大飯原発の再稼働に反対する

山口幸夫

 さる5月5日いらい、日本の原発50基はすべて止まっている。だが、このままなら日本の国は立ち行かない、私の責任において再稼働を、と野田首相は大飯原発3、4号機の再稼働を認め、6月16日、関係4閣僚の会合で正式に決定した。福島事故がどうみても収束していないのに、収束をした、と去年12月に宣言した野田首相・政府がまたも過ちを犯した。私たち原子力資料情報室は、野田首相と政府の判断は根本的に間違っている、と考える。

 東電福島第一原発の事故から何を学ぶべきか。危険かもしれない何らかの兆候が原発に見られたら、徹底的にしらべ、万全の対策をとれ、ということである。理屈はわからないが工学的判断でまあ大丈夫だろう、としてはならない。しかし、考えうるあらゆる手立てをつくしてもなお、破局的な事故は起こるかもしれない。

 まもなく、国会事故調査委員会が報告書を公表する。だが、原発の損傷の程度や事故の因果関係などのすべては判明しないだろう。「原発の安全性」をどのように確かめるかは正解がない問題である。

ストレステストで「安全性」は決められない

 ことの起こりは去年7月11日、枝野・海江田・細野の3閣僚(当時)による「ストレステストの1次評価を運転再開の条件とする」との声明である。その4日前には菅首相(当時)が「全原発を対象にストレステストを実施する」と参議院予算委員会で発言した。ストレステストの元祖EUとちがって、日本では1次と2次の評価に分け、しかも1次評価をもって定検中の原発の再稼働の条件にしてしまった。 
この時点で政治家たちがストレステストの何たるかを理解していたとは考えにくい。旧来の「原子力ムラ」の官僚・業界・御用学者の入れ知恵であろう。結果として、きわめて政治色の強いものになってしまったのである。

 去年11月14日から始まった「ストレステストの意見聴取会」と呼ばれるものは、正式には「発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価に係わる意見聴取会」と言う。聴取会の委員は全11名である。原発の地元住民や被害を受けるかもしれない市民が入って専門家の意見を聴く、というものではない。原子力安全・保安院が委員から意見を聴き、関西電力が提出した報告書の妥当性を判断し、それを原子力安全委員会へ上げ、安全委員会がチェックするという段取りになっている。

 1次評価では、そのプラントの弱点を発見するのが目的である。安全性を判断する評価基準というものは無い。大きな地震や津波を仮定し、幾つか選んだ重要機器にどのくらいの裕度があるか、コンピュータシミュレーションをおこなっただけである。「安全性に関する総合評価」などではないのだ。2次評価は関西電力自身がいまだおこなっていない。安全委員会は大飯原発3、4号機についての保安院の判断を是としたが、班目委員長は、これで安全性を判断できるものではない、と言ったと報じられた。

 最近、大飯原発の地下には破砕帯(=活断層)が存在することが渡辺満久・鈴木康弘両教授によって確認された。新知見は直ちに取り入れなければならない。いまの場所に原発が存在すること自体が不可能となるような現実である。

福島原発事故の責任をとるべき旧体制

 原発の安全神話を言い続けてきた関係者と関係機関は責任をとって辞任すべきである。それらの人たちや機関は事故を防ぐことが出来なかった。にもかかわらず、以前と同じ地位にあって、評価基準が無いままで大飯原発の安全性を審査し、判断を下すとはまことに奇妙で滑稽なことだ。ストレステスト意見聴取会で後藤政志・井野博満両委員が毎回、質問書を提出し、関電の報告書に疑問を呈してきたが、利益相反委員が3名もおり、その一人が司会・進行役をつとめる異常な意見聴取会で、肝心なことは無視されてしまった。

 原子力安全・保安院が原子力安全委員会の指示を拒否したり、原子力委員会が新大綱策定会議の議論の内容について推進派だけと秘密会議を開き続けていたり、理解に苦しむことが次々と顕れてくる。

 今国会で原子力規制委員会(5人)と事務局としての原子力規制庁の設置が決まった。第3条委員会として独立性がうたわれている。また、原子力安全・保安院が横すべりして規制庁に入ってくるが、ノーリターンルールを守らせるという。だが、5人の規制委員の人選がどのように可能だろうか。さらに、横すべりしてくる人たちが今度こそきちんとした規制が出来るか疑問である。

 そのような懸念はあるが、しかし、少なくとも大飯原発の再稼働問題は、国会事故調の報告と新体制の発足とを待って論ずべきである。

【VIDEO】2012/6/14
大飯原発の再稼働問題に関して原子力資料情報室の見解
www.ustream.tv/recorded/23303264