アメリカで30年ぶりの原子力再興?
アメリカで30年ぶりの原子力再興?
ブッシュ米大統領が8月8日、包括エネルギー法案に署名した。原子力発電所の建設再開に向けて、さまざまな支援策を打ち出した法案だ。
包括エネルギー法(正式には2005年エネルギー政策法)は、ブッシュ大統領が第1期就任の当初から制定をめざしていたもので、4年越しの審議を経てようやく成立した。但し、連邦議会で争点となっていた北極圏野生生物保護区での石油・ガス採掘などは議会で削除されている。
国家エネルギー政策全体の法的裏付けとなる同法だが、その目玉が原子力発電所の新設を推し進める連邦政府の支援策の強化だ。具体的には、①融資保証②運転開始から8年間の発電税控除③規制や訴訟によって建設が遅れた場合の追加コストの補償④事故時の賠償責任に上限を定めた法律の無期限延長などである。
これにより民間会社が動き出し、今後10年間に8基の新設が期待できると言われる。アメリカではスリーマイル島原発事故が起きた1979年以降は原子力発電所の発注が1基もなく、新設をめざして結成された電力会社と原子炉メーカーなどの企業連合「ニュースタート」が計画通り2008年に建設・運転の許可申請をすれば、30年ぶりのニュースタートとなる(社名の「ニュー」は、文字上は「ニュークリア」の略で、「新」の発音をかけたもの)。
とはいえ、実際に建設・運転に進むかどうかには、疑問符も付されている。かつてのライバルが寄り集まって企業連合をつくったのも、それだけ投資リスクが大きいからだ。中心となる電力会社のエンタジーも、「新しい発電所は当社単独ではつくらない」と言う。
原発の受け入れに世論が傾いたわけでもない。「ニュースタート」が候補地としているところはすべて原発の既設地で、新しい候補地は1つもない。長期間にわたって原発の建設が途絶えていた産業界に、技術力やノウハウ、人材などがどれだけ残っているかという問題もある。
原発支援という一方で、融資補償や発電税の控除は、石炭をより効率よく環境汚染の少ない方法で燃やす「クリーンコール」技術を採用した石炭火力や、石炭ガス化発電にも適用される。現状で高収益をもたらしている石炭火力の新設のほうが(その善し悪しは別として)現実的かもしれない。
5月13日付の電気新聞(日本電気協会発行)は、アメリカの電力業界の原発への姿勢について「本心は別だが、表面的には意欲を見せ、政府からさらに手厚い支援策を引き出す。そうなって初めて新設を考える」とのうがった見方もあることを紹介していた。「笛ふけど踊らず――。政府と業界のそんな関係が浮かび上がってくる」と。
冷静に今後を見守りたい。
(西尾漠)
『原子力資料情報室通信』376号より