インド・パキスタンの市民社会グループ:日本政府への要望
2007年2月1日
安部晋三総理大臣
麻生太郎外務大臣殿
私たちがこの書簡をお送りするのは、インド・パキスタンの市民社会グループ及び民衆組織のメンバーまたは代表として、核供給国グループ(NSG)の重要なメンバーである日本がその地位を活用し、米印核取引(nuclear deal核合意)に関するNSG内部での議論や決定過程において必要な情報を提供することを検討して頂くよう要請するためです。
米印核取引を実施に移すには、NSGの加盟国すべてが、原子力関連貿易に関する国際的な規則においてインドを例外扱いにするとの決定をすることが必要です。NSGは、コンセンサスで物事を決めますから、45ヶ国すべてが(日本も含め)協定を承認しなければならないのです。そして、このような決定がなされれば、それは核不拡散政策の歴史的な変更を意味することになります。なぜなら、NSGは、そもそも、主として、インドが「平和のための原子」プログラムのなかで供与された研究炉や再処理技術を利用して製造・分離したプルトニウムを使って1974年の核実験を行ったことに対する対応としてできたものだからです。
ここで米印核取引について私たちが抱いている懸念について簡単に述べさせて頂きます。特に、協定によってインドが核兵器用の核分裂性物質の製造を大幅に増大させることができるようになり、その結果、パキスタンが同様の措置をとることになる可能性があるという点に焦点を当てたいと思います。このような行為は、印パ間の核の対立をひどく悪化させ、両国や世界の人々が既に直面している脅威をますます深刻化させることになります。
2005年7月、米国のジョージ・ブッシュ大統領とインドのマンモハン・シン首相は、インドはその原子力計画用に原子炉とウランを輸入する権利を持つべきだとの見解を表明しました。この7月の合意は、米国が核技術の移転に関する自国の法律及び政策を修正するとともに、「インドとの完全な民生用原子力協力及び貿易」を可能にするために核燃料・技術の供給に関する国際的コントロールの変更のために努力することを定めるものでした。2006年、米国議会が米国の法律を修正し、その法案にジョージ・ブッシュ大統領が署名しました。
一方インド政府は、その核施設・プログラムの一部を民生用に指定し、核兵器施設群から分離して、これらの民生用サイトを自発的に段階的なかたちで2014年までに国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置くことに合意しました。インドは、民生用と見なされる核施設のリストを示していますが、IAEAとの間で適切な保障措置について合意するには至っていません。
民生用と宣言されて保障措置の対象となる施設の公式リストには、運転中あるいは建設中の国産発電用原子炉のうち8基しか入っていません(インドには、外国から購入したために保障措置の対象となっている原子炉が6基あります。)インドの残りの8基の発電用原子炉、さらには、すべての研究炉、プルトニウムを燃料とする高速増殖炉などは、軍事用プログラムの一部とされ、IAEAの保障措置から外されたままとなります。インドはまた、将来作る原子炉を民生用と分類するか軍事用と分類するかはインドに決める権利があると宣言しています。「核分裂性物質国際パネル」(15ヶ国の核問題専門家からなる独立グループ)用に作成された報告書は、核施設のこのようなかたちの分類と、協定で可能となるウランの輸入とによって、インドは、その気になれば、その兵器級プルトニウムのストックの伸び率を、現在の核兵器約7発分/年から40?50発分/年にまで速めることができると推定しています(http://www.fissilematerials.org).
パキスタンは、米印核合意についての不安を表明しています。パルヴェーズ・ムシャラフ大統領が議長を務めるパキスタン「国家司令部(NCA)」は、「[米印]合意によってインドがその保障措置下に置かれていない原子炉を使って相当量の核分裂性物質と核兵器を製造することができるという事実に鑑み、NCAは、我々の信頼性のある最小抑止力要件を満足させるとの堅い決意を表明した」と宣言しています。すなわち、南アジアの核分裂性物質製造競争が始まる可能性があるということです。このような競争は、危険であるとともに高くつくもので、南アジアにおける平和と発展のための努力の妨げになります。
NSGは、米印核合意を国連安全保障理事会決議1172号(1998年6月6日)に照らして検討するべきだと私たちは考えます。全会一致で承認されたこの決議は、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止し、核兵器化[実際の核兵器の製造]や核兵器の配備を行わず、核弾頭搭載可能な弾道ミサイルの開発及び核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めています。決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」しています。
私たちは、日本、そしてNSGのすべての国々に対し、インド及びパキスタンとのいかなる原子力協力も国連安全保障理事会決議1172号に書かれている条件を満たすものでなければならないと主張するよう要請します。最低でも、インド及びパキスタンは、核分裂性物質禁止条約(FMCT)が締結され発効するまでの間の措置として、核兵器用の核分裂性物質の生産を中断するよう義務づけられるべきです。
NSGの他のメンバーらにこれらの懸念について知らせるとともに、米印核合意が、南アジアに既に存在する危険をさらに悪化させることのないように、可能な措置を講じて頂くようお願い申し上げます。
この書簡の署名者リストの抜粋を以下に添付致します。
(同趣旨書簡の送付先: 河野洋平 衆議院議長
扇千景 参議院議長)
インド側署名者抜粋
M・V・ラマナ 環境・開発学際研究センター (バンガロール)
アチン・バナイク 核軍縮・平和連合(CNDP)全国調整委員会(NCP)(ニューデリー)
スクラ・セン 核軍縮・平和連合(CNDP)全国調整委員会(NCP)(ムンバイ)
プラフル・ビドワイ インド核軍縮運動(ニューデリー)
J・スリラマン 核兵器反対運動 (チェンナイ)
アンナ・ジョージ 国立免疫研究所 (ニューデリー)
ビニータ・バル サヘリ女性情報センター (ニューデリー)
ハーシュ・カプール 南アジア市民ウェブ
M・ムトゥカヌー INSAF (プドゥッチェーリ)
G・スグラマン 人民権利連合(FPR) (プドゥッチェーリ)
パキスタン側署名者抜粋
A・H・ナイヤール博士 パキスタン平和連合会長 (イスラマバード)
B・M・クティー パキスタン平和連合事務局長 (カラチ)
カラマト・アリ パキスタン労働経済研究所(PILER)所長 (カラチ)
イムティアズ・アラム 南アジア自由メディア協会(SAFMA) (ラホール)
パルヴェーズ・フードバーイー博士 カイゼ・アザム大学物理学教授 (イスラマバード)
M・ジアウディン 『ドーン』紙編集者 (カラチ)
アリ・エルセラン博士 CREED (カラチ)
サバ・グル・カタック博士 持続的発展政策研究所所長 (イスラマバード)
アスラム・クワジャ パキスタン社会フォーラム (ハイデラバード)
アンワール・アッバス ハビブ教育トラスト