だったので、3年ぶりの充てんとなる。この間はアルゴンガスを入れて空気との接触を断ってきた。原研機構によれば、事故が起きたC系統のNa充てんは6月上旬だとしている。
充てん後は循環用モータの動作確認や緊急抜き取りの予備試験などを行なうとしている。
改造工事は、温度計の取り換え、漏えいNaをより速やかに抜き取るためにドレン管を大口化する、漏えい事故時に窒素ガスを充てんするための装置の設置などが行なわれた。
今回の改造工事は主として95年の事故に対応したもので、工事によって「もんじゅ」本来の暴走の危険性や地震に弱い配管構造などは手が付けられていない。
■イギリスが再処理から撤退
イギリスの経済産業省(Department of Trade and Industry)は5月にエネルギー白書を発表した。その中で原子力について地球温暖化防止に貢献するとして、この推進を掲げながらも、再処理からは撤退する方針を出した。
再処理はプルトニウムの長期貯蔵、放射性物質のアイリッシュ海への放出、核物質の輸送など特別な関心を払わなければならず、また、民間の電力各社は新しい原発の再処理契約を行なっていない。そこで、英国政府は再処理しないことを基本とすることを決定したとしている。
他方、パイプの破断から放射能溶液漏れを起こして止まったままのTHORP再処理工場は、蒸発器の不具合から運転再開が大幅に遅れていると環境の放射能汚染に反対するカンブリアの人々(CORE)は伝えている。