もんじゅ改良工事で安全は確保できるか

もんじゅ改良工事で安全は確保できるか

 原子力長計策定会議がそそくさと「高速増殖炉サイクル技術の研究開発のあり方について」をまとめたのが2005年2月10日、1月末には中間とりまとめが出ていると予定していたためか、7日に西川一誠福井県知事が改良工事入りの了解を行なった。これを受けて、旧核燃料サイクル開発機構(現、日本原子力研究開発機構)は10年間止まっていた「もんじゅ」の改良工事の準備工事に着手した(本格着工は9月1日)。その後、申し合わせたかのように最高裁が5月30日、原告住民の主張を認めて設置許可を無効とした名古屋高裁の判決を覆した。12月、再審請求も棄却された。
 福井県知事の了解は、福井新幹線や福井県エネルギー研究開発拠点化計画への19億円の予算獲得などとの取引といわれている。
 「もんじゅ」運転再開の目的は?発電炉としての信頼性の実証、?ナトリウム取り扱い技術の確立と原子力政策大綱で述べている。発電炉としての利用期間はおおむね10年程度で、その後には国際協力の拠点とするという。増殖炉としての位置づけは事実上放棄されているようだ。
 発電炉としての信頼性が実証できるかは怪しいが、仮に実証できたとしても、その次がない現状ではなんの役にも立たない。運転員も事故前からの人間は3分の1に減っているという。増員して経験をつんだ運転員が増えても、彼らが活かされる前途がない。ナトリウム取り扱い技術にしろ「もんじゅ」で行なわなければならない理由は何もない。「もんじゅ」が臨界を迎える前に当時の動燃事業団は、ナトリウム取り扱い技術はすでに確立されており、万全であると主張していた。「目視できないナトリウム中での燃料交換が確実にできること」などは「常陽」で済ませたと主張していた。
 高速増殖炉サイクル技術開発に1兆7000億円が04年度までに投じられてきた。このうち、「もんじゅ」への直接の投資は8100億円である。事故で止まっている間にも毎年100億円ほどの費用が維持管理のために費やされてきた。この先、改良工事に180億円、そして毎年の運転維持に150億円ほどかけることになるが、費用をかける意義は全くない。
 さて、改良工事は第一に、10年前にナトリウム漏れの原因となった温度計さやの取替えである。当該温度計さやは段つき構造となっておりナトリウムの流れの中で振動破損したことから、段つき構造でないものに変え、長さも短くする。研究上必要だとしていた”長さ”の必然性はやっぱり崩れ去った。12月12日からこの温度計の取替えが行なわれている。
 第二に、ナトリウム漏洩時の対策を施す。具体的には、早期漏洩検知のためにセルモニタを設置する。ナトリウムの抜き取り時間を短縮するためにドレン配管を追加したりしてドレン系統の改造を行なう。加えて、漏洩時の影響緩和策として壁・天井への断熱材設置、窒素ガス注入装置、ビデオカメラなどによる総合監視システムの設置などを行なう。がちがちの対策を取ったようだが、例えば、大口径のドレン管に変えても最終的なドレンタンクへの入り口は従来のままの径のようで、これで十分な効果が上げられるのか不安が残る。逆に、ここも大口径に変えると今度は熱衝撃でオーバーフロータンク自体の破損のおそれが高まる。
 事故後のナトリウム漏洩実験では床ライナに大小5個の穴が開いた。動燃事業団(当時)はナトリウムと鉄板との高温下での化学反応(溶融塩反応)についての知見を持っていなかったと言う。しかし、追加対策の中で、床ライナの厚みを増すことは全く考えられていない。
 第三に、蒸気発生器への対策である。具体的には、蒸発器伝熱管からの水漏れ=水・ナトリウム反応事故への対応として蒸発器カバーガス圧力計の増設と伝熱管内の水・蒸気の排水(ブローダウン)性能を高める放出弁の追加工事などが行なわれる。カバーガス圧力計は蒸発器に増設しただけ(過熱器は従来のまま)、圧力を伝える通信系統は一つしかなく、ここが故障すれば役に立たない。
 これらは、伝熱管の高温破損(ラプチャ)への対策として出てきているのだが、この高温破損について旧核燃機構は隠し続けていた。裁判闘争の中で原告側が明らかにしていったものである。追加対策によって、高温破損は防止できると安全評価しているが、高温破損に関する実験は過去に2度程度しかなく実証性に乏しい安全評価である。
 これらは主としてナトリウムに係わる対策であるが、これで「もんじゅ」の安全が高まったとは言えない。「もんじゅ」の本来の危険として指摘されている暴走事故や上部引き回し構造という配管設置の耐震安全性の弱点などは依然としてある。さらに10年の歳月は、ナトリウムの劣化、機器類や配管の劣化をもたらしているに違いない。11月1日から始まった「もんじゅ」安全性確認検討会(原子力安全・保安院原子炉安全小委員会の下部)が課題として掲げる「長期間使用していない機器・システムや燃料等の健全性を確認」がどの程度行なわれるのか? 機器類のすべてをチェックすることなど不可能で、住民が求める安全は確認されないだろう。なによりも健全性確認といってもその法的な枠組みがない。
 加えて、従来指摘されていなかった活断層が地震調査会の調べで分かってきたという。それによれば、浦底断層から滋賀県に続く柳ケ瀬山断層が連続したものとして、敦賀湾の海底でつながっていると指摘している。旧核燃機構は、建物や機器類の固有振動数は秘密のまま、想定外の地震であるが計算結果では大丈夫としている。その客観性を示すものはないのだ。調査はさらに若狭湾へと延びているが、調査結果は耐震設計を上回る恐れがある。改良工事でも「もんじゅ」の安全が高まったとはとてもいえない。
 原発に反対する福井県民会議を中心に当室も主催団体に加わって、「もんじゅ」の廃炉を求める大きな現地集会を12月10日に行なった。集会では、市民サイドの監視委員会を設置して改良工事の監視を進めながら、廃炉へ向けた大きな取組を進めていくことを確認した。
(伴英幸)

『原子力資料情報室通信』379号(2006.1.1)
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